85話 責任転嫁の始末
なんとか生ある朝を迎えた。次の朝も生ある朝を迎えたい。
「ねぇ~、なんかマドレーヌ夫人からなんか来てるよ〜?」
ポールが白い手紙を片手に部屋に入ってきた。
手紙を手に取り、マドレーヌ家の紋様をした赤い封を外して拝見。
「あ〜、これはまずい」
「ん〜?」
とりあえず、みんなに報告。安城はいないが、エマさんはいる。
「パルテールの一件、全部私たちのせいみたいになってるのか」
「鍛冶屋と貨物拠点の爆破、御者の惨殺……すぐにマドレーヌ邸に来いと」
ポーリーヌに続いてエーヴが事例を読み上げる。
「近衛兵……ほんと責任転嫁も得意なこと」
エマさんは言葉をこぼす。
「通りで馬車の停留所が血生臭かったのか……」
ポーリーヌは何か思い当たる節がある素振り。
「どうするの? コトネ」
「流石に逃げられないんじゃない……?」
というのも、マドレーヌ家はコントーレ随一の外交貴族。お得意さんを怒らせるのは何かとまずい。できることなら、弁明に努めたい。
「コトネ様、近衛兵が嗅ぎつけないわけがないと思います。あなたはここに残って私とクララ、エマ様が――」
「いや、私も行く」
「アリス、コトネと一緒に行こ」
「……わかった」
アリスは渋々了承した。
マドレーヌ夫人は私がお尋ね者であるにも関わらずもてなしてくれた。
華やかな客室に案内され、ソファーに腰を下ろす。
すぐにローテーブルにお茶や菓子などが出てきた。ずいぶんとご立腹に見えたが、ご丁寧なおもてなし。
内装というのは庶民である私にとってあまりにも似つかわしくない。洋画でしか見たことないような装飾で彩られている。それでも大使館の客室と物の配置は大して変わりはない。
マドレーヌ婦人は、召使いが用意したポットをそれぞれのカップに淹れ、自身のを一口召し上がる。
「……それで話というのは?」
「単刀直入に申しますが、領事裁判権の撤回をしていただきたく存じます」
「……? それはどういう……?」
てっきり、パルテールの件について追及されるかと思った。たしか、
「先日のパルテールでの爆破及び殺害事件、それはあなた達、ベセトアで間違いないですね?」
柔らかな微笑みを見せるが、目は笑っていない。
「……はい、あれは近衛兵と呼ばれるベセトア随一の戦闘員の仕業です。彼らは彼女、豊川を殺害しようと此度の騒動を引き起こしたと思われます」
エマさんは丁寧に罪隠さず顛末を語った。
「私としては、民間人の殺害は看過できません。当局に市街での戦闘を申し立てたのですが、白を切るばかりでして……。裁判を起こそうにも、弁護士から領事裁判権のない今、圧倒的に不利と……」
マドレーヌ婦人は拳を握り、悔しさを滲み出していた。
「申し上げにくいのですが……私たちにそんな権限は……」
当然私は外交官のしたっぱ。領事裁判権を撤回する権限は持ち合わせていない。それはエマさんも同じ。
「はい、それは十分に承知の上です。ですがあなたたちでも、撤回させる方法はあります」
「それは一体……?」
「気乗りはしませんが、渡りに船だと思います」
私たちは出されたカップを飲んだ。
マドレーヌ夫人との二時間に及ぶ会合が終わり、帰路についた。
たしか、前にヴィーインさんが言ってたか、「今代のマドレーヌ家当主はくせ者だ」と。
今回の話は当にその逸話を助長するものだった。
日が傾いてきたが、このまま屋敷に戻る。早馬なら午後十時前にはつく。ちなみに出発は午後四時過ぎ。
日が沈み、ランタンを灯しながら馬車は街道を突き進む。御者のクララは慎重に馬を操る。
「豊川さん、周り見てて。この中で暗視ビジョンがあるのは私たちだけ」
「わかりました」
エマさんに言われた通り、私たちは馬車の窓から顔を覗かせ、周囲を警戒。昼間みたく視界はクリア。青々とした平原が広がっている。
「本当に、元帥は応じてくれるんですかね?」
「……わからない。でも、結果を出して意見具申しないことには何も始まらない」
行動をしない限りは、現状は覆らない。
「未知数じゃないですか? ヒンベルに元帥へ頼み込むって」
「安心して、彼は元帥の孫弟子。私の知ってる中で一番通りやすいのは彼しかいない」
その根拠はどこにあるのだろうか。親しい縁の人に人は甘くなると言うが、どの程度か推し量れたものじゃない。
「――一時方向! 大軍が向かってる!」
「「ッ!?」」
ダウナー系のエマさんは少し大きめの声を発した。それを皮切りに私たちは一時方向に視線を集中。
「……? 何あれ……? 人……?」
デブハゲ半裸の二足歩行の大軍がこちらに向かっている。
「いや――奴らはオーガ。気を付けてください、ここらへんの魔物よりも数段強いです」
私の問いにアリスは答えた。
「クララ、きり抜けられる?」
「……撒けないわ。戦闘準備して!」
私はすぐにインベントリから拳銃とグレネードを取り出す。
アリスとクララも自前の杖を手に取る――あれ。
「……もしかして、後衛しかいない?」
私は二人と見つめ合う。
「あーーっ! やっちゃった……!」
クララは顔を押さえて悔やんだ。
「申し訳ございません、戦闘はないと想定して……」
アリスは心から誠意を見せる。
「――ねえ、誰が後衛だって決めつけたの?」
「……?」
エマさんは後ろから何か左腰にかけている。
「見てて。前衛は私」
腰から剣を取り出した、柔軟な細身の剣。




