【青】『アマーリア』
【人間】
言葉を解する者。言葉を解するのなら、猫であれ、鬼であれ、妖精であれ、機械であれ、竜であれ、それは人間と呼ばれる。
逆に言葉の通じないものは、どんな姿形をしていても異形であり、人ではありません。
ケイは必死にクレイユを抱きしめた。
そして飛んだ。真っ赤な画面を展開し、白い空を猛然と駆け抜けていく。
――速く
『ルジエクォード』のテクストコンバータが膨大な幻想を吐き出していく。
視界を埋め尽くすほどの赤は暴力的な推力を生み出し、彼を翻弄していた。
元より真っ当な訓練など受けていない彼にとって『ルジエクォード』はあまりにも神経質で言うことを聞かない騎体だった。
――もっと、もっと速く
それでもケイは必死に飛ぶ。
それしか道はないからだ。敵は背中から追いかけてくる。
この街の中心に立つあれは、その街すべてを巻き込んで無差別の破壊を振りまいていた。
濁り切った幻想が嵐となって街を包み込む。
雪を跳ね飛ばし、瓦礫を舞い上がらせ、既に朽ち果てていた街を“なかったこと”にする勢いだ。
あの嵐に触れてしまえば最後、画面を貫きケイとクレイユもまたこの世から消滅するだろう。
「……お前だけでいいわ」
迫りくる嵐から必死に逃げる中、不意に腕の中から声がした。
「剣を喪った私なんて、ただの荷物でしょう。置いていけば、いいじゃない……」
それはひどく投げやりな声だった。
視線を合わせず、力もなく、ひどく弱々しい声だった。
普段の彼女からは考えられないような口ぶりでクレイユはケイにそんなことを言うのだ。
そんな彼女に対して、ケイは猛烈な怒りを覚えた。
「馬鹿言わないでください! そんなこと、する訳ないでしょう!」
その口ぶりがケイには許せなかった。
何故自分がそんなに怒っているのかわからないほど、彼はこのクレイユに対して激情を抱いていた。
クレイユを抱くその腕に力が込められる。
ぐっ、と跡がつきそうなほど強く抱きしめるとクレイユが痛みに顔を歪めるのがわかった。
「――――」
ケイはクレイユを無視して飛び続ける。
その最中、背中をちらりと一瞥する。そこには乱舞する幻想の中心で、災禍を振りまく少女の形をしたものが異形がいた。
敵は、ひらひらと舞うスカーフを身に着けていた。
“アマーリア。高次幻想干渉第三研究施設にて開発されていた少女機械の中の一騎。型番は17であり、刻まれた言語は『奇跡』を意味する……”
『ルジエクォード』に搭載された蔵書が照合結果を表示していた。
だがケイにはその意味が掴めない。一体この敵が何者であるのか。
何故こんなものが自分たちをまるで待ち構えていたかのように廃墟に存在し、出会うなりこちらを襲ってきたのか。
全くわからないまま、ただ二人は逃げていた……




