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【青】たった一人のくせに

【幻想】

この世界、マアジナルにおける、すべての力の源。カタチはきらきらと輝く粒子で、世界中を風で舞っています。これが薄い場所では魔剣の動きが鈍かったり、逆にあまりに濃かったりすると、誤作動の原因となります。

また元々呼び名は安定しませんでした。魔力マナであったり、エーテルであったり、プラーナであったり、各魔術体系によって名前はまちまちで、そもそも違うものであると考えられていたのです。

でも、それもある日、ジャベリンという偉大な魔術師エンジニアが統一の言語テクストを完成させたことで一変しました。

今では幻想リソースとしか呼ばれません。


その姿は千年ほど前に存在したという、『竜の母』を模したものだとか。

わんをひっくり返したかのような丸みを帯びた胴体に、薄い緑を基調としつつも要所に可動部には灰色が使われた色彩などといった部分が、伝説上の記述に合致している。


13世紀にジャベリン研によって造られたと思しき代物で、兵器としては正直、骨董品もいいところだが、テクストコンバータや操舵系は改装が行われているらしい。

第三魔術言語に対応しているなど、現行兵器として最低限の機能は保持していた。

本当に本当に必要最低限。

クレイユは機械伯によって用意された言語船テクストシップを見上げ、そんな分析していた。


「先の襲撃でカーゴ級がやられましたからね。新しい船が必要なんです。そこで機械伯がこいつを提供してくれました」


ふとそこで、背後から声をかけられた。

クリオだ。

彼女はひどく平坦な口調で、言葉を続ける。


「名はキャロルフーケ2、というらしいです。チャチな代物ですが、背に腹は代えられません。これがROUGEルージェ隊の足になります――隊長」


淡々とした声色の中、最後の単語にのみ力を入れてクリオは言った。

クレイユは振り向かずただ一言「そうか」と漏らすのみだった。

それからしばらく二人の間に沈黙が舞い降りる。

視線も交わさず、さりとてどちからが離れることもなかった。自分から去れば、負けたようなものだと、そんな意地があったのかもしれなかった。


先ほどの所属不明騎の襲撃により、塔は混乱の渦に叩き込まれていた。

戦火の傷跡は深く、最上層は破壊された瓦礫の撤去や負傷者の移送で人がせわしなく行きかっている。

特に被害が深刻なのは塔のインフラ周りが破壊されたことで、これは管制者であった妖精・フリーダが殺害されたことが原因だ。


塔全体のOSともいえた彼女を喪ったことで、この基地は現在機能不全に陥っている。空調や昇降エレベータといった最低限の機能は、魔術師エンジニアたちによる応急措置で維持しているが、それもいつまで持つかわからない。

そんな中、クレイユは何もしないで立っているだけだった。


「……E1の追跡は?」

「やってます。この雪です。奴らもそう遠くにはいけないので、すぐに捕まるでしょう」

「そうなのね」


クレイユが何も言わずとも、隊は機能するようだ。

当然だ。そもそも自分に誰も指示など仰ぎはするまい。

ただ襲撃後に生き残った正規軍人の中で、第三騎士以上の階級を持っていたのがクレイユ一人だったが故に、暫定的に隊長などと呼ばれるようになっただけだ。


なのでクレイユの立ち位置は変わらない。

隊の隅で一人黙々と剣を磨き、一人で次なる戦いを待つだけの、そんな立ち位置だ。

そう思い、クレイユは息を吐いた。ひどく喉が渇いていた。


「部隊員の選出・装備の調達が終わり次第、このキャロルフーケ2でE1を追撃します。時間が見えましたら知らせますので、隊長はその時点では船にいてください」

「行くわ」


そう短く言って、クレイユはクリオに背を向ける。

『ビズワディ』で飛ぶことはしない。何故だかそんな気分にはなれなかった。

ふらふらと彼女は当てもなく歩き出す。


「……誰もいないのね、あの人は、いなくなってつらい人が」


途中、後ろからなじるような声が聞こえた。


「サキトが――いなくなったっていうのに」


いつも快活な顔を浮かべていたクリオは、わざとクレイユに聞こえるように、喪った大切な者の名を呼んでいる。

先の戦闘、敵の卑劣な不意打ちにより多くの同志が命を落とした。

だがそれを悲しんでいる余裕はない。奪われたものを取り戻すため、急ピッチで部隊の再編を進めなくてはならない。

だから、隊員たちは必要以上の言葉を漏らさなかった。

今はそのときではないとわかっているためだろう。


「死んじゃったら、何もなれないんだよ。サキト、ねぇ……」


だがそれでも、隙間のような時間で一人になったとき、ふと喪った者の大きさに気付くのだ。

またすぐに職務に戻るのだとしても。


「…………」


だがクレイユには呼ぶべき相手がいない。

だからずっと一人でいてもつらくなどなかった。

そう思い、彼女はクリオに背を向けて立ち去った。


「たった一人のくせに」


遠くで、そんな声が聞こえた気がした。


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