村に落ちる
寒くなりそうな日でした。私の住んでいた村に向かうため、勇者パーティーは宿屋を出ることになりました。どうしてそんな場所へ行くのか、勇者の仲間たちは不満を口にしていました。
目的地までは2日ほどかかるようでした。仲間と昼食を食していると、自分が勇者としての生活をしているようでした。勇者のことを考えていると、いつの間にか、自分が冒険の旅に出かけた気分になっていました。
夜になると冷たい雨が降り出しました。小さなテントの中で、夕食をしながら、勇者パーティーが勇者の夢の話をしていました。笑い声が聞こえてきます。その話を聞いていると、偽の勇者であったことを懐かしく思っていました。いや、自分が偽者であったことすら不思議な気持ちになっていました。
雨が止むと、朝が来るまで私は空を見つめていました。たまに、眠っている勇者パーティーを見つめていました。彼らの生活に興味を抱いています。勇者に憧れを抱き、自分が偽者ではないことに安堵しているような気がしていました。気が付くと、私は自分自身をなくしていました。
次の日、勇者パーティーが魔族と戦っていました。その手助けをすることにします。勇者なら魔族と戦うのは当然のことでした。戦いが終わると、勇者パーティーから歓喜の声が聞こえてきました。
勇者パーティーの嬉しそうな声が聞こえました。偽物であった時、そんなことを考えることもありませんでした。不思議な高揚感があります。ただ、いったい、勇者らしさとは何なのだろうかと思いました。
次の日も、自分が住んでいた村のある場所に向かっていました。村の近くにくると大きな木が見えてきました。目的地の近くに来たと思い、私は足早になっていました。
高台から村の景色を見ようと思っていました。
坂道を上っていきます。
高台の一番上まで辿り着くと、顔を上げて景色を眺めていました。
しかし、そこには何もありませんでした。
川の流れる音が聞こえ、小さな沢があるだけでした。
どうしてこの場所にやって来たのか、私にはわからなくなっていました。
住んでいた村はありませんでした。
私は立ち尽くしていました。
その時、背負っている鞄から一冊の本が落ちていました。
3匹のゴブリンの絵が表紙にかかれています。
それは小説のようでした。
「何かしらこれ?」
魔法使いの女性が本を取ろうとしていました。
私は慌てていました。
「触ってはダメだ。その本を読むとゴブリンになってしまうから!!」
とっさに、私は声が出ていました。しかし、どうしてそんなことを知っているのか、まったくわかりませんでした。それなのに、気が付くと私は自分がゴブリンになった時の話をしているのです。ゴブリンの姿になり、私の妻を追いかけていたという話をしていたのでした。それを聞いて、魔法使いの女性が驚いた顔をしていました。
「勇者、あなた、いったい誰の話をしているの? あなたは結婚してないでしょ……」
魔法使いの女性が私を見つめていました。私は戸惑っています。知らない道を歩いていき、迷子にでもなってしまったような気持ちがしていました。歩んできた道に戻ってみようかと思いました。しかし、ダメでした。昨日より前の記憶がなくなっていたのです。坂道を転げ落ちているようでした。いや、実際に私は落ちていました。突然、魔法使いの女性に蹴り落され、私は高台から転げ落ちてしまいました。村のある方へ落ちていったのでした。
谷底に倒れると、私は身動きができなくなっていました。
そのまま時間だけが過ぎていきました。長い年月が過ぎると、その地に村ができました。たくさんの人がいました。ただ、誰も私の存在には気が付いていないようでした。どうやら私は透明な存在になっているようでした。
ふと、辺りを見渡しました。たくさんの同じ格好をした勇者がいました。私と同じように透明になっていました。村の周りには勇者の幻影が集まっていました。ただ、彼らは村の景色を眺めていました。
年月が経ち、村には魔王の結界が貼られてました。
村の人々は平和に暮らしていました。
気が付くと、村の中に私の姿がありました。
子供の頃のようでした。
そのことに気が付いても、何もすることができませんでした。頭の中が空っぽになっていたのです。長い年月、ただ、村の景色を見つめていたせいでした。16歳の誕生日、私が勇者の力を手にすると結界が崩壊していきました。結界が消えると、村にいる人々は崩れ去っていきました。
ある日、妻が村人たちの人形を作っていました。透明な勇者たちが村人たちの人形の中に入っていきました。
多くの勇者の魂が村人に姿を変えていきました。それは私も同じです。1人の村人になり、村での生活をすることになっていました。その時、自分が偽の勇者であったことも、勇者としてこの場所に来たことも忘れていました。いや、気が付いてはいたのです。ただ、何もできなくなっていました。村には小さい頃の私がいます。それ以外は、地龍の呪いで勇者に変えられた多くの私がいるだけでした。永遠に、私は同じことを繰り返していたのです。何度も何度も、私は勇者の姿に変えられ、村人の魂になり、村での生活をしてたのです。やっと、私はそのことに気が付いていたのです。
ありがとうございます!!




