67.タネは明かせませんよ?
若干、ギャグ控えめ?
お願いしますから、お家に帰して下さい!
平社員が会食会終わってから社長とサシ飲みとか、王国ってブラックだったんでしょうか?
色んな意味と場所で、毎回退路を断たれているアーサー君です。
「タネとは、どういう意味でしょうか?」
俺は努めて平静を装いながら、王様の問をはぐらかしました。
「なに、簡単な推理だな。お主が生まれてから数年で、領内の急激な回復や特産の開発が進んでいる。
表向きは先だってチェスター卿に報奨を言い渡したが、何か特別な要因があるのは明白よ。
ワシの見立てでは、あの領をあのまま回復させるには、次代までかかると思っておったのだがな」
そう言って再び底冷えのする視線を俺に向けてきた王様は、カランと氷を鳴らしてグラスを傾けました。
「そして、先日から見聞きしているお主のその聡明さを見れば、自ずと答えは出るであろう?」
そう言って品定めするように、じっくりと俺の目を覗きこんだ王様に、俺は返す返事を必死で考えていました。
「まあまあ、幼い子にそんな怖い言葉を投げかけては、いけませんよ。陛下……」
助け舟を出してくれたのは、王妃様でにこやかな笑顔のまま、そう王様をたしなめてくれました。
「セルウィン領での改革が、優秀な誰かの手腕だとすれば、それは王国にも大きな繁栄をもたらしてくれると思うの。
もしそれが貴方だったとすれば、将来は城で働いてもらえたら私も、ミレイアも嬉しいわよね?」
俺のチーフを大事そうに握りながら、ミレイア様もウンウン頷いてますよ。
いやいや、あなた王妃様ですからね?
ミレイア様の婚約者は、ディボって決まってるじゃないですかー!
それを横恋慕じゃないけど、この一方的な恋愛相関図を傍から見て、貴方楽しんでませんか?
「それはいくらなんでも、買いかぶりすぎです。
ただの子供が領の経営に口を出して、それが認められるとお思いですか?」
おれは大きく深呼吸をしてから果実水を一口飲み、それからゆっくりと王様に答えを返します。
「それに領内の改革は、先日拝謁の折に父が言った通り、領に住まう人々の知恵の結晶です」
とりあえずは、模範解答でお茶を濁しましたが、さてどう出るか……
いや、領内改革は正直やり過ぎだとは思っていたのですが、ああでもしないとホントに、経営破綻領土まっしぐらでしたからね。
遠目の懸念より、目先の危機。正直、明日のパンが必要な状況でしたからね。
「ふむ…… まあ良い。そう言えば、聞いた話では主はトリプルだったな。
それに加えてこの魔法、これで近代まれに見るクアドラプルという事か。
剣技も赤獅子仕込み、恐ろしいまでの才能よな」
王様はそう言って、目の高さでカラカラと小さくなりつつある氷を振って音を出すと、残りの酒を一息に飲み干します。
それをテーブルに置いたと同時に、給仕長がさり気なくおかわりを差し出します。
うん、流石に王城で給仕長を務めるだけあります。完璧なタイミングですね。
「いえ、この魔法は水魔法の応用ですので、属性の数に変化はありません。
それに、私自身は才ではなく、環境と師に恵まれたおかげだと思っております。
そして、非才であっても日々修練を怠らず、積み重ねただけです」
「そう、それだ。貴族の子息としての受け答え。それがあまりにも出来過ぎておるのよ。
まるで老獪な商人が、子供の皮をかぶっているようにな……」
「幼少より、どこに出しても恥ずかしくないようにと、家人に厳しく教えられました」
いや~、大型案件の詰めの交渉をやった時より、緊張するわ。
極力表情を変えないように、仕草や目線にも注意を払います。
腹の探り合いが続いて、ノドがカラカラになり、ゆっくりと果実水を飲み下します。
でもこの感覚も懐かしいですね。
「そうか、参ったな。これではミレイアからの願いは、聞き届けられそうにないな……」
「いや! 私はアーサーじゃなきゃ嫌!ディボと婚姻を結ぶくらいならっ!」
「やめなさい、ミレイア! 先程の言葉を忘れたのですかっ!」
ニコニコしていたはずの王妃様から、鋭い叱責が飛びまして、ミレイア様がビクッと肩をすくめて、それからすすり泣き始めました。
俺はと言えば、危うく果実水を吹きそうになりましたが、すんでの所でこらえましたよ。
ええ、ここでリバースすると、対面に座るお二人に甚大な被害が及びますし、そうなると俺の人生も即終了ですからね。
っていうか、ミレイア様何言ってくれちゃってるんすか?
それにディボよ…… お前、どんだけ嫌われてるんだよ……
「ふむ……困ったな。もしアーサーに気があって、才覚をハッキリと自覚できているのであれば……
当代での昇爵と、ミレイアの降嫁もやぶさかでないと思っていたのだがな」
静まり返った王家専用サロンの中は、ミレイア様のすすり泣く声だけが響いて、もう雰囲気最悪です。
ですが、どうにも腑に落ちません。
「……ひとつ、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「何かな?」
「どうして、一子爵家の息子である僕に、なぜここまで陛下は注目を?」
その言葉に答えてくれたのは、以外にも王妃様でした。
「アーサー君は、勇者が魔王を退治するお話を知っているかしら?」
「はい、昔絵本で読みました」
「王家にはな、その時の伝承が残されているのだ……」
そう言って「内密にな」と聞かせてくれた内容は、けっこう酷いものでした。
いや、絵本の裏舞台とかは、けっこう残酷とかよくある事ですが、これはちょっとねぇ。
まあ、要約すると大陸北部に魔王が出現し、討伐軍を派遣しましたが、あえなく惨敗。
勇者を名乗る若者が現れたが、その貧乏臭さに当時の王家は、面会を拒否したそうな。
それで、勇者一行は以前助けた商人から借金をして、ようやく身なりを整えて面会がかなったそうです。
しかし魔王討伐に行かせて欲しいという勇者の言葉は、討伐軍が敗走した王家では懐疑的に見られたみたいです。
それで、僅かな金子と騎士団支給の装備を持たせて、軽い気持ちで旅立たせたら本当に退治してしまいました。
これに慌てたのは王家は、出発時の無礼な振る舞いについて口をつぐんでもらい、あわよくば王家に勇者の血を残そうと画策したそうです。
爵位と領地、それに姫を嫁がせようとしたらしいんですが……
勇者ときたら領地や爵位はいらない。一緒に旅に出た魔法使いと、すでに婚姻の契りを交わしている。
そう言って取り合わなかったらしいです。
まあ、露骨なテノヒラクルーを見せられたら、そりゃ人間不信にもなりますがな。
ですが、それで済ませられないのが、貴族や国の面倒くさい所。
例の絵本を書いたのは、よりにもよって、王家の責任編集だそうで。
わかりやすい英雄譚を絵本にしてばらまくことで、王家の対応を糊塗し上書きしようと企んだそうです。
それを見た勇者は、それ以降公の場には出ることなく、ひっそりと山奥で余生を過ごしたらしいですよ。
うわ~、大人って汚いですね。
「それ故に、王家にはそれ以降、神託の勇者が現れたなら、その資質を見極めた後、最大限の礼節を持って迎えよとある」
ああ、なるほど。それで、こんな手の込んだ事をやっている訳ですか。
「今では教育機関として多くの門徒を輩出している、高等魔法学園や幼年魔法学校だがな。
元を質せば、神託の勇者が現れるのを見逃さない為に、全国の子供に目を向ける目的で創設されたのだ」
あふぅ、学校関連が充実していると思ったら、裏にはそんな事情があったんですか……
「それで、アーサー君は女神様から、何か聞いたことはないのかしら?」
いや、何か聞くとか、それ以前の話で、実際に会ってますし、みっちり追い込みましたけど何か?
「もしも今後、夢でそんなご神託を聞いていたとしたら、重大な事なので必ず報告してちょうだいね?」
えーっと、文明の発達が挫折するので、好き勝手にして世界に刺激を与えて欲しいとか、涙目で言われましたけど?
「神託の勇者と王家との接触は、ごくわずかでな。
元より力のある者が神託を受けるのか、信託を受けて力を授かるのか、それすら分からん」
あっ、それ多分生まれる前の段階で、あの堕女神がなんかいじくってますよ。
「そうでしたか…… そんな事情があったのですね」
俺はそれを聞いて、静かにそう答えました。
「……ですが僕は凡百の夫、多少環境に恵まれたに過ぎない、辺境領主の息子です。
残念ながら、そんな神託の勇者などと、大それた者ではありません」
俺の答えは決まっています。
そりゃ、全力で断るに決まってるじゃないですか。
領地と見知った人間を守るだけで、アーサー君のちっちゃい手は一杯なんですから!
「そうか…… ただ、ワシの人を見る目は確かでな。お主は何かを秘めておると、確信している。
少なくともただの凡夫を、こうしてサロンに招いたりはせぬ。
お主が立身を望むのならば、将来それなりの居場所を王都に準備してやろう。
そこで身を立てられたのなら、あるいはミレイアも……な?」
「もったいなきお言葉、ありがとうございます」
「うむ、今日は疲れたであろう。もう、下がって良いぞ」
こうして、寿命が数年分くらい縮んだ気がする、サロンでの会談は終わりました。
うん、もう限界…… オチつける気力もないわ……




