記憶① 勇者の記憶
「心を乱さないようにしなさい……。そうしないとあなたの心と体が奪われてしまうわよ……ここはモグラの作り出した異空間なのですから……」
十字の板に1人の女性が張り付けになっていました。
魔族の王女様だと思います。
妻が探していた人です。
ただ、女性は手が届く場所にはいませんでした。周りを見渡すと、湧水が溢れていることに気が付きます。水に誘われるように私は歩いていきました。炎のせいで喉が渇いていたのでした。
意識が朦朧としています。
「ダメだよ、この水を飲んでわ…。これは儀式の物だから、おかしくなってしまうわ……」
女性の声が聞こえました。
しかし、朦朧としながら、私は水を飲んでいました。
途端に、激しい頭痛に襲われます。
目を開けることができませんでした。
瞼を閉じると、見たことがない景色が映し出されていました。
誰かの記憶を見ているようでした。
1人の少女がいました。
少女が公園のブランコに乗っています。
ブランコが揺れると、ギィギィという音が聞こえてきました。
顔を上げると、大人たちが集まっていました。
軽蔑の声が聞こえてきます。
少女のことを話しているようでした。
ずっと、公園ではブランコのギィギィという音が響いていました。
その光景を見つめていていました。
懐かしい記憶のようでした。
私は顔を振りました。
否定しました。
この記憶は自分のものではないと思いました。
それなのに、どうもおかしいのです。
自分の記憶のような気がするのです。ただ、少女の名前すら思い出すことができません。絶対、私の記憶ではないのです。それなのに、本当の記憶を押しのけて、遠ざけ、新しい記憶を植え付けようとしているように感じていました。
次に、ケンカの記憶が浮かんできます。
私は子供たちとケンカをしていました。
少女のことで言い争いをしているようでした。
ただ、相手の子供の顔や、名前を思い出すことができませんでした。
それなのに本当の記憶のように感じるのです。
そんなことはないと思いました。
これは嘘だ、
と、自分に言い聞かせていました。
すっかり、記憶が曖昧になっていました。
その時、女性の声がしました。
「懐かしい記憶、これは勇者の記憶だと思うわ。私が初めて勇者と会ったときの記憶……、きっと、あなたに渡した勇者の力が呪いのように纏わりついているのね……」
それを聞いて、私は女性の顔を見つめていました。何故、私の記憶のことが分かるのだろうか、記憶が共有化されているのか、と思いました。だとしたら、おかしな空間のせいなのです。私はこの場所から早く出なければならないと思いました。
ただ、頭痛がします。
身動きができなくなっていました。
次に、以前の勇者とモグラとの戦闘の記憶が浮かんできました。
勇者は倒れているようでした。
大きなモグラが来くると、倒れている勇者の頭を掴んでいました。
モグラは勇者を一飲みにしていました。
その時、私は勇者でした。
その光景が私の中に入り込んできました。
一飲みにされた感覚がしたのです。
私は身震いをしました。
飲んだ水をすべて吐き出していました。
吐き切ると、気分が落ち着いてきます。
殺されてしまったような感覚がしていました。
私は震えていました。
その時、キーテ少年が立ち上がっていました。
ふらふらしています。
少年は意識がないようでした。
「この世界なんて滅びてしまえばいいのに……」
少年の声が聞こえてきます。
体が真っ赤になるほど出血しています。
呪いの力により、少年の体が壊れかけていました。
「全てを終わらせてやる。こんな世界なんていらないんだ……」
キーテ少年の声が聞こえてきました。
私に飛びかかってきます。
とっさに、少年の両手を掴んでいました。
少年は噛みつこうとしています。
強い力で、私の喉元を噛みつこうとしていました。
その時、青い石の欠片が少年の呪いを吸収していきました。
少年の力が抜けていき、パタリと少年が倒れました。
すると、女性の声が聞こえてきました。
「あなた、私たちが作った封印の石を持っているのね。それならお願いがあるのです。あのモグラの力を封印して、この世界を元に戻してほしいのです。少しばかり、私たちのことをお話ししようと思います……」
ありがとうございます!!




