【青】折れる剣
結われていた後ろ髪がほどかれ、黄金色の髪が翼のように舞った。
『アマーリア』は虚無をその表情に宿しながら、ゆっくりと腕を上げた。
「このっ……!」
クレイユは即座に反応する。
しかし『アマーリア』は己の胸に突き刺さった魔剣に手を当て――強引に引き抜いた。
厭な音がした。
剣ごと跳ね飛ばされたクレイユが館の屋根から落ちていく様が見えた。
ケイは叫びを上げて空を蹴った。
赤い幻想をまき散らしながら一刻も早くクレイユの下へと向かう。
「クレイユさん!」
“クレイユさん!”
思わず二重に言葉を上げながら、ケイは屋敷の庭へ叩きだされたクレイユの身体を起こした。
「うう」とクレイユは苦悶の表情を浮かべている。
突然の敵の再始動により防御用の言葉が漏れ出していた。
ケイは愕然としながら彼女の名を呼びつけた。すると彼女は悲痛に顔を歪めながら、
「剣を……私の――」
はっ、としてケイは辺りを見渡す。
廃墟の中、この庭園だけはつい最近まで丁寧に手入れされていたらしく雪や草木も整えられている。
それ故に彼女の求める剣はすぐに見つかった。
剣は、折れていた。
魔剣『ビズワディ』は剣身部分が地面に突き刺さり、残された柄より青い幻想が煙のように立ち昇っている。
回収は不可能だ。
テクストコンバータが爆発しなかったのは幸運といえるだろうが――
「――――」
頭上より視線を感じたケイは顔を上げる。
そこには屋根の上より顔を出す『アマーリア』の姿があった。
彼女は眼下の二人を嘲る訳でも威嚇する訳でもなく、人形のようなどこかぎこちない動きで手を広げ、そこに再び幻想を収束させていく。
「お前……」
「逃げますよ!」
ケイはクレイユを抱き上げ『ルジエクォード』に言語を展開させた。
赤い画面内にクレイユと同乗《、、》する形で二人は飛び上がった。
背中から迫りくる『アマーリア』から逃れるべく、ケイは飛ぶ。
「……お前だけでいいわ」
その最中、クレイユがそう声を漏らした。
「剣を喪った私なんて、ただの荷物でしょう。置いていけば、いいじゃない……」




