第十二話:たーくんとウシジマくん・後編
第十二話:たーくんとウシジマくん・後編
◆変わらずウシジマくんのお部屋◆
こちらお姉ちゃん。
『なろうで遊ぶ』と、良く分からないことを言ったウシジマくん。
「うー。どういう事?」
すると代わりに説明してくれるらしい天使・たーくん。
「えーっとね! ウシジマくん、まだ書いてはいないんだけど、なろうに興味があるんだって!」
「へー! 意外だねー。なんとなく、ウシジマくんって運動が一番好きなのかなーって思ってた!」
ウシジマくんがちょっと首を傾げます。
「運動も好きだけど、たーが教えてくれた本とか、漫画とか読んでる内になろうにも興味が出てきたんだ」
「おー。ならたーくんは投稿していることをウシジマくんに教えたの?」
「うん! あのブクマが来た時に教えたんだー!」
なるほど。たーくんのことだから、その喜びを親友のウシジマくんにも伝えたかったのでしょう。
(理由がかわいすぎます……!)
たーくんが説明を続けてくれます。
「それでねー! 僕がウシジマくんも書けばー? って言ったら『ちょっとやってみる!』って!」
「なるほど……」
そっか、それでなろう発の作家でもあるお姉ちゃんが招かれたんですね。
それにしても、ウシジマくんはどんなお話を書いてみたいんだろう。
「ウシジマくんは何に興味があったりするの?」
「んー、俺、正直、漫画のほうが好きなんだ!」
「へーなんの?」
「ツーピースとか! 後は転メタスラももちろん好き!」
「おーいいじゃん! どんな感じで書くか、考えてる?」
「……それがまだ、ちょっと難しくて……」
まあそうだよねー。いきなり書き始めるって結構ハードル高いもん。
ここはちょっと、先輩に意見を仰いでみようか。
「たーくんは、ウシジマくんはどんなお話を書いたらいいと思う?」
「んー、いきなりは難しいから、二次創作とか書いたらいいと思う!」
たまげた。
それはいいアイデアだと思う
最初は、自分の好きなキャラを主人公に話を進めるほうが良いかも。だってもうキャラの骨格は完成してるし。
執筆にハマるいいきっかけになるかもしれない。
「じゃあウシジマ君、何を参考にしてみる?」
「じゃあ転メタスラ!」
言うまでもありませんが、転メタスラは王道ファンタジー。
そこに「自分だったらどんな設定を足そう?」「キャラクターを足そう?」を考える楽しみがあります。
(しかしどんな文体で書くつもりなんでしょうか?)
興味津々。
私とたーくんはウシジマくんにスマホを持たせて、取り敢えず見守ります。
「おーし! 二人を驚かせるような話書いてやるからな!」
「「うん!」」
ウシジマくん。やはりこの子も最近の子よろしく爆速フリック入力を獲得済み。
意外にも、出だしはスムーズでした。
サッサさっさとタイピングしていくウシジマくん。
十分後。
「良し! 二人ともできた!」
「「見せて見せて!」」
――――――――
■タイトル:贖いの転生
歩き慣れた、血に塗れた泥濘。
この戦場は、一人の手によって生み出された犠牲者の肉体で彩られたスープである。
「……乾いている」
ぼそっと呟く、湿度を纏った男の独り言は、どうやら天上にいるであろう女神様に向けたものであるらしい。
「なあ。もういいだろ。いつまでこんな事をやらせるんだ? 女神よ」
返事はない。
「……こんな腐った世界で何をやれって言うんだよ!」
返事はない。
「……また悪役令嬢と恋に落ちたり、スライムになって国を救ったり、聖剣になって救ったりすれば良いのか?」
返事はない。
「……なにやったって、どうせ俺はまた転生を繰り返すんだ」
返事はない。
男が何を言おうとも、女神とやらは素知らぬ顔で男を見下す。姿も見せずに。
男が何を成そうとも、恋に落ちようとも女神は最後にはこの男を殺し、また別の世界に転生させる。
この世界で彼が積み上げた功績は、どうせ全て無に帰すのだ。
――――――――
――何この才能の塊……!?
いやブリブリに面白そうですね、これ。
プロローグとして満点じゃないですか?
ちなみにこれ、二次創作って言いません。めっちゃ一次創作です。
完全にウシジマくんが創り出した、なろうの文脈を引き継いだ新たな物語の幕開けです。
(めっさ続き読みたい……!)
「ねえねえ、ウシジマくん?」
「なに? たーのねーちゃん」
「この後、この男の人はどうなるの?」
「ああ。この人はこの世界を救った後、スローライフするんだ」
(逆転の発想!)
天才のそれです。
それって絶対『主人公が実は心の奥底で本当にやりたかったけど、自分では気づいていない、人生の正解の一つ』とかだと思うんですよ。
闘いに明け暮れたトータルの人生。目的を達成しても徒労に終わる。そんな無駄を繰り返してきた。
ならば、次に行くべき世界って『目的のない世界』。
数々の並行世界を救ってきた英雄へ向けた、女神からの本当の祝福が『スローライフ』である。
(ってことだと思うんです)
「いやすごいよ! ウシジマくん! これでプロット練ったほうが良いよ!」
「え! マジで!?」
「ほんとに! 続き読みたいもん!」
「えへへ……やった!」
いや、物語の構成もそうですけど、そもそもの国語力がカンストしてます。
何? 『贖い』? それって小学一年生の語彙ですか? 私日常生活で使ったことないんですけど?
実は現在、ウシジマくんが贖い中だったりしない? ウシジマくんこそ死んだおっさんが転生して子供の姿になったとかだったりしない?
「なー。たーのねーちゃん?」
「なぁに?」
「この後、どうしたらいいかな?」
んー。私には思いつかなかった設定だったからなー。
(こういうのって私が考えるべきじゃないような……)
動き出した物語は、能動的な創世者のみが稼働させるべきである。
これは私の持論です。それに、私はこの物語の作者ではなく読者になりたい。
(なのでここは逃げます)
ひとしきり考え、この結論に達した私はたーくんの方を向き直ります。
「えっとね。たーくんはどう思う?」
するとたーくん。
「んーっとね。僕もウシジマくんが書き続けた方が良いと思う」
(大人の意見!)
私とたーくんの意見は一致。このまま二人でウシジマくんの創作を見守りながら、一日を終えました。
◇
「「またねー! ウシジマくんー!」」
「おう! またなー!」
ウシジマくんが玄関まで見送ってれて。見守られながら私達は二人だけの帰路につきます。
私達はお手々を繋ぎながら、今日あったことを話しました。
メロンが美味しかったこと。ウシジマくんにとんでもない才能がありそうなこと。
そして、たーくんがウシジマくんに嫉妬していたこと。
「おねーちゃん、すっごいウシジマくんを褒めるから……」
(きゃわわ!)
なのにたーくんは、ウシジマくんの前で、そんな姿を見せませんでした。
私には、全く分からなかった。たーくんの大人びた感情を。
私はしゃがみます。たーくんの目線に合わせるため。頭を撫でるため。
「たーくん偉いねー……。我慢してたんだねー」
「……うん」
たーくんが私の胸に沈み込みます。まるでお姉ちゃんは僕のものだぞと言わんばかりに。
嫉妬は重い。でも、想い人からの嫉妬の質量は、多ければ多いほど良い。
「よしよし……。偉いぞ偉いぞー」
「……」
胸元に顔を埋めたまま、ぎゅう、と私の服の裾を握りしめる小さな手。
すっかり私の肉感に埋もれて、たーくんの表情は見えません。
――うん、やっぱり。
どんな才能あるライバルが現れようと、この特等席だけは誰にも譲る気はないみたいです。
「じゃ、お家に帰ったら……たーくんの小説、続き書こっか」
「……うんっ」
夕暮れの帰り道。
私の胸元から顔を上げた小さな作家先生は、さっきよりずっと誇らしげに、力強く頷いてくれました。




