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約束と契約  作者: オボロ
29/114

#29 企ての導き


古ぼけた小さなアパートの一室。

暗い部屋の中で、膝を抱え、蹲り、母親の帰りを、ずっと待ち続けている少女が居る。

いつも1人きりだった。

男相手の仕事をしている、汚らわしい女の子供だと言われ、1人も友達が居なかった。

母親からは邪魔者扱いをされていた。

子供が居なければ、別の人生があったと、辛く当たられていた。

関心を引きたくて、母親にも、先生にも、同級生にも、たくさんの嘘をいた。

嘘ばかり吐くので、誰も信用してくれなくなった。

ずっと独りぼっちだった。

死ぬ時でさえ、孤独だった。


お腹が痛かったのに………

本当に痛かったのに………


信用してもらえず、放置されて、独りぼっちの部屋の中、遺体となって発見された。

誰も助けてくれなかった。




独りぼっちは寂しい。

信じてもらえないのは哀しい。

助けてもらえないのは苦しい。



誰か居ないかな?

誰か友達になってくれないかな?



もう独りぼっちは嫌だよ………









「どうして、わたしの家を知っていたの?」


ルイーザは、琥珀色の髪の少年と一緒に走っていた。

部屋からロープを使って庭に降りた後、気付かれる前に早く家から離れるべきだと判断して、走っていた。

目的があり、何処かに向かっているという訳ではない。

しばらく走り、呼吸を整える為に立ち止まったルイーザに、少年は、少しはにかみ、頬を赤くして言った。


「ぼくのせいで怪我をしたのに、謝ることも、お礼を言うことも出来なかったから………。」


質問の答えにはなっていないが、可愛らしい少年が恥じらいながら答える姿に、ルイーザはときめき、誰に聞いたかなんて、どうでもいいことだと思ってしまった。


何処に向かうでもなく、再び2人は移動を始めた。

今度は走らずに歩いていた。

時々、後ろを確認するルイーザと違い、少年は、ルイーザを見ることはあっても、後ろを見ることはなかった。

角を曲がると、ルイーザを見て、「こっちだよ」と、誘導する。

ルイーザと違い、少年には目的の場所があるらしかった。

不思議に思ったルイーザは、少年に尋ねた。


「どこに向かっているの?」


少年は、微笑みながら答えた。


「ノーラの所だよ。ジャックを助けてあげるんでしょ?」

「———‼」


ルイーザは驚き、絶句した。

なぜ?と、思ったはずなのに、それを口にすることも無く、思考は停止してしまった。

頭の中にはもやがかかり、足だけが、少年に引き寄せられていく。

ルイーザの意志ではない。

自分の意志で歩いているわけではないのに、歩いているという感覚はあった。

コントロールは出来ない。

コントロールをしようという考え自体、思い浮かぶことはなかった。

前を歩く少年の、後ろ姿を、琥珀色の髪を、ただ見つめながら、ルイーザは歩いている。

やがて、歩いているという感覚さえも薄らいでいき、少年の後ろ姿も、琥珀色の髪も、徐々にぼやけていった。

入れ替わるようにして、視界の景色が変わっていく。


そして、目の前に広がる景色は、一変した。


「………」


ルイーザは、夢で見た森の中に立って居た。

正面の、少し離れた場所にある、大きなブナの木に凭れて居るのは、あの男だった。

美しい顔立ちの、赤い瞳の、夢の中で会った、あの男。


「やぁ、ルイーザ。とうとうこの日がやって来たね。」


男は微笑み、ルイーザを迎えた。

またしても、引き寄せられるように、ルイーザの足は勝手に動いた。

口は全く動かなかった。

声を発することも出来ない。

なので、悲鳴も疑問も、口にすることは出来なかった。


頭の中は、はっきりとしていた。

この状況はおかしいと、ルイーザは思っていた。


突然に、夢を見るはずはない。

だが、これが現実であるはずはない。

では、何?

ここは何処?

彼は誰?



………あの少年は何者?



「………」


心の中は恐怖でいっぱいなのに

混乱して、頭の中はぐちゃぐちゃなのに

恐怖と混乱で、心臓が痛いのに


ルイーザの感情は、ルイーザの表情に、全く反映されていなかった。


感情のない無表情。

足取りもぶれず、一定の速度。


まるで、人形のように、ルイーザは歩いていた。


「君は、もう何もしなくていいよ。全て順調に進んでいる。ここで吉報を待つといい。」


無表情のルイーザを隣に座らせ、男が言う。


「良かったね。やっと君の願いが叶うよ。」


優しい手付きで、男はルイーザの頬を撫でた。


男の微笑みも、優しい手も、ずっと欲していたはずなのに、今のルイーザに、喜びのような感情は、全く湧いて来なかった。


「………」


恐怖と混乱で、心臓が痛い。

一刻も早く、ここから逃げ出したい。


しかし、今のルイーザに、成す術は無かった。








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