76.ボッチと美味しいごはん
金持ち喧嘩せずって言いますけど、喧嘩と権力闘争は別物なんでしょうか?
8歳にして、腹芸をこなさなければいけない、世知辛い世の中を生きるアーサー君です。
なんだか、昼ドラよりもドロドロしている気がするのは、気のせいでしょうか?
ウシガエルとの会話で荒んだ心を、ミレーユをモフって癒やした後、俺は王都の街をブラブラと歩いています。
目的としてはロイド商会さんに行って、手紙を届けてもらおうかと思っています。
いや、順調に何の問題もなく王都をエンジョイしてます!って手紙でも送っておかないと、母様達が来ちゃいますからね!
それから、うしろでウロチョロしているネズミを、どうにかしようと思います。
どうやらさっきミュアー商会を出た辺りから、何人か後ろにくっついてきているみたいですね。
タイミング的に考えれば、商会かウシガエルの手下かのどっちかでしょう。
城からの監視というのは、たぶん考えられないと思います。
だって、ダリルさんと何やら打ち合わせをしていた団長さんに外出について聞きましたら、「ご自由に」と言われました。
その話の流れで、護衛とか監視は?と聞いたら、乾いた笑いを返されちゃいましたよ。
「監視は不必要だろう。それに、あの稽古の様子を見れば、護衛に志願する人間が……」
だ、そうです。
「なんだ、アーサー?まだ子守りが必要か?もう少し鍛えて……」
危なくダリルさんの餌食になりそうだったので、ダッシュで逃走しましたよ。ええ。
そんな訳で自由裁量を与えられていますので、後方の連中をどう始末するか、ちょっと考えています。
それに前回王都に来た時は、あまり出歩けませんでしたので、観光も少しは楽しみたいですからね!
みんなで楽しく王都をさんさ…… すみません、ボッチでした……
ちくしょう!いいんだ!どうせ俺はボッチだよ!
ええい、こうなれば食パンくわえて王都中の路地を曲がって、フラグを……
……すみません、取り乱しました。
とりあえず、周囲をぶらぶらしながら露店を冷やかしたり、買い食いをしつつロイド商会を目指して進んでいきます。
相変わらず後ろには、何人かくっついてきていますね。
まあ、一定の距離を保っていますから今のところは放置でいいでしょう。
一緒に行動してくれるって事は、あれ?俺一人じゃない……?
うん、ゴメン。言ってて悲しくなるから、考えないようにしましょう。
このままだと、からあげとエールを買って、宿屋の一室でボッチを堪能しそうになってしまいます。
その以前に、この世界には、からあげがあるのかどうか……?
「なんで、一人でしんみりしてるニャ?」
露店の人混みの中で、不毛な考え事をしていたら、不意に声をかけられました。
ああ、ミレーユがようやく復活して、追いかけてきたようですね。
良かった!これでボッチじゃない!
俺は露店の商品を見たまま、小声でささやきます。
「なんでもないよ。それより、後ろの連中はどんな感じかな?」
「ニャ、追い抜きざまにチラッと見たけど、人相悪かったニャ!」
「そっか、今のところ泳がせておいていいけど、何か動きそうなら知らせてね」
「わかったニャ!」
そう言って再びミレーユは人混みに紛れていきます。
ボッチ再び……ふん!寂しくなんてないもん!
俺の葛藤はさておき、商業区の中程にあるロイド商会に辿り着いた俺は、以前領内の店で見たことのある店員さんをつかまえて、手紙を託します。
勝手知ったる店員さんは、「確かにお預かりしました」と言って手紙を受け取ってくれました。
まあ、数日おきに王都と領内を移動している馬車があるそうですので、こちらは問題なさそうですね。
ちなみに、近況報告の手紙は、当り障りのない内容ですよ?
だって下手なこと書いたら、確実に母様が笑顔で王都に来ちゃいますからね!
こうしてロイド商会での用事を済ませた俺は、再び王都をブラブラします。
魔力探知で、俺を監視している連中が、しつこくついてきているのは判るんですが、人が多くてイマイチ判別がつきませんね。
そろそろお昼なので、どこかで昼食を食べましょうか。
そう言えば、王都で外食って、はじめてかもしれません。
ふと商業区のあちこちを見れば、そこかしこに酒場 兼 食堂の看板が出ていまして、食欲をそそる香りが漂っています。
そう思ったらちょっと興味が湧いてきまして、色々と中を覗きこんで店を物色していきました。
すると、商業区の一角で賑やかな店を見つけまして、そこに入ることにしました。
中では常連らしき客が数人と、頑固そうな店主の親父、それに俺と同年代くらいの女の子が、忙しそうに働いています。
って、おい!あの女の子、店で使う食材なのか、馬鹿でかいイモの袋を片手で軽々と担いでますよ!
それも、常連たちに笑顔浮かべながら!
よく見れば、赤髪のショートカットがよく似合う快活そうな女の子ですね。
それが、自分の背丈ぐらいもある大袋をヒョイと持っている姿は、なかなかにシュールです。
俺も魔力強化を使えば、アレくらいの芸当は出来ますけど、世の中広いというか面白いですね。
「ん?いらっしゃいませ!食事かい?」
俺が店の入口で面食らっていると、その子が俺に気づいて声をかけてくれました。
「ええ、今日のおすすめはなんですか?」
「きょうはホロホロ鳥のソテーか、特製シチューがおすすめ!どっちも銅貨1枚だよ」
「それじゃ、ソテーの方で!」
俺はそう言って銅貨を渡し、それを受け取った彼女はニカッと笑顔を作り、大声で店の奥に注文を通しました。
「この辺じゃ見ない顔だけど、どこから来たの?」
席に座った俺に、水の入ったコップを置きながら、彼女はそんなふうに問いかけてきます。
一人で食堂に食事に来る子供なんて、珍しいでしょうからね。
「うん、ちょっと用事があって、何日か前にセルウィン領から来たんだ」
流石に城に呼ばれてますとか言いづらいので、適当に答えましたが女の子は、キラキラした目で食いついて来ます。
「へぇ~っ、そうなんだ!セルウィン領ってたしか南のほうだよね?どんな所?」
「いいところだよ。北側にはタルコット山が見えて、食べ物もおいしいよ」
俺もついついさっきまでのボッチ状態の反動から、饒舌になってしまいます。
「そうなんだ~、いいなぁ、旅とかしてみたいな!私は生まれてからずっと、王都から出たことないからね」
そう言いながら、女の子は出来上がった料理を常連の所に持っていき、少し混み始めた店内を、忙しそうに動きはじめました。
そんな彼女の様子を、ボーっと眺めていましたが、正直すごいですね。
片手に重そうなお盆を持って、もう片手でなみなみと注がれたエールのジョッキを、いくつも握っています。
いやいや、あきらかに子供が持てる重さじゃないですからね。
「どうした、坊主?アンジェラが気になるのか?」
俺が彼女の動きを見ていたら、相席になったおっちゃんから声をかけられました。
「いや、彼女の働きがスゴイので、思わず魅入っちゃいましたね」
「ああ、坊主はここに来るのは初めてか。あの子は、どういう訳かえらい力自慢なんだ。
腕相撲で腕力に自信がある船乗りを負かした事もあれば、夜は喧嘩の仲裁までしちまう。
ああやって、たまに失敗したりもするがな……」
俺がおっちゃんからアンジェラとよばれた彼女に目を向けると……
木のカップが粉々に粉砕されていました……
「まあ、それでも気立ての良い子だし、将来はいい嫁さんになるんじゃないかね?
夫婦げんかじゃ、絶対勝てないだろうけどな!」
そう言っておっちゃんが高笑いしているところに、アンジェラが俺の料理を持ってやって来ました。
「あん?ダドウィンさん、な~に言ってるのかな?」
俺の料理を置いた後、テーブルの縁を軽く掴んだアンジェラにおっちゃんがビビりまくってます。
「いや、アンジェラは気立てがいいから、いい嫁さんになるって言ってたんだよ!なあ、坊主!」
「えっ?ええ、そうですね!」
なんだか、頑丈そうなテーブルの縁がミシミシいってまして、俺は思わず話を合わせてしまいました。
「ふ~ん、なんか怪しいけど、まあいっか!」
そう言いながらカラカラと笑ったアンジェラは、俺のコップに水を足してくれます。
コップを受け取った時に、わずかに手が触れたんですが、それで彼女の怪力の正体が分かりました。
この子、気づいているのかは判りませんが、魔力強化を常時発動させているみたいです。
いったいどんな原理なんでしょうか?
とりあえず、考えてもわからないので、俺は運ばれてきた料理を味わう事にしました。
ジュウジュウと焼ける鉄板の上には、飴色の手のひらサイズの鶏肉と、付け合せの野菜と大量のイモ。
それにスープとおおぶりなパンがついてワンセットになっています。
一口食べてみれば、鶏は表面がパリパリなのに中は柔らかく、少し甘辛なソースも美味しいですね。
その肉汁にからめてイモを食せば、これまたホクホクとした食感が嬉しくなります。
うん、スープも一見すればただのスープですが、よく味わえば鶏のガラでダシをとったのでしょう。
さっぱりしていますが、旨味が広がる丁寧な仕事をしていますね。
パンも自家製なのか、それとも温めなおしているのかほんのりと温かく、パリパリの表面と小麦の香りがたまりません。
ピエールさんの料理も美味しいですが、こりゃ大当たりだったかもしれませんね。
また、外出できたら食事はここにしましょう!
さてお腹も膨れましたし、そろそろうるさいネズミ達を、食後の運動がてら、片付けるとしましょうかね。
うん、美味しいご飯を食べましたから、機嫌が良いのです。
サクッとひっ捕らえましょうかね!
通貨単位
ゴル(gl)
金貨10,000ゴル 100,000円
銀貨 1,000ゴル 10,000円
銅貨 100ゴル 1,000円
鉄貨 10ゴル 100円




