第四話
中に人がいると分かった瞬間、僕はシステルに囁いた。
「……やっぱり引き返そう。あの声の主が誰かは分からないけど、のこのこ入っていくのはまずいよ」
そう言いながらも、心の中ではあの声の主に予想がついていた。
声の主はきっと、出発前にこの船に運び込まれていた流線型の物体――それを警護していた連中だ。
そして外の“あれ”の狙いは、間違いなくその物体。二隻の武装船と、奥に潜んでいる連中……おそらく、彼らは“あれ”の襲撃を予期していたに違いない。
システルも同じことを考えているはずだ。今までの行動を見れば分かる。
……が、彼女は僕の制止などまるで耳に入れず、貨物室へと足を踏み入れた。
僕は仕方なく後を追い、もう一度言う。
「やばいよ。見つかったら何をされるか分からない。最悪、殺されるかも」
声は貨物室の奥からだ。探知しても、人数すら掴めない。
――隠密系の魔法だ。それも高レベル。しかも、この魔力の質……かなりの使い手だ。
兵士……いや、ただの兵士じゃない。特殊部隊、あるいは傭兵。そんな連中だ。
突然、システルが立ち止まり、貨物室の船外との出入り口のハッチを指差してこちらを振り向く。
「あの外の"あれ"、ここに来るまであとどれくらいかかる?」
僕はその質問に戸惑いながらも再び探知を行う。
船は後進を続けていて、"あれ"からは距離が少しずつ開いている。そして、外の戦闘はまだ続いていた。
「来たとしても五分以上はかかると思う。十分……いや十五分はかかるかも」
「そう」
短く答えると、システルは奥へ駆けていく。
次の瞬間、手を挙げて大声で言った。
「すみません! この貨物室の外との扉に封印をしに来たんですが、いいですか?」
呆気にとられて慌てて彼女に駆け寄る僕。
奥から現れたのは赤いローブをまとった男――インヴォーカーだ。
攻撃魔法に特化した魔法使い。一目でただ者じゃないと分かる。
奥からさらに数人が姿を現す。視線は一様に警戒と敵意を帯びていた。
その一人が僕たちを魔法で調べているのが分かった。
システルは構わず言う。
「先生に、あの扉を封印してこいって言われて……私、封印の魔法が得意だから」
「お前ら何者だ。遊び場じゃないぞ、戻れ」杖を向ける男。
別の一人が鼻で笑う。
「おまえのような小娘の魔法が何の役に立つ。とっとと失せろ」
そうすると、一番若そうな男が前に出て少し柔らかい声で言った。
「ここは本当に危険だから戻ったほうがいい。先生は今どこに?」
システルはすごく困ったように答える。
「その先生、昔はAランクの冒険者で……」
数人が顔を見合わせた、その時――
「何があった?」
年長で屈強な男が現れる。恐らくリーダーだ。
さっき僕たちを調べていた男が彼に耳打ちする。
「魔法学校の生徒か?」
「はい。先生に扉の封印を頼まれて」システルが答え、貨物室のハッチを指さす。
男は後ろを向くと隣と小声で話し始めた。
「外はかなり苦戦しているらしい……少しは足しになるかもしれない」
と断片的に聞こえてくる。
そして僕たちを見て言う。
「急いでやれ。終わったらすぐ戻れ」
背を向けて奥に戻る彼を、周りは驚いた表情で見送った。
システルは踵を返し、入口へ走り出す。
左手に杖を持ち、右手に魔晶石。
「よくあんな嘘、とっさに出たね」
「封印中、あの連中に邪魔されたくなかっただけ」
「でも、システルの封印なんて"あれ"には一撃で破られるよ。」
睨まれた。
「そんなの分かってるわよ。私は知りたいの。あれがどうやって魔法を発動してるかを」
気づけば、僕たちは巨大な貨物室の扉の前に立っていた。




