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パスファインダー  作者: イガゴヨウ
第四章
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第五話

すぐに周囲の様子が感覚の中に浮かび上がり、一気に、僕の世界が広がっていく。


探知の波は次々と情報を捉え、頭の中で一つにまとめられると、三次元の映像へと形を変えていった。


見えないはずの場所が、立体的な地形として頭の中に構築され、ゆっくりと回転しながら、空間そのものが組み上がっていく。


だけど――。


最大出力で探知を続けているのに、集まってくる情報はいつもの半分にも満たない。


いや。


正確には、それが本当に半分なのかすら、僕にはわからない。


いつもの探知なら、もっと遠くまで届く。


もっと細かな情報を拾える。


なのに今は、まるで世界のあちこちに見えない壁が立っているみたいに、情報が途切れていた。


頭の中で浮かぶ立体地図はいたるところで黒く抜け落ちていた。


それでも、探知を止めるわけにはいかない。


欠けた部分へ何度も探知波を送り込み、拾えた情報を一つずつ重ねていく。


少しずつだけど黒く抜けていた場所が、埋まっていった。


でも、まだ不完全だ。


だが何も見えなかったときに比べれば、世界は確実に姿を現し始めていた。


その地図を組み上げながら、僕の知覚の一つは、別の方向へと伸びていく。


最も重要な情報。


方位を確かめるため。


僕は意識を空の彼方へ伸ばしていた。


さらに遠くへ。


もっと遠くへ。


けれど、この世界では、これもいったいどこまで届いているのかさえわからない。


探知の先は、何も返ってこない。


それでも、さらに意識を伸ばす。


空の彼方。


そのさらに向こう。


そこにあるはずの何かを探して。


けれど――何もない。


宇宙から届くはずのシグナルがまったく感じ取れない。


……何もない。


この世界の衛星軌道には、何も存在していないのかもしれない。


GPSのための衛星も。


通信のための衛星も。


少なくとも、僕の探知には一つも引っ掛からない。


だけど。


同時に動かしていた、もう一つの知覚が、少しずつ僕の欲しかった情報を捉え始めていた。


最初は、行き先を見失った迷子のように、ぐるぐると回っていた。


あまりにも回転が速くて、この世界には道標が無いかのように思われた。


でも、それが、少しずつ速度を落としていく。


くるくると回っていた動きが、やがて一定の範囲を行き来するようになった。


まるで、見えない針が何かを探しているように。


そして――。


ゆっくりと、その動きが止まった。


この世界には、磁場がある。


頭の中に浮かんだ、見えない方位磁針。


その針が、一つの方向を指して静止した。


真北。


おそらく、そう考えていい。


少なくとも、これで方角だけは失わずに済む。


僕の頭の中では、探知によって集められた情報から、周囲の立体地図が形になりつつあった。


でも、既存の地図に一致する地形はない。


完全に一致する場所が、どこにも見つからない。


きっと、まだ発見されていない未踏の世界。


あるいは、発見はされていても、地図すら作られていない辺境。


たぶん、そうだろう。


……いや。


待てよ。


この地形。


どこかで見たことがあるような気がする。


でも――。


駄目だ。


まだ情報が足りない。


こんな段階で、憶測だけで判断するのは危険だ。


今いる場所がどこなのかは、まだわからない。


それでも、方角がわかれば、少なくとも道を失って闇の中をさまようことだけは避けられる。


そう思った、そのときだった。


システルの詠唱が、突然途切れた。


静寂。


ほんの一瞬だけ、何の音もしなくなる。


そして――。


システルが、ゆっくりと杖を頭上へ掲げた。


「――――」


一段高くなった声が、最後の一節を紡ぐ。


その瞬間だった。


回転していた魔法陣から、無数の光の粒が舞い上がった。


それと同時に、杖の先端から眩い白色の光が弾け飛ぶ。


光の球。


それは勢いよく上空へ飛び出すと、闇を切り裂きながら、ゆっくりと上昇していった。


そして、ある高さまで達したところで――停止した。


次の瞬間。


光が、一気に膨れ上がった。


小さな光球だったものが、何倍もの大きさへと広がっていく。


まるで、空中に小さな太陽が生まれたように。


白い光を放ちながら、ゆっくりと回転している。


その周りには、囲むように魔法陣が浮かび上がっていた。


光球を守るように幾重にも重なり、それらもまた、球に合わせるようにゆっくりと回転している。


……これ。


魔法のライトだよな。


でも、僕が知っているものとは、まるで違う。


第一、大きさが違いすぎる。


確か、昔――。


今ほど照明装置が発達していなかった時代には、スターライトという魔法があったと聞いたことがある。


普通のライトより、何倍も強い光を放つ魔法。


照明装置が発達した今では、効率の悪い魔法として、ほとんど使われていないはずだ。


もしかして……これが、そのスターライトなのか?


僕は、頭上で輝く光を見つめた。


そして、ふと疑問に思う。


システルは、どうしてこんな魔法を使えるんだ?


……あ。


そうか。


彼女はよく、地下の図書室へ行っている。


そこで古い魔術書をよく読んでいた。


もしかしたら、そのときに見つけたのかもしれない。


でも。


呪文を覚えるのが、あれほど嫌いなシステルが?


僕は思わず、彼女を見上げた。


頭上で輝く光に照らされ、その横顔が浮かび上がっている。


見慣れた顔。


僕の、ご主人様。


それなのに――。


時々、システルから感じることがある。


不思議。


言葉にするなら、それが一番近い。


僕はこれまでにも、何度もその感覚を覚えてきた。


そして今、その記憶を一つずつ辿っていく。


あのとき。


あの場所。


あの瞬間も――。


そのときだった。


僕の知覚が、何かを捉えた。


……何だ?


これは。


何かのエネルギー。


魔力じゃない。


でも、この感覚はよく知っている。


遠くから何かが届いている。


距離は――。


わからない。


この世界のせいに違いない。


探知波が、いつものようには届かない。


けれど。


かなり遠い。


そんな気がする。


いや。


違う。


一つじゃない。


発生源が、複数ある。


僕は意識を集中させる。


探知波が捉えた方向を、一つずつ確認していく。


方角が違う。


それぞれ、別の場所から届いている。


だけど、共通していることが一つだけあった。


どれも、遠い。


かなり離れた場所にある。


そして――。


その正体が、僕の中で一つの形になり始めた。


「システル」


気づけば、声が出ていた。


「船がいるかもしれない」


自分でも驚くほど、はっきりとした声だった。


「複数いる」


胸の奥で、何かが大きく動く。


「きっと……僕たちを助けに来た船だよ」

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