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9´.モブな少女と主人公③

「それじゃあタクト君は漫画の世界で重要だった()()がそのまま能力になったんだ?」


「そーいうことだ。まっ、異世界人の能力は少なからず前の世界の影響を受けるらしいからなぁ。納得ちゃあ納得だな。それでも最初は衝撃的だったよ。今まで感覚的なもんだった気力が、こっちの世界ではこうして見ることができるんだからさ」


 するとタクトは少し離れた位置で後片付けをしている審判役のローブ姿をした女子生徒に一声かけ、ボールを受け取る。そして、先ほど試合でも見せたような綺麗なフォームでシュートを放った。


 なんの変哲もないシュート。だが、さっきまでの話を聞いたからだろう。Aの目からでもようやく変化に気がつくことができた。


 体育館の明るい照明で本当に分かりづらいが、よく見てみるとボールから手が離れる瞬間に先ほどの気力がボールへと伝わっている。このエネルギーを利用してタクトはあの正確なシュートを放っていたのだろう。今まさにネットを揺らしたそのシュートは一つのブレを生じさせることもなくまるでゴールに吸い込まれているかのようだった。


「――気力で自分とボールを強化すればこんな風にシュートの精度を上げることだってできちまう。相手から妨害でもされない限り確実に得点を取れるくらいには、な。――正直に言っちまうとマンガ的には全く面白くねぇ力だよ」


「た、確かに……そんな力があったら途中で飽きられちゃう、かも……。でもでもっ、その力のおかげであんなに大きなゲーターとも戦えたんでしょう? だったらすごい能力だよっ!」


 外的要因がない限り必中の精度を誇るシュートを持つ主人公。そんなキャラがいたら確かに強力だ。とはいえ、この手の力は成長させづらい。もう完成されているのだから。これが最終局面なら盛り上がるが、最初からそうなら盛り上がるのは連載初期だけだろう。


 ただ、それは前の世界での話だ。ここはファンタジー世界。強大なゲーターとの戦闘が待ち受けている。だとしたら〝気力強化〟はかなり強力な能力だ。


「って思うだろう? でもなぁ、そうはうまくいかないんだわ。――もう一回、見ててくれな」


 タクトは苦笑しながら再びボールを受け取る。手の中でくるりとボールを回し、先ほどと同じく見事なフォームでシュートを放つ。


「――入れっと」


 それから数瞬後。トントンと軽い音を響かせながらボールが小さくバウンドする。だが、その音はゴールの下から聞こえてくるものではなかった。ゴールよりも手前、ちょうどボール三個分くらいの所で前へと進みながら静かに跳ねていたそれはやがて静止する。


「くそー、この距離じゃやっぱ入らねぇか。まっ、今見てもらった通りでさ。オレの能力、使えるの一回だけなんだよ。どうやらオレ自身の気力の量が大したことないみたいでなぁ」


 タクトはそう言いながらターニャから投げ渡されたボールで、もう一度シュートフォームを作るも途中でやめてしまった。もうネットを揺らすことができないと分かっているからだろう。


「で、でもさっ。さっきの試合、タクト君一回もシュート外してないよね? 能力を一度しか使えないのなら、それはおかしいと、思うけど……」


「だな。本当だったらオレの得点はゼロか一――なんだけど、さっきターニャの手に触れたろ? 実はあの時に必要な分だけ気力を吸収しててさ。それでシュートを入れられたんだよ。だからさっきの試合も、こーして手を合わせたもらっていたってわけだ」


「な、なるほど。あのハイタッチにはそんな意味が……」


 自分の掌を合わせてみせるタクトを見て理解する。先ほどの試合。どうもやたらとハイタッチを求めてくるな、とは感じていた。その時はスポーツ漫画の住人だからこそと思っていたが、意味のある行為だったらしい。ハイタッチの度に生じた爽快感のようなものも、その瞬間に吸収が行われていたのなら説明がつく。ただ、気になることが一つ。――気力を抜き取られてAの身体は大丈夫なのだろうか。


 なんてことを考えているのを察したのだろう。タクトが慌てて口を開く。


「あぁーと、心配しないでくれよっ。気力ってのは()()()()()()()()()――つまりオレ以外に直接存在してるわけじゃないんだ」


「タクト君だけにある概念……。私達自体には気力はない、と」


「そうそうっ。だから、Aに害はひっとつもないから安心してくれ。――とは言え、勝手に吸収させてもらったことは謝っとかねーとな。悪かったよ」


「そんなことっ。私なんかでも役に立ててたなら嬉しいよ!」


 ターニャの言った通り、タクトの能力は発動条件が困難なようだ。それでも、その過程でAも役に立てていたのなら良かった。それほどまでに足を引っ張っていたはずなのだから。


「ほんと、助かったよ。オレは一人ではなにもできないからな。一応、他にも吸収する方法はあるにはあるんだが……負荷もかかるし、なにより申し訳ない。だからさ――仲間がいて初めてオレは戦えるんだ」


「――仲間の力を集めて戦う……。す、すごいっ、やっぱりタクト君は主人公なんだね! 本当に私の憧れた主人公だっ。カッコいいっ!」


「そ、そうかぁ? そんなことないと思うが……。まっ、つまりさ。サイクル唯一の主人公――なんて言われてる奴でもこんな厄介な能力なんだ。だから、エイの能力がどんなのか分からねぇけど、そんなに心配すんなよ」


「あはは、でも私はモブだからなぁ……。正直能力を持たせてくれるだけで満足だよ」


 異世界人は強力な能力を持つ。サダエはそう言っていた。ただ、どうしてもその言葉を信じられない自分がいる。例えばAがゲーターと戦うことを想像するとどうだろう。――いや無理だ。どう頑張ってもイメージできない。モブである自分の力などたかが知れている。

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