7´.モブな少女と主人公①
ダムダムダムッ。そんな音が体育館中に響き渡る。皆一つのボールを追いかけ、上方に設置されたゴールへのシュートを狙う。つまりは俗にいうバスケットボールが行われていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
そんな中Aは全力でただ走っていた。というか、それくらいしかやることがなかったのだ。最初こそバスケなら、と軽い気持ちで参加したが今思えばもう少し考えるべきだったと思う。異世界でやるスポーツが普通なわけがない。
「これがウチのぉー! ホークダンクよっ!」
そう叫び今まさに身体を一回転させながら足でダンクシュートを決めたのはターニャだ。目の前に立ちふさがる男子生徒を軽々と超すほどの跳躍力。それはおおよそ人間のものではない。まるで飛翔し飛び越したかのようだ。――というか、実際に飛んでいた。
「Aっ、ちゃんと見ていたかしら! 鷹のように鋭いウチのシュートをっ!」
足を止めボールの行く末を見守っていたAにご機嫌な顔で駆け寄ってくるターニャ。まるで犬のようだ。ただ、今に限ってはその表現は間違えている。理由は変貌したその手足にあった。
「す、すごいね。手も足もいつの間にか変わってて……それは鳥、だよね?」
「そうっ、種類はとにかく……要は鳥よっ! ウチの能力、〝獣化〟で手と足を変化させたの。ふふんっ、バスケなんて飛んでしまえば余裕なんだからっ」
先ほど案内の途中でターニャの口から聞かされた能力、獣化。それは文字通り自身の身体の一部を獣のそれに変化させる能力のようだった。言葉だけ聞いたときには随分とシンプルな能力だと思ったが、実際目にすると別の感想を抱く。
むしろあの刹那の間に自身の身体を変化させることができるのは使い勝手が良すぎる。それ故にターニャの能力はシンプルで強力に見えた。さらには通常時でも獣のごとき身体能力を発揮することが可能らしい。――ただ、残念ながら今行っているのはバスケットボールだ。
「……はいっ、ターニャ先輩いまの反則です! これはバスケットボールなんですよ? 足じゃなくって手を使ってくださいっ!」
体育館に作られたコートの中央にいる審判役の生徒が笛を鳴らす。やはりというか、今のシュートは無効になるようだった。まぁ、足を使うのは反則だろう。そこは異世界とはいえルールに乗っとっているようだ。――それでも能力の使用が可能な次点でルールもなにも滅茶苦茶なのだが。はたして床でおこなうスポーツでの飛翔行為を見逃していいのだろうか。
「ちょっとぉっ! なんで反則なのよっ! ウチはちゃんと手を使ったわよっ」
「いや、お前にとっては手でもオレ達には足にしか見えないからな? あと、審判の言うことは絶対だから。スポーツってのはそんなもんだ」
Aのチームメイトの一人であるタクトが呆れ顔で歩いてくる。なんというかスポーツ漫画の世界からきた人間が言うと言葉の重みが違う。これには審判に抗議をしていたターニャも流石に引き下がった。
「ふんっ、いいわ。今日は変化なし、身体能力だけ借りて正々堂々やってやるんだから。でも、この二点は大きいわよ。今負けてるんだからねっ。――ちょっとアンタ、ちゃちゃっと点取ってきなさいよ」
「へいへい、じゃあ選手交代だな」
パンっとハイタッチをする二人。すると瞬間タクトはいとも簡単にボールを奪取。そして、両手でボールをクルリと回すとそのまま綺麗なフォームでシュートを決めてしまう。
「ほれっ、三点っと。うしっ、ターニャ、これで逆転だっ!」
「ウチらが力を貸してあげているのだから点は取れて当然よっ」
「厳しいなぁおい。ちょっとくらい褒めてくれよー」
有言実行。見事なスリーポイントシュートで確実に点を取ってきたタクトはそう言いつつ、何故か自慢げなターニャともう一度ハイタッチをする。そして、そのままこちらに近づくと、
「エイ、こっからが本番だぜ? これだからスポーツはやめられねぇ。さぁ、楽しもう!」
「うんっ、足引っ張らないように頑張るよ!」
パンッ。先ほどターニャとやってみせたようにAとタクトはハイタッチをした。この試合が始まってからというもの幾度となく繰り返してきたこの行為。特に意味はないと分かっていても実際に手を合わせると妙な爽快感を味わえる。
この心地よい雰囲気を途切れさせてはいけない。そもそも三対三で始まったこのバスケ。心強い二人がいるのにもかかわらず劣勢なのはどう考えてもAのせいだった。能力ありのルールの中で肝心な能力を扱えないのはAだけなのだから。そう思い二人の背中を追った。




