75.竿が折れそうになりました(物理的に)
お待たせしました(´・ω・`)
はい、えっ?グルメ回だと思った?ごめんなさい。
最近、自分のお仕事が、何なのかよくわからないアーサー君です。
本日は城での予定がなくなりまして、終日オフとなったのですが、モチロン俺は休めません。
8歳児にこんなオーバーワークを強いるなんて、どんなブラックな世界なんでしょうね!
すみません。ほぼ自分が蒔いたタネです……
今日のオフはミレイア様が、なんだったか行事に出席するらしく、都合がつかないらしいです。
残念ですね。今日は素振りの回数を、倍にしようと企んでいたんですが、明日以降に持ち越しですよ。
ピエールさんとの新メニュー考案についても、昨日のうちにあれこれと打ち合わせを済ませてあるので、城にいてもやることがありません。
そんな訳で、今はとある宿屋でミレーユと一緒に、件の商会を見張っているのですよ。
ええ、ミレーユも疲れているでしょうから、少し休ませてあげないといけませんからね。
例によってミレーユをモフり倒してから寝床に転がして、俺は1人窓辺に腰掛けて、薄いカーテン越しに商会の正面を見張っています。
一度商会の様子を直に見たかったというのもありましたし、もし俺が見張っている時に、何か動きがあれば儲けものですからね。
そうしてたまにパンとお茶を口にする意外は、視線を商会の方に向けて、身じろぎもせずにじっと監視します。
しかし、残念なことに張り込みの定番であるアンパンと牛乳がないんですよね。
牛乳は調達可能ですが、あんこというか小豆がないのは痛いです。
ああ、そう言えばパンとかそっち系にはまだ手を出していないですね。
そのうち考えたいですね。菓子パンとかクリームパンとか……
しばらく黙って監視していたのですが、集中力が切れそうだなと思い始めていた昼下がり、一台の馬車が商会の正面にやって来ました。
……ん? おや?
どこかで見たことのある馬車ですね。
あの紋章も、先日ミレーユが書いた下手な絵に似ています。
どうやら当たりを引いたかな?
俺は立ち上がって軽くストレッチをして、体をほぐしました。
いや、長時間同じ姿勢って疲れますよね。壁に立てかけてあった脇差しを腰に挿して準備完了です。
さて、それじゃあ敵陣に乗り込むとしましょうかね!
俺は宿屋を出ると、そのままスタスタと歩いてミュアー商会の入口をくぐりました。
っていうか馬車がエライ邪魔です。これ、軽く営業妨害になってますよ?
それに、店に入らない護衛が数人店の前でたむろしてまして、入りづらさ満点ですね!
まあ俺には関係ないので、その横を通りすぎてさっさと店の中に入ります。
そうして店に入ると、まず目に飛び込んできたのは立派なカウンターと、その後ろのショーケースでしょうか?
周囲の棚にも、豊富に商品が並んでいますね。
さすが王都でも大店と言われているだけあって、品揃えが豊富です。
商品的には、内海航路で仕入れたであろう外国の珍しい品や、北部の名産品が多い感じがします。
商品の中には用途の分からない物や、これ売れるの?って感じのモノも見当たりますね。
そんな感じで店内を見ていると、店員が1人揉み手こそしていませんが明らかな営業スマイルで寄ってきまして、俺に声をかけてきました。
「なにか、お探しでしょうか?」
今日の格好は、ミレイア様に稽古をつける時の冒険者スタイルじゃなくて、もっと上品な感じですからね。
パッと見て平民っぽくはないので、声をかけておこうって感じでしょうかね?
「外洋産の海塩と、黒魚の硬干物を探しているんですが、在庫は?」
俺は商品の棚を見ながら顔も向けずにそう言うと、寄ってきた店員は一瞬だけ言葉をつまらせました。
まあ、無いのを承知で聞いてますから、無理ないんですけどね。
どっちもウチの領で生産し始めた特産品ですから、ミュアー商会には仕入れルートがありません。
買うならロイド商会の王都の支店に出向けば、問題なく手に入ります。
「いや、最近評判だと聞きまして、ミュアー商会なら手に入るかと思いましてね」
そう言って俺は、はじめて店員の方を向きニッコリと笑いながら、懐から書類を出しました。
見せたのは、例の宰相さんとの契約書で、そのてっぺんだけチラリとですがね。
つまりは、王家のレターヘッドと調理担当部門の押印がわずかに覗く訳です。
それを見た店員さんは、サッと顔色を変えまして「少々お待ち頂けますか?」と言って、奥へ引っ込んでいきます。
どうやら釣り針に、魚がかかったみたいです。
俺が宰相さんと契約を結んだ時に、ひとつ条件をつけたんです。
それは当日の料理を発表するまで、契約内容を秘密にすることでした。
まあ、参加者へのサプライズの意味もあったのですが、俺がメニューに手を貸しているのがバレると、妨害が考えられましたからね。
そんな意味もあって、とりあえず契約を結んだ事は知られていません。
なので俺の噂くらいは知っているかもしれませんが、一般の店員が詳しい内情を知っている可能性は、限りなく低いのですよ。
そうなると店員の印象としては、『少しは金を持っていそうなガキ』から、『王家の書類を持つ正体不明のガキ』に変化するんですね。
こうなれば、一般の店員には手に余りますから、出てくるのはその上役や店長クラス、商会長が出てくれば御の字です。
ですが、針にかかったのは予想以上の大物でしたよ。
ええ、竿が折れるんじゃないかと思うくらいの大物でしたね。物理的に。
出てきたのはウシガエルこと、フロックでした。
店員が消えてから、少し経ってから血相を変えて商談スペースから飛び出してきたんですよ。
片手にハンカチを握りしめながら、息せき切って早足でこちらに近づいてきたと思ったら、こちらをすごい形相で睨みつけてきます。
「おや、フロック様ではありませんか!こんな所でお会いするとは偶然ですね!」
今度は俺が営業スマイルを浮かべて、フロックに語りかけます。
それを見たフロックは、奥歯を噛み締めてから表情を取り繕い、口を開きました。
「おやおや、何方かと思えばアーサー殿でしたか!
それで、何かお探しでしたかな?ここは私が懇意にしている商会でして、大抵のものは手に入りますぞ?」
「いえ、王都にある商会の品揃えを、一度見たいと思いましてね。
それに、領地への土産も探したいと思っていたので、立ち寄ってみたのですよ」
お互い白々しい言葉の応酬が続きましたが、ウシガエルが『ここは自分のホーム』と言わんばかりに、カードを切ってきます。
「そういえば、あの凄腕の赤獅子殿が見当たりませんが、よろしいので?
先日小耳に挟んだのですが、旅の途中で盗賊の襲撃を受けられたとか。
単身で出歩かれるとは、あまり感心しませんなぁ?」
「いえ、王都の中に入ってしまえば治安は問題ありませんし、このように帯剣もしています。
ご心配いただき恐縮ですが、私が何故王都に呼ばれたのかは、ウシ……フロック殿が一番よくご存知では?」
あぶねぇ。素でウシガエルと言ってしまう所でした。
「いやいや、ゆめゆめ油断なさらぬほうがよろしいでしょう。
なんでしたら、私の馬車で城まで送らせましょうか?」
「お気遣いはありがたいのですが、これからまだ回る所がありますので、お気持ちだけ」
「おや、そうですか。それは失礼致しました。それでは、私はこれで……」
そんな白々しい会話を交わしてから、ウシガエルがのっしのっしと入口の方へ向かいます。
「ああ、そう言えば……」
俺は手にとっていた商品を棚に戻しながら、思い出したように付け加えます。
「僕の旅程は、ごくごく限られた人間しか知り得ない筈なんですが、一体どこから漏れたんでしょうね?」
俺の言葉にウシガエルは、地響きがしそうな歩みを止めて、こちらに振り向きます。
「……さあ? 盗賊たちの耳目は、どこに潜んでいるかわかりませんからね。油断も隙もないですな」
そう言ったウシガエルの目は、これまでに見た欲に濁った目ではなく、どこか冷たい視線をこちらに向けてきます。
「そうですね。油断はいけませんね」
俺はその視線に気づかないふりをして、笑顔でそう答えました。
そう言って、出て行った馬車を見送ると今度は店員が上役を引き連れて戻ってきます。
「先程は大変失礼致しました。ご希望の商品ですが……」
「ああ、もう結構です。どうやら、僕の希望する商品は取り扱いがないみたいですし……」
俺はそう言うと、店を出ました。
いや、話すだけで気持ち悪く感じるって、一種の才能なんでしょうかね?
どう頑張ってもウシガエルは、生理的に受け付けませんね。
とりあえずは、宿に戻ってミレーユをモフって、口直ししておきましょう。
俺はそんなことを考えながら、宿に向かって歩きます。
ええ、両手をワキワキさせながらね!
今週中に幼年期編を終わらせる予定!(未定)




