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【青】エアーリアル・クロス・コンバット

「民間人が戦場に出て!」

「でもこれができるのは、僕だけでしょう?」

「後ろ向きな理屈だわ」

「じゃあこうです! 僕がこうしたかったんです」


そう言い合いながらも、二人は残る三騎の敵と相対する。

敵は前衛後衛といった形でなく、ケイとクレイユを囲むようにぐるぐると回る形で飛んでいる。

さきほどの『ルジエクォード』の火力を警戒しているのか、すぐに飛び込んでくるということはなかった。


「ねぇお前」

「はい、クレイユさん」

「着いてきてね、死にたくなかったら」


その言葉と共に、クレイユはケイの前へと躍り出た。

ふわりと青い髪が舞う。

その様を大きく見開いた眼で見たケイは「はい!」と大きな声を上げて、加速し出した彼女の背中を追いかけていった。

『ルジエクォード』の剣身ブレイドに赤い幻想が再び収束していく。

コンバータにより排出された幻想は、辺りに無秩序を巻き込んで広がっていく。


“本当、馬鹿みたいな高出力なのね、その新型”


飛びゆく最中、そんな言葉こえが聞こえた。

かと思うと、前を行くクレイユに無数の砲撃ショットが放たれていた。

襲いかかる幻想の弾丸を、しかしクレイユは意にも返さない。

『ビズワディ』を駆り、青い幻想が弾丸を斬り裂いていく。

その無駄のない動きは、ケイの『ルジエクォード』の力に身を任せたそれとは正反対だった。


“私が守るから、その間お前はにその馬鹿みたいな火力を振り回して”


その言葉こえが聞こえたときには、敵の三騎が射程範囲内に収まっていた。

画面バリアに表示された敵の情報を捉える。


「僕が撃つ!」

“放出《LeBwJO》”


その言葉こえと共にコンバータが唸りを上げる。

赤い幻想が濁流のように空を埋め尽くした。

指向性もろくにつけずに放った幻想は、しかしそのあまりにも膨大な量により、嵐となり濁流となり、敵をすべて呑み込んだ。


“あとはこちらで撃つ”


敵の足を止めた――その隙に上昇アップしていたクレイユは高度を盾に残る敵へと襲いかかる。“四つ”青い閃光が赤い空を走る。“五つ”


「――――」


流れるように敵を撃破していく様に、ケイはそう、見蕩れていた。

だが、そうして戦場で止まっていることは、決して行ってはいけないことだった。


“お前! 行けない、あと一騎!”


その言葉こえを聞いてケイは、はっ、とした。

赤い空を突き破るようにして、残る最後の敵が躍り出た。

シンプルな造形の魔剣『ハスカール』だ。敵は必死の形相でケイへと突進してくる。

バイザーにはひびが入り、口からは言葉には聞こえない叫びが上がっている。

だがその叫びに込められた鬼気迫るものは、彼の持つ戦い熱――ケイへの殺意を雄弁に語っていた。


「クアッドォォォォォォォォ!」

“僕だって! 僕だって!”


ケイはその敵意と相対し、反発心に似た想いに突き動かされるようにして剣を振るった。

『ハスカール』の刃が迫る。

だがそれを押しつぶすように『ルジエクォード』の赤い刃を敵へと振るった。


“お前!”


ぐしゅり、と妙な音がした。

そして生温かいものが頬に飛び散った。

『ハスカール』使いの敵が堕ちていくのが見えた。

幻想に堕ち潰され、身体が「く」の字に曲がってしまっているのが見えた。

はじけ飛んだバイザーの向こうからは涙が舞い上がっていた。


そして――次の瞬間、耳をつんざくような爆発音が轟いた。


魔剣のテクストコンバータを力任せに貫いた結果だ。

暴走した言語テクストが一瞬で放出され巨大な爆発を招いた。

濁った赤い幻想リソースが空にはじけ飛び、純白の平原を汚していった。


「僕だって……何だよ」


自らが赤く染め上げた空を見下してケイはそうぼそりと呟いた。

冷めやらぬ興奮の中、心臓は痛みすら感じるほど激しく鼓動を刻んでいる。

柄を握りしめる掌は汗にまみれ、それと対照的に喉はとても乾いていた。


“……これでお前も嫌われ者ね”


不意にクレイユがそう呼びかけてきた。

彼女はケイを見下すような位置で止まっている。

手を伸ばしてもきっと届かないだろうな。

なんとなく、ケイはそんなことを考えた。


“でも、貴方がこれは自分のためだと本当に思うことができるなら、きっと胸を張って生きていけるわ”


そう、彼女は告げて飛んでいく。

きっとキャロルフーケ2へ帰るのだろう。

彼女が確かに守った、自分の居場所へと。


ケイはそこでもう一度眼下を見た。

墜ちていった敵の死体は、もはやどこにも見えなかった。

ただ世界はやはり様変わりしてしまったように思う。

虹の空、暗い森、どこまでも続く雪原。目に見えるものは何も変わらなくても。


「“城”にいきたいな」


ぼそりとケイはそう口にした。

それは――胸に刻まれた、自分自身の終着点だった。



 ◇



「『ビズワディ』『ルジエクォード』共に信号を確認。帰投するようです」

「了解、整備士どもにはすぐに取り掛かれるように伝えておけ」

「騎士長補佐、先行していたクリオ隊ですが――」


飛び交う連絡をとりまとめつつ、レニは今しがた起こったことを整理していた。

とにかくクレイユとケイが生き残ったのは喜ぶべきことだ。

犠牲は大きかったが、場合によっては全滅してもおかしくなかった局面だった。


だが考えなくてはならないのは、何故このようなことになったか、だ。

敵は明らかにこちらの作戦を事前に察知した動きをしていたが、あの短期間で組み立てられた作戦が漏れることなど、早々ありはしない。


だから、考えるとすれば――


「……内通者、か」

レニはぼそりと呟いた。

小さな、誰にも聞かれないほどの声だった。


次回でまた視点変わります。

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