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パスファインダー  作者: イガゴヨウ
第三章
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第五話

「ここから、来てくれればいいのだけど」

システルが扉を見上げ、小さく呟いた。


しばしの沈黙の後、彼女は意を決したように振り向く。

「始めるわよ」


右手から魔晶石を宙に浮かべ、彼女は両手で杖を構えた。詠唱を始めると、足元に魔法陣が浮かび上がり、静かに回転を始める。

魔晶石が強く輝き、その光に呼応するように、貨物室の重い扉が淡い青光を帯び始めた。

無数の光粒が彼女の周囲を旋回し、渦となってその身を包み込んでいく。


そして――。


急に、空気がひやりと冷えた。

その直後、ガラスが砕け散るような音が響き、宙に浮いていた魔晶石が粉々に砕け散る。扉は眩く輝いたかと思うと、瞬く間に光を失い、渦も消え去って行った。


システルは一歩退き、大きく息をつきながら扉を見上げる。

「できるだけ強力な魔法をかけたわ。扉の方は、これでいいでしょう」


そう言うとその場を離れ、貨物室の奥へと移動する。そして杖で床に素早く魔法陣を描き、描き終えるたびに左手首のブレスレットが一瞬だけ輝く。

遅延発動の魔法の罠を、次々と仕掛けているらしい。


――まさか、本気でここで、あの棺みたいなのが入ってくるのを防ぐつもりなのか。


そんなことを考えていると、突然船が大きく揺れ、そして停止したのを感じた。


――しまった。


気を取られていて、周囲の探知を怠っていた。慌てて意識を向けると、外のあれが、急接近しているのがわかる。

そして、いつの間にか外での戦闘は終わっていた。


――まさか、この船が止まるなんて、考えてもいなかった。

あれがここまで辿り着くまで、もうあまり時間がない。


視線を向けると、システルは僕の動揺を察したのか、少し考え込むような素振りを見せたあと、口を開いた。


「私、あの人たちに封印が終わったことを伝えてくるわ。アルは、すぐに逃げられるようにしていて」


そう言うと周囲を見回し、何かを測るようにしてから、指を差した。


「あのコンテナの影に隠れてて」


指の先は、僕たちがここに入ってきたときの扉の近く――そして、貨物室のハッチがよく見える位置だった。


「そんなの、もういいよ! 今すぐ逃げよう!」


叫んだが、システルはすでに奥へと走り出していた。僕はただ、彼女の後ろ姿を見送ることしかできない。


走りながら遠ざかっていく彼女は何度か速度を緩めると、肩から提げたマジックバッグに手を入れる。

そして取り出した球状の物体を、次々と床へ転がしていった。それらはコンテナや積み上げられた物資の隙間へと吸い込まれ消えて行く。


見覚えのある形だった。

――あれは以前、暴走して、僕たちの家の庭に大穴を開けた、あの魔法具だ。


その意図を考えている間もなく、背筋を凍らせる悪寒が走った。

あの棺が、すぐそこにいる。ハッチの扉一枚を隔てた向こう側に。


僕は言われた通り、足音を殺してコンテナの影へと急いで移動した。息をひそめ、ハッチを見据える。

肉球が汗ばみ、心臓が早鐘を打った。呼吸が勝手に速くなる――だが、何も起こらない。


こっちを警戒して、探っているのか。

それとも、システルの封印が、効いているのか。


耳を立て、わずかな音も逃すまいと集中する。

急に喉が渇き、唾を飲み込んだ――その瞬間。


背後の気配に、飛び上がるほど驚いた。


振り返ると、息を切らせて戻ってきたシステルが、スマホをポケットにしまいながらしゃがみ込んでいた。


「ここから出よう」

「まだ、だめよ」


頭に、あの炎上した船の光景がよぎった。それが、急に現実味を帯びて迫ってくる。


「でも、あの爆発した船と同じ魔法を使われたら、この貨物室は一瞬で吹き飛ぶよ」

「それはないと思うわ」


そう言って、彼女は傭兵たちが守る、奥の黒い物体の方へと視線を向けた。


「あの、何だかわからないものがここにある限り、この船を吹き飛ばすような真似はしないはずよ。

さっき、ちらっと見てきたけど、そんなに頑丈そうには見えなかったわ。

防御魔法もかかってなかったし」


そして、にやりと笑い、嫌味っぽく付け加える。


「あんたのご主人様の、イマイチな魔法でも壊せそうよ」


僕はそんな軽口は無視して言った。


「でも、もし外のあれの狙いが、その“何かわからないもの”じゃなかったら?」

「だったら、とっくに吹き飛ばされてるわ」


システルは断言するように続ける。


「きっとあれは、全力の攻撃魔法は使えないはず……」


その時、ハッチの方から微かな音が聞こえてきた。

外のあの棺が動き出し、急速に魔力を収束させている――封印を破るつもりだ。


僕とシステルは、コンテナの影から固唾を呑んで、その様子を見守った。

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