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SoleiU Project  作者: 賀田 希道
四小邦国動乱
63/310

死の鉄剣

 ゆらりと立ち上がった喪服の女をシドの双眼が捉える、長さが違う二振りの剣をにぎり、右手を突き出し、左手を後ろへ下げる。明らかなカウンターを狙っている構えだ。


 試しに鑑定スキルを用いて彼女の持つ武器、レベルを図ろうとするがそれは妨害された。レベルが100は超えていないとできない芸当だ。相対する相手のレベルが100を超えていることを念頭にシドはどう動くかを考えてゆく。黒真珠の杖を手の中で回転させ、その手順を一つ一つ確かなものへと秩序立ててゆく。だが相手がそれを待ってくれる道理はない。


 沈黙を破り、レストアがシドに接近する。無詠唱化した火球がレストア目掛けて飛ぶ。彼女はそれを技巧(アーツ)を用いて切り裂いた。「邪馬斬り」か「空間切断」のどちらかだろうとシドは考察しつつ、宙へ飛ぶ。もし後者であるなら厄介だ。


 空間を文字通り切断する技巧「空間切断」が取得できるレベルはシドの知る限り105レベル以上だ。少なくとも相手はそれだけの練度を有していると考えねばならず、必然的に予想される相手の攻撃手段が増えることになる。技巧「飛弾天(ヒダテン)」を用いて天井まで逃げるが、レストアはすぐさま目の前まで接近してきた。筋力、脚力と共に戦士に劣る魔法使いでは逃げきれない道理だ。


 繰り出された重撃、それを黄金の障壁でガードする。しかし障壁を彼女の剣はすり抜け、深々と一撃を食らわせた。見誤ったな、と落下しながらシドは舌打ちをした。


 ダメージとしては見た目ほどではない。あらゆるスキル、魔法、技巧の中でも空間属性は最上位に位置してはいるが、レストアが放った一撃はまだ練り込みが余った。スキルや技巧を10段階評価で表すならば1か2だろう。想像していたものの何倍も軽く、しかし嫌な現実を叩きつけられる一撃だった。今の一撃を受けてある程度レストアのレベルは理解できた。おそらくは107から110前半といったところだろう。それ以上とは考えられなかった。ここに味方がいなければ迷わず雷霆を放ち一件落着できるのに、と歯痒い気持ちを覚えつつ、地面に着地する。


 直後、天頂から突きを放つレストア相手にシドは無数の紫電を放った。明らかに「空間切断」では対処できない数だ。彼女の剣が空をかき、放たれた紫電を寸断していくも間に合わない。紫電のアギトがレストアに食らいつき、体内めがけて肉が断裂するかのようなダメージを与えていく。


 めまぐるしい放電、轟く彼女の絶叫、だがまだ安心などできなかった。魔法一発で倒せるほどレベル100以上の人間は生優しくはない。黒煙を発しつつもレストアは立ち上がる。黒いヴェールのせいで表情を伺うことはできないが、どこか苛立っているようにシドには見えた。


 死の鉄剣(グアサング)を引き抜き、シドは相手の次の行動に備えようとする。両者の間に短くも長く感じる間が生じ、それは唐突に打ち破られた。最初に仕掛けたのはシドだ。短縮詠唱(クイック・キャスト)により発生させた雷の槍を携え、レストアに突貫する。彼女はそれに対抗しようとなんらかのスキルを使用して剣に炎を纏わせた。


 プラズマの塊が互いに交錯し、バチバチと火花が玉座の間の一角で舞った。片や紫電の暴威、片や大紅蓮の暴威だ。蛇行する雷電と逆巻く炎が激しく衝突し、空間に亀裂が走った。激しい押し合いの果て、シドがその押し合いに勝利し、大扉を突き抜け、レストアを王宮内の庭園に叩き落とした。


 土煙が舞い上がり、砕けた窓ガラスの破片が天上から降り落ちてくる。頬や肩を破片がかすめる中、シドは落としたレストアを探した。土煙のせいでろくに見えはしなかったが、確かに遠目に黒いシルエットが見えた。やがて土煙が晴れ、両者は互いの姿を視認する。だがシドはその時少しだけ放心してしまった。


 レストアの素顔がさらされていた。


 叩き落とされた衝撃でヴェールが落ちたのだろうと予測ししつつ、じっとりとシドはレストアの素顔を観察する。非常に細くもメリハリが整った顔立ちだ。質実剛健といった印象はなく、また女性的というわけでもない極めて中性的な顔立ちであり、髪も女子バスケットボール部の主将のような短髪だ。起伏のない体型も相舞って男か女かの区別がつかない。一物があると言われたら信じてしまったかもしれない。


 いや、一物の有無など関係なく、目の前の剣士は男だった。同じく男であるシドの直感が彼は男だと訴えていた。根拠のない直感だ。ひょっとしたら間違っているかもしれない。そんなどうでもいい考えが脳内を支配し、ほんの数秒間だけシドは放心していた。


 「——お前、男?」


 だからだろう。おおよそ戦場には似つかわしくない質問がポロリとシドの口からこぼれた。シドのその言葉が不快だったのか、眉間に皺が寄った。


 「二度と私を男と言うな」

 「ああ、そういう趣味ね。まぁ人それぞれだけどさ、趣味趣向は」


 そう。女装だって立派な趣味だ。それを差別することはできない。だが女性として見た場合あまりに魅力を感じず、また男性として見た場合も肉体美に欠ける。男の娘ってふたなりと何が違うの、と二百年以上シドは思い悩んでいた。そしてその答えがついに目の前に現れた。


 (やっぱ気持ち悪りぃ。男と女でかっきり分けろよ。あーもー最悪)


 やる気がなくなり、シドはため息をついた。久方ぶりのレベル100を超える猛者、それも戦士との戦いに心震わせ、わくわくしていた昂りが一気に冷めていった。しなびていく闘気は切実に彼の体に流れ始めた闘争の血が抜けていくのを感じ、それまで上げていた杖を下ろしてしまった。代わりに死の鉄剣を振りかぶる。


 底の見えない峡谷の闇を切り取ったような刀身の鉄剣、それは見ているだけで逃げ出したくなるような恐怖を感じさせる邪悪な鉄剣だ。原初の魔剣と呼ばれるこの世界に一振りしかない呪われた剣を無言のまま一薙ぎする。


 レストアはその一撃に耐えようと双剣を交錯させるが、それを意味がない。そもそも物理的な防御で死の鉄剣を受け止めることは不可能だ。死の鉄剣は神話級武装だから、という面もあるが、その固有能力がすべての神話級武装の中でとびっきり危険だからだ。


 「スキル発動、X(Xecution)e( of the)L( Lowest )O(Orbitals)


 死の鉄剣の固有能力は四つある。一つは所持者が悪行に手を染める度にステータスを上昇させるというもの。装備時に限るが、シドがレベル100を超える戦士と渡り合えている理由はこれだ。残る三つの内二つはシドでは使えないが、彼にとって最も重要なのは残る最後の能力だ。


 それこそが死の鉄剣の固有能力「XeLO」だ。内容はシンプルで「鉱石系のアイテム、武装の保持者あるいは種族に対しての絶対特攻」である。この世界のほぼすべての武装はなんらかの鉱石を使って生産されている。つまり、死の鉄剣から逃れようと思えば鉱石系の種族でない種族が近接格闘(テクニシャン)系のスキルや技巧を身につけ挑む以外に道はない。


 一閃を受けたその瞬間、レストアの体の隅々まで亀裂が走った。彼/彼女の身に纏っていたチェーンメイルや装飾品、幻想級の双剣すべてが塵すら残さず粉砕され、そして彼/彼女自身もまた最後の言葉すら言えず、ドレスだけを残して消滅した。


✳︎

次話投稿は10月7日21時を予定しています。


※シドの持っている六振りの剣の紹介


 死の鉄剣グアサング。等級、神話級。固有能力:装備時のステータス上昇。鉱石系のアイテム、武器の装備者あるいは種族への絶対特攻。味方攻撃フレンドリーファイヤの確率増大。邪霊系種族装備時に人間種への攻撃に即死効果付与。


 生の鉄剣アングレイル。等級、神話級。固有能力:死者特攻。装備時ある一定領域までの生命力低下を抑制。装備者に虚言看破スキルを付与。絶対不破属性保有。


 折れた剣ナルシル。等級、神話級。固有能力:なし。折れている状態ではただの鉄剣。


 王の怒りアランルース。等級、神話級。固有能力:剣の軽量化。オーク鉄特攻。水中呼吸スキル付与。邪霊特攻。光のエルフ装備時下記の固有能力が開放される。太陽からの生命力、魔力、精神力の無限提供。白鳥への変身能力付与。スキル「天空航海」取得。スキル「光碧」取得。レギオンレイドボス級のステータス取得などがある。


 智公の剣ファラムサング。等級、幻想級。固有能力:不明。


 盟友の剣ハイルアルクリスト。等級、幻想級。固有能力:兄弟剣アラルエルサングの現在地把握。エルフ種装備時、兄弟剣アラルエルサング保持者の現在地へ転移可能。

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