11´.扉からの侵略者①
「エイッ! 大丈夫かッ!?」
その場から身動きを取れずにいるとタクトが駆け寄ってくる。
Aは差し出された手に支えられながらなんとか立ち上がった。
「タクト君……あ、ありがとう」
体育館だけでなく学園全体をも揺るがしたのではないかというほどの凄まじい衝撃はそれでも一瞬の出来事の様で既に収まっている。今はこちらを照らしていてくれた照明がふらふらと揺れているだけだ。
「い、一体なにがあったの……!?」
「分からないっ。けど、悪い。――どうやら案内はここまでになりそうだ」
タクトは申し訳なさそうに笑みを浮かべる。その表情は少しだけ強張っているようにも見えた。
〈――ビルジ湖にてゲーター出現。生徒の皆さんは各部長委員長の指示に従い、速やかに行動してください。繰り返しますっ。ビルジ湖にてゲーター出現っ!〉
体育館の内部、さらには外部から同じ生徒の声が鳴り響く。どうやら学園全体に放送がかかっているようだ。
「――ビルジだと!? 学園の敷地内じゃねーか!」
「ビルジ湖…………?」
タクトの叫びにAはハッとする。というのも今放送で流されたビルジ湖にはこの後向かう予定だったからだ。学園の敷地内に収まっているその湖は大変景色が良いらしく、そこでそのまま昼食をとろうという話だった。だが、今はもうそれどころではない。
「――ターニャッ、そっちはどうだ!?」
「もう少し待ちなさいっ。――――大丈夫、体育館の外からはなにも聞こえてこないわ。今なら外に出ても平気なはずよ!」
先ほどの揺れからなにやらしゃがみ込んでいたターニャが目を閉じながらこちらに足を進める。Aたちにはここから外の様子を知るすべなどない為、恐らく何らかの動物の力を借りて聴覚を強化しているのだろう。
「よしっ、外に出た瞬間即戦闘ってことはなさそうだな。――エイ、取りあえず外に出るぞ! 走れるか?」
「う、うんっ!」
タクトに手を引かれ体育館の出口へと足早に向かう。こんな状況でもAを気づかってくれているようで、こちらの走るペースに合わせて走ってくれていた。
バンッ。あと少しで出口の扉に到達するという寸前で、体育館倉庫の扉が開け放たれる。そこから飛び出してきたのは先ほどのローブを羽織った生徒だ。
「先輩方っ、大変ですよぉ! なんか今回のゲーター匂いがいつもよりも濃いんですっ。これもしかしたら一体だけじゃないかもですっ!」
現れたローブの生徒は先行していたAたちにごくごく自然に加わる。
「まじか……! おいおい、昨日の今日だぞ!? 一体だけでもきついってのに――」
後方から聞こえてくるその声が誰なのか分かっているのだろう。タクトは振り返るそぶりも見せずに答えてみせるが――、
「痛っ――ど、どうしたのタクト君?」
出口の扉を開け放ち一歩先に外へ出たはずのタクトの背にAはぶつかる。先頭が突然立ち止まってしまったからだろう。同時にこちらの背にもまた小柄な少女の重量が伝わってきた。
「ちょっとっ、タクト!? なに立ち止まってんのよぉ!」
「あ、あぁ。そ、そうだよな。悪ぃ、な」
すぐ後ろからのターニャの声にボーっと突っ立ていたタクトは自身が塞いでしまっている出口をA達に譲る。上空のある一点から決して視線を外すことなく、だ。
そんなタクトの顔を覗き込みながらAも体育館の外へ。するとその瞬間、異変に気がついた。
「あ、あれっ? 今って昼だよね?」
体育館を訪れたときとは一転。薄暗い景色にAはキョロキョロと周囲に目を向ける。夜――とまではいかず、かといって日の光を雲が隠した程度の暗さではない、そのちょうど中間をとった薄暗さ。なぜだか心がざわめく、不安を煽るかのような光景だった。
明らかに異常な光景にAはそこにあるはずの光源の方へと目線を上げる。ちょうどタクトが見つめている方向と重なり合う空の一点にその元凶は存在していた。
「――光の輪……?」
思わず言葉が漏れる。本当であれば地上を照らし続けるはずの日輪。その姿は変わり果てたものとなっていた。
中天に座していた巨大な球体の中心はことごとく黒に塗り潰され、その機能の大半を失っている。今となってはなんとか無事な光の端からリング状に輝きを漏らすことしかできていない。
「さっきまであんなに明るかったのに、どうしてっ!?」
未だに気持ちを落ち着けることができないAはタクト方へと顔を向ける。妖しく光を漏らすそのリングを見つめていたタクトはようやく視線を下へと落とすと息を吐いた。
「――こんなことができんのはゲーターしかいねぇさ。ったく、ほんとうに滅茶苦茶やってくれるぜ……」
「――――っ!?」
これがゲーターの仕業? Aはもう一度上空へと目を移す。当然存在するのはリング状に光を漏らす日輪。いわゆる皆既日食と呼ばれている現象が起こっている。
しかし、いくらゲーターが規格外だからとはいえ、ここまでの大事を引き起こすことが可能だとはとても思えない。
Aはタクトの言う事実をにわかには信じられなかった。いや、それよりも信じたくなかった、が正しいかもしれない。出現するだけでこんな芸当ができる生物など、モブだった自分の常識をあまりにも外れすぎている。
「タクト、A、話は後よ! いつここも危険になるか分からないんだからっ。アンタ達はとにかく校舎に急いで! ウチは人数揃えてこのままビルジに向かうわっ!!」
「りょーかいだ。 オレ達もすぐに行くからよ。無茶すんなよ」
「当たり前でしょう。Aを送り届けたらすぐに来なさい。――でも、最優先はAよっ!」
ターニャはタクトの肩をガシッと掴み念を押すと、自身の腕を翼に変化させ猛スピードで飛んでいった。
「っつぅーわけだっ。エイ、あいつの言う通り校舎に行くぞ。学園の中っつってもビルジからは多少の距離がある。このまま外にいるよか安全なはずだ!」
「わ、分かったっ」
再び手を引かれて走り始めるA達。その間にもなにやら放送が続いていて、連絡が欠かされることはない。先ほどから野球部とか、自動車研究部とか、保健委員といったような単語がちらほら耳に入ってくる。




