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66.ドナドナが避けられない!

プチ飯テロ&酒テロ?

いや~、美味しいって言ってもらえるのは、本当に作った甲斐がありますね。

人生設計が狂ったら、料理人に転身しようかと、本気で考え始めたアーサー君です。




「うむ、熱い。そして、美味いな……」



王様の一言は、小さなものでしたが、重く参加者達の胸に届いたようです。

ピエールさんは、少し俯いて涙をこらえているように見えます。


少ししんみりしてしまいましたが、給仕長も少し嬉しそうに声を上げます。


「肉料理はお楽しみ頂けましたでしょうか?本日最後の料理は、デザートとなります。

こちらも、この場で仕上げさせて頂きますので、どうぞご期待下さいませ」



その言葉と同時に、小さなナイフでピエールさんがオレンジの皮を剥き始めます。

その手際は、さすがの年季で皆が感心したように、それを眺めていますね。



給仕長達が持ってきたのは、鉄皿に入った黄色い三角形のクレープでした。

中にはオレンジのジャムが入っていまして、更に果肉入りのオレンジソースがかけられています。


そこへ、ピエールさんが鉄串に先ほどのオレンジを刺して、準備を整えていきます。


ピエールさんが小さく頷くと、給仕長が合図をして手元の燭台以外のランプが消されます。



「さて、それでは最後のデザートをお出ししたいと思います。 存分にお楽しみ下さい!」



ピエールさんはそう言うと、銅製の片手鍋に蒸留酒を注ぎ、温めて火をつけました。

照明が落とされた室内に蒸留酒が燃える青い炎が浮かび上がって、参加者から感嘆の声が上がりました。


ピエールさんは、集中した様子で慎重に片手鍋、もう片方に鉄串を持ち、鉄皿の上に持ち上げました。

オレンジの皮に火の着いた蒸留酒が注がれ、炎の奔流がクレープに滴り落ちます。


それが消えるのを見計らい、給仕長が各皿に取り分けアイスクリームを添えてから、参加者に供していきました。



オレンジの香りが上品な一品はほのかに温かく、そえられた冷たいアイスとも相性抜群です。


いや、ホントはケーキでも出したかったんですが、焼きあげる時間がなかったんですよね。

そんな訳で、本日のデザートはちょっと中身を変えたクレープ・シュゼットと相成りました。


これなら、ソースを作ってクレープを焼けば、短時間で提供できますからね。



うむうむ、参加者の顔を見れば、一様にその味に驚いた様子です。

ウシガエルも表情を消して、無言で食べていますね。


俺は見てましたからね。こっそり何皿か、おかわりしている所……




はてさて、こうして全員が満足した晩餐が終了しまして、食後のお茶が出されます。

ワイワイと出された料理について、興奮した様子で語り合っています。



「皆様、お楽しみ頂けましたでしょうか?

本日の献立は、アーサー・セルウィン様より、特別のご助力を頂きまして皆様にお出しする事が出来ました。

私自身も、その技術と手法に驚かされ、大いに勉強となりました。


この場を借りまして、お礼を申し上げます」



ピエールさんのその言葉で、わっと会場が沸き立ち、俺もピエールさんと王様の方に向けて一礼すると、更に大きな拍手が鳴りました。



「さて、今回の料理は私の料理人生命をかけて、取り組ませて頂きました。

今回のメニューが不評であった場合、料理長の座を下りると、ある方と約束をしておりました。


ですが、本日の料理に触れて私も刺激を受け、もっと良い料理を作りたい。

年甲斐もなく、そんな事を思い描いてしまいました」



「ピエールさんの料理が、素晴らしかったと言う方は拍手を!」


俺は、ウシガエルが余計な口を挟まないように、そう言いながら自ら手を叩きます。

そしてそれは、ウシガエルを除く、満場一致の大きな拍手となり、会場に鳴り響きました。


うん、王様も王妃様も、そしてミレイア様も拍手をしています。

こりゃ、ウシガエルが何か言おうとも、絶対に覆りませんね!



「今宵の料理は、誠に素晴らしく感慨深いものであった!

ピエール、そしてアーサーよ。褒めて遣わす。


久方ぶりに、心も腹も満たされた。 ――皆もそうであろう?


それに、誰とどんな約束をしたかは知らぬが、今後もピエールの料理を期待しておるぞ!」



はい、ダメ押しの鶴の一声を頂きましたーっ!





王様の一言を聞いたせいか、青い顔をしてウシガエルが退席していきます。

うん、間違いなくフォアグラ再出荷ですな。


まあ、食えたもんじゃないでしょうけど……



うん、ピエールさんも涙を流して喜んでいますね。


いや~、良かった良かった……



さて、王様達が引き上げまして、参加者達も解散し始めました。

俺も面倒が起こらないうちに、さっさと引き上げましょうかね……



「アーサー様、どうぞこちらへ」



おおぅ…… 先程まで味方だったはずの給仕長が、笑顔で俺の退路をブロックしやがります。



いや、ぶっちゃけ今日はハードな1日だったので、正直眠いんですよ。

お腹も満たされましたから、早くあったかいオフトゥンに、ダイブしたいんです!


「どうぞ、こちらへ……」



俺が固まっていると、再び給仕長が笑顔で奥の扉を示してきます。


「はい……」



疲労感と無力感に苛まれつつ、トボトボとドナドナされていくと……




はい、王族ご一家勢揃いでした。


いや、王様にはミレイア様の上に2男いらっしゃるそうですので、正確には両陛下とミレイア様ですね。


この疲労感満載の現状で、雲上の人と会話とか、本気で勘弁して欲しいです。

いや、普段でもこんな緊張する場面は、御免被りたいですが。



「アーサーよ、疲れている所を呼び立てて済まぬな。一度、お主とはゆっくり会話をしたかったのだ」


王様はそう言って、フリーズしておりました俺を、手招きで呼び寄せました。

見ればミレイア様がニコニコしながら、2人がけのソファの片側をポンポンと叩いて、ここに座れと促しました。



「大丈夫よ、そんなに緊張しなくても、取って食べたりはしないから」



王妃様も優しく微笑みながら、そんな事をおっしゃいますが、いや俺がここで粗相したらウチの家なんて、簡単に吹き飛ぶんですからね。




「すみません、失礼致します」



そう言って俺はミレイア様の隣に座りましたが、すぐさま何処かから果実水が運ばれてきました。


なんだか今日は、アーサー君の8年ちょっとの人生の中で三指に入るぐらい、波乱の日みたいです。

もし、この運命があの駄女神の仕業だとしたら、次に会った時は絶対に、正座説教1時間コース確定ですね。


えーっとね。

体はまだダルいですが、眠気は一瞬で吹き飛びましたよ。



「まずは、一言礼を言いたいと思ってな。ミレイアのワガママに付き合ってもらい、嬉しく思うぞ」


「お父様!ワガママだなんて、そんな!」



「ミレイア、少し落ち着きなさい。

貴方の一言でこうしてアーサー君は、両親のもとを離れて領地から王都まで出向き、更には知己のいない王城で何日も過ごすの。


もう少し、自分の言葉の重さについて、しっかりと自覚なさい」




うん、もっと言ってやってくれ。勅使が来た時点で半ば諦めてましたけど、正直予定がダダ狂いなんですからね!



「それでも……逢いたかったんだもの。手加減なしに挑んで、それでも勝てなくて、それに……それに……」


何か、後半は言いよどんでしまいましたが、ミレイア様が顔を赤くしてそんな事を言ってのけましたよ。

それも、少し目をウルウルさせて……


ずるいですよねー。こんな事言われてしまったら、男としてはこれ以上責められませんよね。



「いえ、王都に来たのは自分の勉強にもなりますし、剣を打つと約束もしましたから」



そう言って少しだけミレイア様を援護すると、ミレイア様が俺の言葉に驚いたのか、更に目を潤ませてこちらを見つめてきます。

いや、ちょっと待って! 両親が見てるんだから、感極まった表情で俺の手を握るのはやめて!


王様がロイドさんと化したら、確実に処刑台コースですから!



王様はクツクツと肩を揺らしながら、蒸留酒のグラスを傾けています。

良かった。今ならまだ間に合う。ちょっとフォローしないと。


俺は胸のチーフを抜き出すと、それをミレイア様に手渡して握られた手をフリーにすることに成功し、それから王様の持つグラスに視線を向けます。

王様の飲んでいる蒸留酒は、おそらくウイスキー系のものですね。


もう、氷の魔法に関しては厨房でさんざん披露していますから、問題ないでしょう。


「陛下、お飲みの蒸留酒ですが、のままでお召し上がりですか?」


俺は話題を変えるように、そう切り出しました。


「ん?そうだな。立場上あまり深酒は出来ぬから、少々水を入れているが?」



俺はその言葉を聞くと、先程俺をドナドナしてくれた給仕長に視線を向けました。

それだけで、よく訓練された給仕長はこちらに来てくれます。



「陛下がお飲みのお酒のボトル、それと大きめのボールのような物をお願いできますか?」



それだけで俺の意図を汲んでくれた給仕長は、わずかに頷くと、すぐにそれを用意してくれました。

俺は用意されたボールに、魔法を使って氷を生み出すと、給仕長に手順を説明します。



「氷の固まりをグラスに入れて水を注ぎ、少し混ぜあわせて下さい。

氷の角を落としてグラスを冷やしたら、よく水を切ってから蒸留酒を。


軽く混ぜて氷と蒸留酒を馴染ませたら、そちらを陛下に」



俺はそう言って給仕長に指示を出し、氷の小さな固まりを口に含み、問題ない事を示します。

同じように給仕長も、氷を口に運び、口の上で転がしてから王様に向けて頷きました。


うん、俺には叛意などみじんもない小心者ですが、毒殺なんてあらぬ疑いをかけられるのは嫌ですからね。


そうして出されたオンザロックを、期待していたような表情で待っていた王様は、待ちかねたようにグラスを持ち上げました。

グラスの冷たさを指先で確かめて、少しだけ口元をほころばせてからグラスを傾けます。


「ふむ、香りはやや劣るが、喉越しとこの冷たさは、暑い時期には何よりの馳走だな」


そう言ってツイとグラスを傾けた王様は、上機嫌でこちらに視線を向けてきました。


いやはやあの会話の流れは、ホント心臓に悪かったですからね。

話題が変えられて良かったです。



「いやはや、アーサーよ―― お主には、何度も驚かされるな」



そう言って愉快そうに笑った王様が、再び口を開きます。



「今夜来てもらったのは、その驚きを生み出し続けている理由タネを、教えてもらおうと思ってな」



一瞬だけキラリと光った王様の視線が俺の背筋に、形容しがたい寒気を走らせました。




俺…… 今日一日でどんだけ寿命が縮むんでしょうか……


明日から通常更新予定

感想欄でデザートを当てられて、変更しようかと悩んだのはここだけのひみちゅ(´・ω・`)

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