86話 ???「恋の呼吸――」
エマさんは鍋の蓋程度の小型の盾に、人二人分程の長さを持つ靭やかな剣を取り出した。
盾を持った手でメガネを外し、インベントリにしまった。
そして馬車の後ろから降り、スタスタとオーガの群れと対峙。
オーガたちは魔物にしてはずいぶんと出来のいい金属の武器をお持ちだ。光沢のある金棒なり研がれた両刃の剣。
前方のオーガがエマさんに咆哮。金棒を振りかぶった。
エマさんは物怖じせずに剣、ウルミを構え、刃に青い光が灯った。
黒英刀だ。ウルミ型の黒英刀。
先制はオーガ。金棒を振り下ろす。
だが、エマさんは小さな盾で受けて止める。片手で跳ね返してから一振り。
靭やかな黒剣は鞭のようにオーガの腹にヒット。オーガは痛みを嘆く。
その傷は鞭よりも深刻。痣ではなく、皮を切り裂くような切傷。
だが、傷は浅い。元来の黒英刀なら、既に身体は真っ二つ。
先鋒のオーガが周りのオーガに鳴き叫ぶ。すると、他のオーガも戦闘態勢に入った。
「エマさん大丈夫!?」
「大丈夫、こっからがこの黒英刀の真髄だから」
エマさんは深呼吸してから、オーガに斬りかかる。片手で黒英刀を振り回した。遠心力を帯びる。
刀身の長い黒英刀は、周囲のオーガを一網打尽。
剥ぐように刃は彼らに刺さり、手足を切り取る。
血飛沫をもろに浴びながら群れの中へと剣技を続ける。
小さな盾はどんな攻撃も受け流し、黒英刀は鞭のように伸び縮みして傷口を広げる。
何より、エマさんはその黒英刀に一度も自身を傷つけていない。まるで身体の一部かのように扱う。
圧倒的パワーを盾で滑らせ、素早い一蹴り。
オーガが後退したら、ちょうど彼らの首辺りまで跳躍。
滞空中、素早い回転により、首を跳ね飛ばす。
その姿は当に達人だった。私たちが手を止めて見惚れる程の御業。
オーガが剣で黒英刀を受け止めるが、自慢の靭やかさで裏から一撃。脊椎を損傷。
エマさんの貢献により、オーガは半壊。敗走を始めた。
「私も……」
「負けてられないよね……!」
続いてアリス、クララも魔法を発動。
「ル クル デュ シエル!」
「デフェルラント ドゥ トネール」
天から神々しい光の釘がオーガたちを直撃。そして、連鎖するようにオーガへ稲光が伝達。
オーガの群れは壊滅した。流石は勇者パーティ。
「終わった……?」
私の出る幕はなかったようだ。
「ッ! 誰か来るっ!」
アリスが私に覆い被さる。同時に馬車が天井から半壊。
「ッ!?」
「キャァッ!?」
光源が破壊された。すぐに暗視ビジョンに切り替わる。目が捉えたのは、黒ずくめの戦闘服をした男。
「近衛兵……!」
一人の近衛兵が黒英刀を持って馬車に乗り込んだ。
「嘘……っ!」
感情が一切読み取れない戦闘用覆面。
だが、こんな土壇場で近衛兵の後ろが気になった。何か柔らかな青い光が見えた。
近衛兵は一切無駄のない手付きで刀を構え、私の首に降りかる。反射的に目を瞑った。
――カッ!
何か弾かれたような甲高い音が聞こえた。
鍋蓋サイズの青い、ガラスのような盾が黒英刀の一撃を防いでくれた。
「はぁ――ッ!」
後ろからエマさんが近衛兵に斬りかかる。
「――チッ」
近衛兵はワープで消え、エマさんは虚空を斬った。
その頃には、ガラスのような盾は消え、ヒラヒラと源光蝶が闇夜に消えた。
「大丈夫?」
エマさんはすかさず私の安否を確認。
「……なんとか、だけど……」
馬車はボロボロ。使えなくはないが。
「これ」
「なにこれ」
エマさんはヒョイっとオーガが持っていた剣を渡した。新品同様の黒い光沢が輝く。
「絶原性合金の剣」
「ッ!?」
「魔物の襲撃に見せかけて――って算段だったんだろうね」
「……」
☆
とりあえず、なんとか十一時過ぎに帰宅して寝た。
だが、うかうかしてられない。一刻も早く手を打たなければ、いずれこっちが消耗しきる。
翌日のこと。
「ポールは船の中に入ってきた敵を倒せばいいの? なら任せて!」
「それで、これを使って」
エマさんはポールに三つの剣と一つのウスクのような灰色の首飾り見せた。
「ん〜? なにこれ?」
ポールは耳をぴょこぴょこさせて興味を示す。
「絶原鉄剣とシールド。これで近衛兵の足止めをするの」
「わかった! じゃあ今日から三刀流練習するね!」
「いやそういう意味じゃなくて……」
エマさんの意図は、二本が予備ということ。
「エマさん、ここはポールに任せましょう。これでも、剣技の達人なので」
エマさんはアリスの言葉を半信半疑で受け取った。
「そしてクララとポーリーヌはバリアで陽電子砲の衝撃を受け止めて」
私はその光景を横目に二人に告ぐ。
「はい」
「わかった」
「"豊川外交官、指定時刻に卯月を持って行けばいいんだな?"」
「はい、おねがいします」
オルガ大佐にも協力を打診。二つ返事で承諾してもらい、卯月を使うことになった。
「"豊川さん、こっちも準備しとく!"」
ラーゼさん達にも協力を仰いだ。彼女たちは砲撃手に測量、操舵出自を持つ。
私たちはローニ級に乗り、エンジンのスペクトル解析を行う。エンジン回復次第、陽電子砲の試射。そして、同時進行で元帥に意見具申。
晴れて暗殺者の手から逃れられるってわけだ。




