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50.使者さんがやって来ました!

はい、本気で息子の身長が縮んだかと思ったアーサー君です。

まだ未使用なんだから、大切に育てていかなければいけませんね。


そのためには、なるべく倉庫送りは避けないと……



あれから数日経ちまして、俺は自宅で今後の領地改革について色々と書類を書いています。

いえ、怒った母様から外出禁止令を出されたとか、そんな事は…… あります!


そんな訳で王都に言って行っている間に幾つか進展があったり、逆に問題が発生した場所に対しては、対処を書類にまとめていきます。

まあ、これがめんどくさいんですよ。正式な書類を作るには現場用と領主館で保管用の2通書かなきゃいけません。

ペンで書いてますから、書き損じがでたらアウトです。


紙代もバカになりませんし、羊皮紙はゴワゴワして書きづらいんですよね。

幸いにして大森林という木材の宝庫がありますから、製紙業も始めようかしら?


これから学校教育を始めていけば、必然的に紙の消費量が増えますから、今のうちから研究しておくのも良いかもしれません。

そうと決まれば、ポケットマネーから研究を行う人を雇って、領内に製紙の研究施設を……


あれ?なぜか、書かなきゃいけない書類が増えたぞ?



昼過ぎになって、やっと書類の整理が終わりまして一息つけました。


「アーサー様、おやつの時間ですよー!」


いいタイミングでリーラが来てくれまして、おやつの時間になりました。

今日のおやつはシフォンケーキですか。牛乳が安定して手に入るようになりましたからね。

試験的に生クリームを作ったら、えらく好評で甘いもののバリエーションも増えてきました。



「ああ、そう言えば街に買い物に行ったら、武器屋のドワーフさんから『例の物が完成した』と伝えてくれって」


「おお!さすがエルモさん仕事早いな!」



俺はケーキを頬張りながら、待ちわびていた報せを受け取りました。

これで打ち上がった刀を王都に送ってしまえば、この一件は沈静化してくれるんじゃないでしょうかね?

人の噂も七十五日って言いますからね。


「そっか~!出来上がったなら、取りに行かないといけないよね?」


俺としてもそろそろ監禁生活から抜け出す口実が欲しかったので、これ幸いとリーラを籠絡にかかりました。


「アーサー様、ディアナ様から暫くの間は外出禁止って言われてましたよね?

ダメですよ。また倉庫に連れて行かれちゃいますよ~」


「え~、でもエルモさんも待ってるだろうから、待たせる訳にはいかないよね」


俺はそう言いながら、もう一切れ残っていたケーキを、スススッ とリーラの方に滑らせます。

最近、栄養が行き渡ったのか、俺からのおやつ譲渡が胸部装甲の増強に寄与したのか。


ますますメリハリの効いたボディをくねくねさせながら、リーラはケーキをものすごい勢いでパクつきます。

口元に生クリームがついてますが、そのへんはスルーしましょう。


「そういえば、お母様から夕食の買い物に行ってきて欲しいって、頼まれてましたねー」


なんか、凄い棒読みですがリーラの意図するところは読めました。


「そっか、リーラ一人じゃ買い物の荷物重いよね?俺が手伝おうか?」


「仕方ありませんねー! そこまで言われたら断れませんねー」



こうして、シフォンケーキでリーラの買収に成功した俺は、数日ぶりにエルモさんの工房を訪れました。



「おお、アーサーやっと来たか!」



俺がリーラと一緒に工房に顔を出すと、エルモさんが顔を上げ作業の手を止めて、俺を出迎えてくれました。

リーラと一緒に工房に来たのは、そう言えば最初に見学に来た時以来でしたね。

なんだか小綺麗な格好でメイド連れてやって来た俺を見て、何人かは驚いているみたいです。


「なんだ、あのきれいな嬢ちゃんは」 とか 「アーサーって、ホントに領主様の息子だったんだ」


なんて声が聞こえてきます。



「すみませんエルモさん、作業半ばであんな事になってしまって」


「いいさ、気にするな。それよりも刀を取りに来たんだろう?」



そう言って苦笑したエルモさんは、作業場の奥に引っ込んで行き、少ししてから細長い木箱を2つ持って戻ってきました。


「こっちがお前の刀で、この赤い包みが献上品だ」



まだ日が高く、弟子さんの他にも人目があるので、ここで自分の刀を抜く訳にはいかないので、ミレイア様の刀を抜いて確かめます。

こちらもミスリルと魔光銀で作られた、名刀であることは間違いありません。


エルモさんが刀を作り慣れたということもあるのか、曇りや歪みもなく間違いなく一級品です。

花をあしらった鍔と朱色の鞘、柄巻も赤でミレイア様のイメージにピッタリですね。


俺の刀が一尺八寸で、ミレイア様の方は一尺五寸と少し短めに作ってもらいました。

俺は今後も成長が見込めますから、少し長めに作ってもらいました。これでリーチがうんぬんは解消ですね。


素材もオリハルコンですから、余程のことがなければ、これ以上のモノを求める必要はないでしょう。


ミレイア様の刀を箱に収めて、予め持ってきていた金貨をエルモさんに手渡します。


「流石ですね。こちらは代金です」


俺が手渡した金貨を見て、エルモさんはその中から半分を取り出すと、俺の手に押し付けてきました。


「多すぎるだろ。あっちのヤツ(かたな)は、仕事で打ったんじゃない」


エルモさんはチラリと俺の刀に目を向けてから、ぶっきらぼうにそんな事を言い放ちます。

いや、そりゃ時間外にこっそり打ってもらったんですが、対価を払わないってのはマズいですよ。


そんな俺の気持ちを察したのか、エルモさんが機先を制して口を開きます。


「それなら今後もお前の剣は、俺が面倒を見る。それとこっちにいる間は顔を出して仕事を手伝え。それが代金だ」


あれま、そう言われたら返す言葉がありませんね。

まあ、領主以外にも仕事先があるってのはいいことかもしれません。


俺は黙って頷くと、リーラと一緒に一度頭を下げてから武器屋を後にしました。


屋敷に戻ってから、買い物の荷物を届けに行ったリーラと別れて自室に戻った俺は、待ちきれないとばかりに自分の刀を取り出します。

薄い布を外して刀を取り出すと、黒の塗り鞘と柄巻も黒の一見すれば地味な刀が姿を表しました。


ただし、一点だけキラリと光る小ぶりの鍔は、透かしで龍をあしらってもらいました。

本当は武器に装飾はあまりしない主義なんですが、これは素材を貰ったヴェーラさんへの感謝の気持ですね。


俺は鯉口を切ると、ゆっくりと鞘を払いました。

現在使っている魔光銀とミスリルの脇差しも、息を呑む美しさでしたが、この小太刀はその比ではありません。

向こうが透けて見えるのではないかと思われるほどの透明感と、青みがかった波紋が言葉を失う程の美しさです。


これだけで間違いなく一種の芸術として完成されていると言っても、過言ではないでしょう。


暫くの間、ぼーっと眺めていましたが、思い直して刀としてのバランスや重さを確かめます。

握った第一印象は、まず軽いと言うことですね。


決して細造りではないしっかりとした身幅があるのですが、まるで刀身がないような軽さです。

しかし、軽く振ってみれば確かな感触と、ヒュッという風切り音が鳴り響きます。


これはエルモさんの腕もあるでしょうね。前世で国宝級の古刀を握らせて貰う機会があったのですが、それに勝るとも劣らない出来です。

たぶん、向こうの世界でエルモさんが刀を打ったら、間違いなく人間国宝に指定されるかもしれません。


俺は感嘆のため息をこぼしてから、納刀して空間魔法に刀を収納します。

うん、これは俺の宝物ですからね。肌身離さずしっかりキープしておかないと!


いい物が手に入ると、現金なもので人間やる気が出てきますね。

さっさと残りの仕事を片付けようと、俺は机に向かいました。


具体的には王都に送るミレイア様の刀について、問い合わせをしないといけません。

送り先を間違って盗まれたとかあったら洒落になりませんので、送り先を確認してからでなければ発送出来ないんですよね。

この世界には『黒いぬこさま』も、『飛脚さん』もいませんからね。


通販で翌日に品物が届くとか、改めて前世の便利さを痛感しますよ。


たぶん、ミレイア様の刀は、この周辺を魔物討伐や治安維持で巡回している護民騎士団や徴税官に預けることになるでしょうね。

それでなければロイドさんのような信頼できる人に預けて、王城に直接届けてもらうことになるでしょう。


どちらにしろ、この刀がミレイア様の所に届けば王都での一騒動は、全て片がつくのです。

あとは王都に行く用事なんてありませんから、大丈夫でしょう。


そういう訳で、サラサラと手紙を認めまして封蝋で封印し、宛先を書き添えます。

これで定期的に王都と往復している定期便に放り込めば、数週間で返事が来るでしょう。


気がかりだった一件も片付きまして、しばらくは領内の改革に注力できそうです。


それと新しい刀の試し切りをヴェーラさんの所でさせてもらおう。

脇差しの時は試し切りで、エルモさんの工房が大変なことになりましたから、多少無茶しても問題ないところで存分にテストしたい物です。

ヴェーラさんに、刀が完成したっていうのも、報告しなきゃいけませんからね!





それから十日ほど経ちまして、王都に向けて手紙を送った事もすっかり記憶の片隅に追いやられた頃……


エドガルド王国の紋章を掲げた馬車が、領主館に突然やって来たのです。



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