51.アランさんの言うことにゃ
突然呼び出しとか、心臓と息子に悪いのでやめてくれませんかねぇ。
はい、王家の意向には逆らえない弱小支店の跡取り息子、アーサー君です。
その日は例によって領都の近くで開墾作業に勤しんでいたのですが、そこに突然騎士団の人がやって来たのです。
「アーサー様! 至急、館にお戻り下さい!」
馬を飛ばしてきたであろう、騎士団の人は弾む息を整えることもなく、俺を探して声を張り上げます。
何だ、なんだ?
騎士団の人がこれだけ慌てて出てくるってのは、只事ではありません。
魔物の集団発生にしても、ダリルさんが嬉々として対応してくれますし、周辺の領主達とも関係はそれなりに良好ですからね。
「僕はここだ! 何があった?」
状況説明を求めて声を張り上げますが、なんでしょう。なんだか久しぶりに領主の息子らしい対応をした気がします。
うん、きっと気のせいだ。 たぶん気のせいなんだ…… グスン。
「アーサー様、至急館にお戻り下さい。先ほど先触れの騎士が参りまして、王家からの使者が、わが領に間もなく到達するそうです!」
なぬ! それは大変です。
領地に王家の使者が来るのに、受け取る側の領主一家が揃っていないとなれば、不敬とも取られかねません。
その辺は使者の胸先三寸で印象を報告されてしまいますから、それなりの饗応をしなければ不興をかってしまいます。
まあ、なんて面倒くさいんでしょうね。貴族社会って!
「わかった。すぐに戻る!」
そう言って俺は手に持っていたクワを、手近な農民さんにあずけて魔力強化を発動します。
ええ、文字通りダッシュで戻りましたよ。
なるほど、領主館に戻ってみれば正面の馬留に、見慣れない立派な馬が繋がれていました。
んで、その胸元には王家の騎士団の紋章が輝いていますね。
そのまま自室に戻り、軽く汗を拭いすぐに着替えます。
俺の帰宅に気づいてどこからともなくリーラが現れまして、手桶の水や着替えを用意してくれるあたり、メイドスキルは高いんですよね。
「リーラ、先触れの人がどんな用件で来たか聞いてる?」
俺は着替えをしながらリーラに聞いてみると、すぐに答えが返ってきました。
「はい、なんでもアーサー様に対して勅使がいらっしゃると」
うげっ、そうなると思い当たるフシは一つしかありません。
俺は応接室に向かい、ノックしてから扉を開けました。
すると、そこにいたのは先日見た事のある顔でした。
え~っと、たしかミレイア様のお付きの騎士でアランさん……でしたよね?
それに父様と母様も、部屋の中で俺の到着を待っていたようです。
おや? 室内の面々はあまり緊張したり深刻そうな顔をしていませんね。あまり大事ではないのでしょうか?
「やあ、アーサー君、先日は色々とご苦労だったね」
相変わらずさわやかな笑顔で、立ち上がったアランさんが俺に言葉をかけてくれます。
「アランさんも、お役目お疲れ様です」
俺は一礼して父様の横に座ると、アランさんが今回の用件を切り出しました。
「さて、突然の使者が来ることになった訳なんだが……」
そこまで切り出してから、アランさんは深くため息を吐いてから、深々と頭を下げてきました。
「すまん、私の不手際で君からの書簡がミレイア様の目に入ってしまってな」
おーぅ、それでだいたい話の筋が読めた気がします。
「今回の勅使は、ほぼミレイア様の差配で、内容としてはアーサー君に、直接剣を持参して欲しいという事だ」
あぁ、やっぱりそうでしたか……
「えーっと、勅使が出て達せられるということは……」
「うん、申し訳ないんだが……」
やっぱり、断るのは無理みたいですね。
そこまで聞いた所で、父様がわざとらしく咳払いをして会話に割り込んできました。
「ゴホン、表向きの用件は使者の方から伺うとして、王女様の直属護衛であるアラン殿が、ここに来た理由を教えて頂けませんかね?」
どうやら俺が到着するまで、差し障りの無い会話しかしていなかったようで、少しだけ眼光を鋭くした父様が、直球で切り込みました。
言われてみればそうですね。護衛という自分の役割を差し置いてまで、使者の護衛と言うか先触れに出るというのは、少し引っかかります。
母様も表面上はニコニコしていますが、アランさんが良からぬことを口走れば、問答無用で倉庫に連行しそうな勢いですよ。
「やはり、気づかれましたか…… しかし、当人の前で問題ありませんか?何でしたら後ほどお話しても……」
「いえ、この場で聞かせて頂ければ助かります。僕が関わっている事なのに、知らされないのは不服ですね」
アランさんがチラリとこちらに視線を向けて、そう話し出したので、俺は父様とアランさん両方を牽制する意味で口を開きます。
口先で営業してた俺を丸め込めるとか、無理ですからね。
「そうですか、それではお話しましょう」
そう言って出されていたお茶を一口含むと、アランさんはゆっくりと語り始めました。
「ミレイア様が城内で盛んに触れ回っているせいで、ハワース伯のご子息がたいそうお冠なんです。
周囲にアーサー君を叩きのめすと公言して、はばかりません。
それによって城の中は、少々ピリピリしていまして……」
アランさんの話しによれば、ミレイア様は俺が領内に逃げ帰ってからというもの、ナイフを肌身離さず持ち歩いているらしい。
それに、物思いに耽る事が多くなったかと思えば、剣の時間にはこれまで以上に、稽古に熱を入れて打ち込む事が多くなったみたいです。
ミレイア様曰く 「次にアーサーと会った時に強くなったねと褒めてもらいたい」 なんて、女官にこぼしてたらしいです。
うわー、ツンデレとか今どきあんまり流行らないですよ……
「しかも、そのせいでミレイア様のディボ殿への態度が、日増しに悪くなっていきまして、それで周囲に当たり散らすほど怒っているらしいのです」
なんでしょう。俺としてはとばっちりもいい所なんですが、婚約者に冷たくあしらわれるとか、本当なら心から同情と謝罪をしたいんですが。
まったくディボに同情できないのは、あの性格のせいでしょうかね?
「今の所王都の中の貴族達は大多数が中立を保っていますし、大人が絡むような事態には発展していません。
ですが北部の名家の間では、ハワーズ辺境伯家のスキャンダルにつながらないかと、虎視眈々と様子を見ています。
それと対をなすように、ディボ殿の取り巻きが騒ぎ出しており、辺境伯様から強くたしなめられたそうです」
確かディボって俺と同い年でしたよね?
それで取り巻きとか、一体世の中どうなっているんでしょうか?
それに、チラリと母様にアランさんが視線を向けたのを見れば、どうやら母様の素性についても知ってるみたいですね。
「ふむ、王都の情報や貴族達の世情には当家では疎くて……」
父様が釈明するようにアランさんに受け答えしましたが、それ嘘ですよね?
ロイドさんのネットワークを駆使して、定期的に王都の内部情報は仕入れてますよね?
俺、知ってますよ?
父様が近しい貴族に何通も親書を認めてくれた事。この前、偶然書き損じの手紙見つけちゃいましたから……
恥ずかしいから黙ってたんですけどね……
すんません。いつも息子が迷惑かけまして……
「一応、辺境伯様からたしなめられた事で、表面上は落ち着いたようなのですが、裏では何やら動いているようでして」
……なんですと?
アランさんの話だと、ディボの王都の別宅に出入りしている商人の息子や、寄親になっている配下の下級貴族達が、取り巻きらしいですね。
何やら水面下で色々と策を弄しているかもしれず、もしも術中にかかってしまえば、王家の中にいらぬ波乱を呼んでしまうかもしれないと。
「それで、ミレイア様にお願いを致しまして、私が直接訪ねさせて頂いた次第です」
「それで、その小細工とやらの詳細については?」
あら、父様が何か冒険者オーラ全開で、アランさんの話に聞き入ってますよ。
その気持ちはよくわかります。俺もたぶん子供が何か罠にはめられそうだとしたら、ブチ切れる自信がありますからね。
「一応、内密にデレク団長にも話を通してあり、王国の諜報部門に調べさせてはいるのですが、時間が足りませんで」
父様のオーラを浴びても怯むことなく会話を続けられるあたり、アランさんもやはり騎士としては一流なんでしょう。
「なるほど、アーサーが王都に向かうにあたって何かしらの妨害が考えられると言う事ですかな?」
うん、父様の迫力が当社比3割増しぐらいになっております。
「子供の悪戯程度であれば、問題はないと思うのですが、稚児が権力をかさにすると、小火のつもりが大火を生むこともあります」
「それならば、アーサーが謎の病気で臥せったことにしちゃう?」
ナイスアイデアに思えたのですが、母様のその意見にアランさんが力なく首を横に振ります。
「いえ、それも叶わないでしょう。
まず第一に、今回の勅令には続きがあります。
アーサー君が剣を届けた後、全く新しい剣ですのでその使い方をミレイア様に伝授する事。
そして、もう一つが今回来る使者が、ハワーズ辺境伯の取り巻きであるという事です……」
あっちゃ~、なんですかね?
この退路絶たれた上に内堀まで埋められた感。
俺が何をしたと言うんでしょうか?
いえ、すみません、自分が蒔いた種でしたね。
ちくしょう!俺の平穏な人生を返せーっ!




