85.恨みと因縁
※お盆特別更新
(´・ω・`)<19時にも更新しているから注意!
次話0700 予定
おかしい、チートもらって楽しい異世界生活を送るはずが、何故か人生崖っぷちです。
俺の人生ハードモード過ぎないかと、最近思っているアーサー君です。
「そんな話聞いたこともないし、決闘法にも書かれていないじゃない!」
パタパタと涙をこぼしながらも、ミレイア様が気丈にアランさんへ食って掛かります。
うーん、ミレイア様の気持ちは嬉しいんですけどね……
この場合は、アランさんの言葉が正論でしょう。
ミレイア様も年齢の割には聡明ですから、忘れそうになりますが、まだ8歳なんですよね。
国という組織の大きさや恐ろしさを、まだまだ正確には捉えきれていないのでしょう。
まあ、そういう俺もよもやこの決闘の結果が、領地の興廃にまでつながるとは、思ってもみませんでしたが……
「決闘法は関係ありません。むしろこれは、王家の存立や名誉に関わる話です。
そもそもが、決闘法は王家の人間が使用するために考えられた法律ではないのです!」
今頃は法律を書き換えるために、法典官がバタバタ走り回っているとアランさんが教えてくれました。
後にも先にも、王族が決闘をするのはミレイア様が、最初で最後みたいですね。
場の空気が重苦しくなりつつある頃、コンコンと控えめなノックに続いて、兵士さんが入ってきました。
そして席を立ったアランさんに何事かを耳打ちし、資料を手渡します。
兵士さんが部屋を出て、静かにドアを閉めると、渡された資料を見ていたアランさんが、険しい顔でこちらに近づいてきます。
「アーサー君…… もしかすると、非常に不味いかも知れない……」
深刻そうに俺に資料を手渡したアランさんを見て、只事ではないと悟った俺は、ざっと資料に目を通しました。
そこに書かれていた内容は、よくこの短時間に集められたなという詳細なものでした。
ウード・ソロウ
そう書かれたファイルは、おそらく冒険者ギルドのものでしょう。
これまでの活動について、詳しく書かれていました。
ずいぶん長く冒険者をやっているようで、長い経歴が書き連ねてありますが、それよりも右上に記入されたランクに目が留まります。
冒険者ランクB++ これは、間もなくAランクに上り詰めるという事を意味しています。
冒険者本人には、プラスなどの細かい評価は伝達されないので、この資料はギルドから出されたものでしょう。
賞罰の記録も書かれており、ここ数年は少し停滞気味みたいですが、間違いなく一流の冒険者であると言えます。
確か父様と母様のランクがB++だったと記憶しています。
領主館にあった資料に、両親の引退した記録が残っていて、これと似たような記録を見たことがあります。
昨夜、俺が倒した冒険者がB-(マイナス) 間違いなく昨日の相手よりも格上ですね。
俺は自分の記憶に間違いがないか、記憶の泉で過去に見た父様達の資料を思い出しました。
間違いありません。父様と同じランクですね……
ん?思い出した内容と、手にしているウードの資料に、なにか引っかかるものを感じました。
ああ、これは色んな意味で負けられませんね。
「相手が誰であれ、もう退けませんからね……」
俺はアランさんに資料を返しながら、外を見てそうつぶやきました……
切羽詰まった俺達に、他の決闘を見る余裕などあるはずもなく、ミレイア様はソファに腰掛けたまま、じっと何かを考えていました。
アランさんも一言も発することなく、黙って座り……
そして俺は床にあぐらをかき、じっと目を閉じていました。
いまさらジタバタしても始まりません。それに余計な雑念は剣筋を曇らせます。
そして、どれだけ時間が過ぎたでしょうか?厳粛な感じで部屋の扉がノックされまして、いよいよ順番がやって来ました。
俺はゆっくりと目を開けて覚悟を決めると、いつもと同じ所作で刀を腰に指し、下緒を結びます。
さて、行きますか……
ザワザワとした会場は、石畳の四角いリングのような場所が設えられています。
そして、その四隅に青白い球体が柱の上に輝いており、少々幻想的な光景が広がっています。
その周囲をうめつくすように人垣が出来ており、歓声もなく拍手もないまま、俺達は会場の中央まで誘導されました。
諦観にも似た雰囲気というか、義賊の処刑を見守る群衆のように、神妙な面持ちで、俺達の入場を見守っています。
それはそうでしょう。姫様が婚約を解消すべく、婚約者に前代未聞の決闘を申し込んだのです。
これは話の種に、是が非でも見なければと、うわさ話が大好物の貴族達が、大勢集まったのですが……
蓋を開けてみれば、対戦するのは姫様と同い年の俺が代理として立てられ、片やBランクの一流といえる冒険者が立っているのですから。
姫様の婚約を賭けた決闘と心躍らせて来てみれば、どういう訳か一方的な虐殺を見せられるかもしれない。
そんな立場になった観客は、これから起こる惨劇を想像して、口数が少なくなっているみたいですね。
俺は周囲から同情的な視線を受けながら、決闘相手であるディボの方を見やります。
そこにいるのは、すでに勝ちが決まったかのように、余裕の表情を浮かべるディボ。
それとは正反対に、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている、少し初老が入った神経質そうな男の姿がありました。
あれが、辺境伯本人でしょう。
そしてバスターソードを肩に担いだ、2人とは対照的な粗野な外観の男が一人……
あれが、ウードでしょう。
薄汚れた服にくすんだハーフメイル、髪もバサバサで無精髭が伸びた、いかにも冒険者と言った風体です。
ですが、その体から発せられる殺気というかオーラは、離れていても肌を刺すように刺激している気がするほどです。
「双方、この決闘において……」
審議官さんが口上を述べていますが、すでに耳には入ってきません。
ビリビリとした視線や殺気のやりとりが、俺とウードの間で行われています。
「双方代理人、前へ!」
かろうじて耳に届いたその声を聞き、俺は石畳を踏みしめて中央に向かいます。
近づいていくと、父様に匹敵するであろう身長でウードが俺を見下ろし、そしてニヤリと笑います。
「チェスターの野郎には、随分と煮え湯を飲まされたからな。そのガキを合法的にぶっ殺せるなんて、いい仕事だぜ」
そう言ってバスターソードをスラリと抜き放ち、俺の鼻先に突きつけます。
「やめんか!失格にするぞ!」
慌てて審議官さんが注意の声をあげますが、ウードはどこ吹く風です。
「テメエの首をあの野郎に送ってやったら、どんな顔するだろうな?
貴族の護衛なんて退屈な仕事だと思ってたら、こんな幸運に恵まれるたぁ、ツイてるぜ!」
精神統一を済ませている俺は、ウードの言葉には耳を貸さず、じっと相手の目を見上げました。
「言いたいことは、それだけか?」
まあ、ひとつ言えることはコイツには躊躇う必要もなければ、一切の遠慮もいらないって事です。
俺の言葉で、逆にウードがギリリと奥歯を鳴らし怒りの形相を浮かべます。
「このガキ…… 楽に死ねると思うなよ」
「そ、双方とも開始線まで下がれ!」
俺達の気迫に圧されたのか、審議官さんが慌てて俺達を下がらせます。
「この決闘は特例により、一切の禁じ手や相手の生死は問わない!
……それでは、始め!」
その合図とともに、ウードはブワリと全身に魔力強化を施してこちらに躍りかかってきました。
俺も、それに合わせるように魔力強化を発動させ、腰を落とします。
アーサー・セルウィン参る!
どこか因果めいた決闘の火蓋は、こうして切って落とされました……




