69.色々と吹っ切れました!
悩み多きお年ごろとは言え、よもや戦闘狂さんに指摘されてしまうとは……
いやはや、将来について悩みの尽きないアーサー君です。
俺は早朝の稽古では、全自動回復まっしーんと化しまして、倒される端から回復していきます。
そのせいで…… ダリルさん倒す→俺回復という、無限ループが完成しました。
うん、途中から騎士団の人達の目から光が消えたんですが、やっぱりいつもより、少しペース早いですね。
「何なのよ、さっきのバケモノみたいな動きは……」
ぼーっと、ダリル無双を見ていましたら、横からいきなり声をかけられました。
ふと気づくとミレイア様が、俺の横に立っています。
そういえば、さっき朝の鐘が鳴ったような気もします。
っと言う事は、朝食も忘れてたんですか。俺……
「ミレイア様…… もう、そんな時間でしたか?」
「ええ、そうね。約束の時間には、まだ少しあるけど、どうにも落ち着かなくて」
そう言ったミレイア様の横顔を見れば、赤い目をしているのが分かりました。
「楽しみにしてましたもんね、稽古……」
「昨晩…… あんな会話にならなければ、もっと楽しめたと思うのにね」
「正直、陛下にあんな事を質問されるとは、思ってもみませんでしたよ」
「私もあんな事になるなんて、思ってもみなかったわ……」
そこで話が途切れた俺達は、ただ黙ってダリル無双を眺めていました。
そして、騎士団が切れたタイミングで、俺が回復魔法をかけて回ります。
おっ? どうやら騎士団の人達も、ようやく現実を受け入れ始めたようです。
数人が束になって時間を稼ぎ、その間に残りの人達が陣形を組み、隊伍を整え始めました。
うん、なまじ騎士のプライドにこだわって、1対1に固執しているうちは、ダリルさんには敵いません。
多対ダリル、このぐらいにならないと、勝負にすらならないのですよ。
まあ、最初のうちは、それでも吹き飛ばされるんですけどね……
ほら、言ってるそばから、右翼側の半分が吹き飛ばされました。
「あんな化け物と、毎日稽古しているの?」
「ええ、もう慣れましたね。でもまだダリルさんから、1本取れてないんですよね」
「……アーサー、あなたどれだけ非常識な事を話しているか、分かってる?」
「そうですね。ダリルさんとの稽古って、ホント常識が通じないんですよ」
「そうじゃないわよ。あの規格外と数合とは言え、まともに立ち合えるとか、貴方も十分規格外よ」
「ああ、そういう事ですか……」
「そうでなければ、王様があんな事を言い出すハズないじゃない!」
少しだけ苦しそうにそう言ったミレイア様は、ギリリと木刀の柄を握りしめる音が聞こえました。
「……そうかも、しれませんね」
「そうよ…… いえ、そうじゃなきゃ、ダメなの」
「それで、俺はどうしたらいいんでしょうね?」
おれは、そろそろ騎士団の人達が全滅しそうなので、立ち上がってそう言いました。
するとミレイア様は、俺の背中をパンと叩いてから口を開きます。
「好きにしたらいいわ!」
俺は驚いて思わず振り返ると、いつの間にかスッキリとした表情のミレイア様が、倒れている騎士団に活を入れます。
「それでも王立騎士団の栄えある騎士達か!いま一度立て!」
その言葉が耳に届いたのか、何人かの騎士達が立ち上がり、果敢に立ち向かっていきました。
ですが、無常にもダリルさんは、心まで刈り取るように、立ち上がった騎士達を蹂躙していきます。
うん、手加減なしですね。
「好きにしたらいいって、どういう事ですか?」
騎士達が粘っている間に、俺は振り返ってミレイア様に、その言葉の意味を尋ねます。
「私は吹っ切れたの。アーサーがどんな場所で、どんな事をしていたとしても……私は諦めないって」
朝日のせいでしょうか?妙にミレイア様の顔が凛々しく見えます。
……やれやれ、前世の記憶を持っている弊害でしょうか?
妙な所で慎重になっているというか、動き出すのが遅いと言うんでしょうかね?
せっかくチートを貰ってこの世界に転生したのに、世間体とか外聞を気にしてどうするんでしょう。
立場を抜きにしても、女の子にここまで言わせておいて答えなきゃ男がすたりますよ。
「そうですね。それなら俺も、ミレイア様の横に立っても、恥ずかしくないような男にならなきゃいけませんね!」
俺はそう言うと、最後の騎士さんが倒されたのを見て、回復魔法を掛けに走りました。
いや、ミレイア様の顔を見るのが恥ずかしかったからとか、そういうんじゃないんだからね!
騎士達に回復魔法を掛けた後、流石に3連戦は厳しいだろうと思って、俺は恥ずかしさを誤魔化すように、問答無用でダリルさんに斬りかかりました。
「ほう、剣先の迷いが消えたじゃないか。アーサー、一丁前に恋わずらいか?」
そう言って左右からの連撃を繰り出しながら、ダリルさんがニヤリと笑います。
「いや、ダリルさん。戦闘中に笑ってると、ホントに戦闘狂みたいですよ?」
「吐かせ!殺しの童貞は捨てたみたいだが、女の童貞もさっさと捨ててこい!」
「んなっ!?」
ダリルさんが突然変な事言い出すものですから、動揺してしまって俺は斬撃をモロに喰らい、スポーンと飛ばされてしまいます。
前世の年齢を合計すると、もう立派なベテラン魔法使いなんですから、その手の話題は禁句ですよ!まったく!
現世では違う意味で、リアル魔法使いですけどね!
そして、飛ばされた先はダリルさんが、狙ったのかわかりませんが、ちょうどミレイア様の目の前でした。
「まあ、今のところはこんな調子ですけど、横に並び立てるように頑張りますので、少し時間をもらえますか?」
俺は大の字に倒れたまま、ミレイア様を見上げてそう言いました。
「ええ、待っててあげる。それまでに貴方の隣にいても恥ずかしくないように、私も鍛えておかないとね」
そう言ってしゃがみこんだミレイア様は、スッと俺に手を差し出してくれました。
「そんな訳でアーサー。早速、稽古をつけてもらえるかしら?」
俺もその手を握り返して、立ち上がるとお互いに、ニッコリと笑いあいました。
「喜んで!」
こうしてミレイア様への、剣術の稽古が始まったのでした……
が、ひと通り稽古が終わって井戸で顔を洗い、汗を拭っている最中に、ミレイア様がいきなり爆弾を投下しました。
それはもう、世間話の延長のようにサラッとね。
「アーサー、1週間後に大きな晩餐会があるのを知ってるかしら?」
「ええ、調理場で聞きましたね。なんでもかなり規模が大きいそうですが?」
「そうなのよ、百年近く前の戦勝記念日を祝う、カビの生えた行事なんだけどね。
まあ、貴族達にとってみれば、舞踏会や晩餐の名目はなんでもいいのよ」
そう言ってフンと、鼻を鳴らしたミレイア様は、少し口の端を吊り上げてました。
あっ、この顔。なんか悪巧みしている時の顔だ。
「その席で私はね…… ディボに決闘を申し込もうと思ってるの」
「へーっ、そうなんですか………… って、えっ!?」
まあ、肚くくって遠慮はしないと言ったものの、ミレイア様がそこまで大胆に動くとは、正直予想していませんでした。
それに、ディボは現在王都の屋敷ではなく、領地に帰っており父親からかなりキツめに怒られたらしく、現在は王都にいないんだとか。
それが、晩餐会への出席のために、数日後に戻ってくるそうです。
なーんだ、毎回トイレで警戒して損した気がします。
なんでもミレイア様の言うことにゃ、戦勝記念という事で昼の間は記念行事を行い、夜から晩餐会が開かれるらしいのです。
しかし、記念行事と晩餐会の間には少し間があるらしく、いつの頃からか模擬戦や決闘が、余興として行われるようになったらしいんですね。
模擬戦については騎士中隊の中から選抜された者が、各中隊の威信をかけて争うそうで、かなりの熱気になるそうです。
そして決闘については、主に遺恨の残っている貴族同士や、領有権の争いを抱えている領主などが、高等法務院に申し立てをして行うらしいですね。
この決闘には王家といえど口出しはできず、その勝敗は厳格に守られるそうです。
まあ、一種の代理戦争みたいなものですね。
このシステムを作ったきっかけは、王国が定まってからも、しばらくは不安定な時期が続き、領主間の諍いが絶えなかったそうです。
そこでいたずらに国力を消耗するような事態を避けるために、こうしたシステムが造られたらしいんですわ。
高等法務院が中立を守るのは、王家がどちらかに肩入れすれば、後々まで禍根を残す事になるからという話です。
とは言え、領主が直接出るだけではなく、代理を立てる事も認められているんですよ。
まあ、そりゃそうですよね。貴族全員が武闘派だったら、国中大変なことになるでしょうからね。
腕っ節に自信がある者がこれをきっかけに、召し抱えられたりする場合もあるそうです。
「これまで散々、ディボに決闘を申し込んだんだけどね」
そう言って、ため息をひとつこぼしたミレイア様は、手ぬぐいの水をギリギリと絞りながら、これまでの経緯を語り始めました。
「あのバカ、『決闘はいつでもお受けいたしますよ? ただし、僕は代理を立てさせて頂きます』 だって。
ホント、ヘタレよね!」
ミレイア様は、ちょっと特徴的なあのキザったらし言い回しをマネしながら、そう言います。
ああ、そう言えば、俺が初めてミレイア様と出会った時も、騎士団長からの決闘の話をはぐらかしてたな。
「そうなると、私は引っ込まざるを得なかったのよ。悔しいけどね」
ふむ、いくら王族といえども国の守りに携わっている騎士団から、自分の代理を立てる訳にも行かない。
護衛騎士であるアランさんは、かなりの使い手らしいですが、護衛騎士はその役目の通り、緊急時に備えなければならず、むやみに戦ってはならないそうです。
さりとて強い人間をスカウトに出るには、ミレイア様の身分が邪魔をする。
本人同士なら絶対に負けないのに、代理を立てることになれば途端に不利になる状況に、歯噛みしていたそうです。
「そこでね、私は考えたの……」
そう言ってぐいっと近づいてくるミレイア様に、ちょっとドキッとして意識してしまいます。
だって、女の子特有の甘い香りに、稽古でかいた汗が浮かんでるんですよ?
それが、身を寄せてきて耳元で内緒話とか、悶えちゃいますから!
最近ヒュンヒュンいってばかりだった息子が、反応しちゃいますから!
「高等法務院の決闘の締め切りは、当日の昼までなの。
私は午前中は、式典に出ないといけないから、その書類をアーサーに出して欲しいの。
それなら、ディボには有望な代理を探す時間が限られるから。
それとね……?」
俺は、必死に身悶えしそうになるのをこらえながら、耳を傾けわずかに頷きました。
「大人の代理が出てきても、アーサーなら勝てるでしょ?」
ズルい!そのささやき方は卑怯や!
そんなこと言われたら逆らえないじゃないか!
前話とこの回は、エライ難産でした……
ギャグ回と飯テロは、スラスラ書けるのに!




