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精霊道の案内人  作者: 奈美
第一章 
4/8

修行

 ジョゼは何かが頬に触れたような気がして目を覚ました。見渡すと、灰色の板張り、灰色に汚れた本来は白いだろう壁の部屋。箪笥、机、子供が二人ほど入れそうな大きな道具箱。そして、南と東にそれぞれ広い幅の窓と小さな窓がある。窓を見た時、ジョゼは昨日部屋に案内されたときベッドの上の東の窓は開けてはいけないとアルダに言われたことを思い出す。そこで、ジョゼはぼんやりとしていた頭で自分が今は、師匠のアルダの家にいること、またこれからはここが自分の帰る所になるんだと思った。


 ジョゼはベッドからはい出ると、自分の汚れた奴隷の服を見た。そういえば昨日は着替えずにこのまま寝てしまったんだと思い、すぐに昨日アルダにもらった服に着替えた。袖や襟に青い刺繍の入った枯れ葉のような色合いの服が上着で、中にえんじ色の無地の服、下には青緑のズボン。自分の故郷の服に少し似ているとジョゼは思った。


 ジョゼは着替えたあと部屋に空気を入れようと南側のカーテンを端に寄せて、窓を開けた。外はまだ暗く夜明け前であることがわかりジョゼはほっとした。


 南側の外は丘の上にある家から下り、低いあしの草が生えた緑が地面を一面覆っている。よく見ると、点々と草の生えていないところがあり、そこにはサークル状に石が並べられている。しかし暗くてあまりはっきりとは見えず、その石の形までは分からなかった。


 窓の下の風景を一通り見終わると、ジョゼは窓を閉めて部屋の箪笥の中を調べることにした。箪笥は濃い樹木のような色でほこりがたくさんついていて汚いが、木目の見えるがっしりした作りだ。両手を使って左右に扉を開くとほこりが舞った。咳き込みながら中を覗くとコートが一着掛かっていて、その下には冬用の汚れて毛羽立った毛布がたたまれてあった。

「こんなに汚い毛布なんか使いたくないな」


 ジョゼはそれから箪笥を閉め、南側の窓の斜め下にある机に向かった。机にはこげ茶の皮で覆われた表紙の手帳が真中に置かれてあった。その手帳を開くが、何も書かれていない。手帳には鉛筆もつけられていて、ずいぶん高級な仕様になっていた。


 ジョゼが机の中を調べようと引き出しに触れると、突然部屋の扉が乱暴に開かれる。

「遅い、何してる。起きてるなら、ずぐに下りてこい」

「あ、すみません。今行きます」

 アルダはジョゼに声をかけるといらいらとした様子で先に下の階へ下りて行ってしまった。そのあとをジョゼは小走りで下りていった。





 一階に下りると、もうすでにアルダは家の外に出て自分を待っているようだった。ジョゼがアルダの側にやってくると、彼は無言で大木のもとへ歩いていった。


「この筒状の青く発光する精霊がお前にも見えるだろう。この精霊を『青霧』という。日の出まえにこうして表に出てくる精霊だ。この精霊は自分の周りに危険が迫ると名前の通り青い霧を出す。その青い霧を浴びると、体がしびれて動けなくなる。だから触るなよ」


 アルダは一応というようにジョゼに目線を向けた。ジョゼは言われなくても触るつもりはないと心の中でアルダに答え、10センチ程度の青く筒状に糸が編まれたような『青霧』が、楡の木にひっついて動かない様子を見ていた。


「この霧は使いようによっては非常に便利なものだ。医者が使う麻酔もこの青い霧だ。これを今から捕まえる。オレがやることをきちんと見ておけ、あとでお前にもやってもらうからな」


 アルダはそう言って自分のふところから鈍く光る茶色い皮手袋を取り出して両手にはめ、上着のポケットから直径5,6センチ長さ10センチの筒と白い粉の入った小瓶を取りだした。そして、その筒の蓋を開けて、中に小瓶から白い粉を入れる。入れた後、アルダは慎重に木にしがみつく『青霧』をつかんで筒にいれた。


「この中にお前も『青霧』を入れてもらう。今オレがやった手順通りやれ。……この皮手袋はお前のものだ」

 アルダがくれたもうひと組の皮手袋は、まだ新品といった感じでつやつやと、はっきりとした光をはなっていた。


「はい。やってみます」

 ジョゼは言われた通り、先程の手順を思い出しながら手袋をはめて筒をアルダから受け取った。小瓶を少し逆さにして筒に粉をいれ、木の上にで光る『青霧』を師匠よりゆっくりと恐る恐る掴み、震えそうになる手を慎重に筒の真上に持ってきて、そろりそろりと青い精霊の横に入れた。


「でき、ました。師匠」

 アルダに渡すと、彼はまた小瓶から粉を振りかけ、穴の大きさぴったりの蓋を筒にはめた。


「『青霧』はこの筒の中のような、狭いところを好む。また、この小瓶の粉だが、砂糖だ。砂糖は『青霧』の活動を止める。だから、この中に入れている間は多少の刺激を与えても青い霧は出さない」


 アルダは小瓶の白い粉を見せて説明し、また筒をかかげて少し揺らしながら話した。

 蓋をした瞬間青い光は漏れなくなったから、筒に隙間はないのだろう。そして隙間がないということはもし、青い霧をその精霊が出したとしても、漏れ出てくることはないと、ジョゼはそんなふうに師匠の説明を聞きながら思った。


「砂糖は、あの、何故、『青霧』の動きを止めるのですか?」

 師匠に質問してもいいのだろうかと、思いながらジョゼはひかえめに聞いてみた。すると、アルダは一連の説明の続きとして答えてくれた。


「ああ、それは砂糖が精霊にとって神聖なものだからだ。精霊にとって植物は神聖なものだ。神聖な存在を精霊たちは安心する。活動が停止するのは、全ての警戒をといているといっていい。また、何故精霊が植物を神聖視するのが分かるのか? それは精霊に尋ねたからだ」


「精霊に尋ねた?」


「そうだ。精霊は全てがこのように知能のないものだけとは限らない。精霊の中にはきちんと自分の意思を伝えるものもいるのだ。そういった高い知能を持つ彼らを『伝えるもの』という。この名は初めて精霊の言葉を聞いたといわれる精霊使いが、精霊の意思を伝えるものたちと言ったことからきている」


 ――なんだ、聞いても良いんだ。


 ジョゼは先程思わず口から出てしまった遠慮のない言葉が、アルダに聞いてしまった形となったことに不安があった。しかし、ジョゼは自分で心配しているよりも、アルダが師匠に尋ねることを許しているのかもしれない、そう思って少し気が落ち着いた。


「精霊使いについてはまたあとで、授業を行うときに説明する。それよりもうすぐ日が出てしまうから、話はこれで終わりだ。これからジョゼとオレは祈りをしなければならない。ついて来なさい」


 アルダはぐるりと楡の木を回り、ちょうどさっきまでいた所とは反対の場所にやってきた。その大木は見ると木に楕円状の穴が開いていた。その薄暗い穴からはときおり精霊が飛び出し、また穴の中で何かが輝き穴の内部を照らした。


「これが精霊道だ。精霊道は我々案内人にとって、ただの仕事ではない。いや、全ての見える者にとって、精霊道とは我々を守護する神の住まう地だ。つまり、精霊はオレたちの守護神ということだ。ああ、もう日が昇ってきてしまった。早くしなくては」


 丘の下から遠く、小さく見える街のもっと先にそびえる二つの山の間から、日が徐々に赤くまぶしい光を射しだしていた。


「お前はオレの真似をして祈りなさい。いいか、祈りの最中は声を発してはいけない。初めだけ見て、あとは同じように4回繰り返せ」


 アルダは精霊道の前で膝立ちになり、両手のひらを額に当て、頭を下げてから手のひらを額に当てながら顔を上に向けた。そして、顔をうつむけながらその動きに合わせるように額から手のひらを合わせて地面に持っていき、地面に手のひらを下にしてつける。それからまた、同じように初めから両手のひらを額に当てて、といった動作を繰り返し始めた。

 ジョゼは彼の繰り返される動きを見て、自分もやらなくてはと慌てて同じように祈りを行った。


 祈りの動きをぎこちなく終えると、ジョゼを立って待っているアルダが真剣なまなざしで自分を見ていたことに気付いた。


「さっきは急いでいたから話せなかったが、祈りには自分たちがこれから大地と空と一体となって精霊を受け入れるという意味がある。次からはそのことを思いながら祈りなさい。あと、祈りは朝の日の出まえと夜の日暮れに精霊道の前で行う。日暮れのときにはまた祈りの意味が違ってくる。意味はまたそのときになったら教えてやる。そのことをしっかり覚えておけ」






 祈りの後、ジョゼはアルダに言われて朝食を作りに家に戻った。部屋のあちこちにある窓から朝日がもれて、昨日見えなかった部屋の家具がどこにあるか分かるようになった。調理場は玄関の側の奥まったところにあり、そのもっと奥には食糧庫、そして、暖炉は部屋の中央にあった。テーブルは調理場の近くの窓の側にあり、外の光によってテーブルの茶色いつやが反射してよく光っていた。


 ジョゼは食糧庫から干し肉と緑と黄色の菜っ葉、赤くて柔らかい実を取りだした。菜っ葉と赤い実を適当に一口大に切って、干し肉も二つに分け、赤い実と黄色い菜っ葉以外は初めに火を起こしておいた鍋に入れて一緒に炒める。熱している間に、黄色の菜っ葉と赤い実は生で食べられるのでそのまま皿に乗せてテーブルに運ぶ。再び戻ってきて鍋を見ると、少し焦げていたがいつもこれくらいなので気にしない。朝食ようにパンも倉庫から取り出して、皿に入れた干し肉と菜っ葉の炒め物を自分と師匠の前に置いて、サラダとして持ってきたときに、入れた水もそれぞれの前に寄せた。


 食事が始まるとジョゼもアルダも無言で食べていたが、アルダがふと小さく独り言をつぶやいた。

「……料理も教えるか」

 ジョゼはアルダから料理の良い感想を期待していたために、彼の一言には非常にがっかりした。


 食事を早めに終えるとアルダはジョゼを伴って部屋の用途を一つ一つ教えていった。

 一階は調理場、食糧庫以外に居間としての一部屋とアルダの寝起きしている部屋と広い書斎があり、二階の一部屋より広い使い方をしている。二階にはジョゼの部屋のほかに、何も使っていない部屋がもう二部屋と、倉庫のような役割をしている部屋、それから本だけの部屋があった。掃除用具類は主に一階の出入り口に立てかけられている。また洗濯、掃除はジョゼの仕事だったので、どこで洗ったり干したりするのか等も彼から教わった。


 これからジョゼがアルダの弟子として生活するのに必要なことを、一通り知るとジョゼはアルダに洗濯をするように言われた。洗いものは食器でも衣服でも井戸の周りで行い、家の入り口付近に置かれている二本の棒とひもを組み立てて干すのだそうだ。


 ジョゼが洗濯をしている間、アルダは南の丘を下っていき二階の自室の窓から見たサークル状の石で留まった。師匠にも何かやることがあるのだろう、と特に気にする事もなく自分の仕事を淡々とこなしていった。故郷でも自分の仕事は畑仕事に洗濯、料理などほとんど今と変わらないことをやっている。ジョゼにとって今までの戦場や奴隷としての生活から、やっと日常に戻ってきたような、人間らしい生活が戻ってきたような、そんな気持ちにだった。




 ジョゼが洗いものを全てひもにひっかけて挟みでとめる頃、アルダがこのあと授業をやるから二階から手帳と鉛筆を持ってくるよう、遠くから声をかけてきた。だからジョゼは全てを早々に片づけると二階から手帳、鉛筆を持ってアルダのいる南の草はらに急いでかけていく。


 アルダの待つところでは、長さ30センチ程の長方形の石が円になって中央の小さな丸い二つの石を囲んでいるサークルがあった。石の周りにだけ草が生えていて、まるでその石が植物を寄せ付けないかのようだった。風が草を薙いでも、何故かその石の円に入ってくることはない。


「ジョゼ、その手帳はお前にやったものだ。オレの言うことやお前自身が大事だと思ったこと、何でも書いておきなさい。手帳が全てうまったら、またやるからオレに言え。オレが今から話すことは特に重要な事だ。しっかり書いておけよ」


「はい、師匠」


 ――聞いたことを書きとるなんて、ちゃんと出来るのかな。


 自分の今までやったことのないことに、ジョゼは少し不安を覚えたが出来ないとは言えないので、従順に頷いておいた。


「うん。では、始めよう。ここに丸く置かれた石だが、これは結界だ。危険な精霊を精霊道に近寄らせないためにある。だが、ジョゼ、どういったものが危険な精霊か、分かるか?」


 石の円には入らず、アルダは上から指で指しながら言う。ジョゼも草を踏んで、円を覗きこむ。


「えっと、人に害を与える精霊ではないんですか?」

 危険ということはほとんどは人が判断するものだ。だから、ジョゼは人に害のあるものが危ないのだと、何故こんな当たり前のことを聞くのかと考えた。すると、師匠は首を振って答えた。


「それは違う。もし、人に害する精霊を危険とするなら、精霊道の精霊は大半を危険としなければならない。これは精霊道にとって危険かどうかという意味だ。精霊道、また精霊でもいい、精霊にとって何が最も危険なのか? ジョゼ考えるんだ、精霊の邪魔をするものを」


 ――精霊の邪魔をするもの? 精霊が危ないと感じるとき、精霊の側には何かがある?


 ジョゼはしばらく考え込んだ。精霊が危機を悟り、攻撃するものとは何か。夜明け前に捕った『青霧』という精霊は、刺激を与えると相手をしびれさせる青い霧を出す。その刺激は『青霧』には危険だと感じてしまうものだった。では、何が精霊に刺激を与えていたのか。そして、そこまで考えた時、ジョゼはふと思った。


「それは、人、ですか?」

 半信半疑でジョゼが言葉にすると、満足げに師匠は頷いた。


「そうだ。しかしまるっきり人というわけではない。正解は人の手を介した精霊だ。朝、あとで説明すると言った精霊使いは、精霊を人に使われるように変化させることが出来る。我々案内人にはこの変化させられた精霊が一番危険なのだ。精霊道やその辺にいる自然な精霊は、長年ずっとともに過ごしてきた中で、ある程度の対処が出来るが、変化して人に使役される精霊はその精霊を使っている者にしか対処できない。また、そういった精霊は自然な精霊に変化をもたらす。それは、大概悪い変化しかもたらさない。だから、精霊の巣たる精霊道にとっても絶対に近寄らせてはいけないものだ」


 石のサークルに目を再び向けて、ジョゼはこんな普通の石に見えるものがそんな凄い役割なのかと、ただただ感心していた。そして、思い出したようにジョゼはずっと師匠が話している間、書きとめてきたアルダの言葉の続きを手帳に走り書いていった。


 風がさっと吹いて、緑の草はらの色を変え、真っ青な空に浮かぶ雲がゆっくりと流れた。太陽はもうすぐ真上にやってくる。丘の下からは、南に遠くにあるはずの街は見えることがない。けれど、ジョゼには風に乗って街の匂いも一緒に流れてきているような気がした。


「もうそろそろ、お昼にしよう。ジョゼ、もういいか?」

 一声かけてくれるアルダに手帳を閉じて頷き、二人は家に戻っていった。

 




 二人はジョゼの食べることが出来るだけのお昼ご飯を食べ、午後の授業のために一階のアルダの部屋の隣の書斎に向かった。


 書斎には中央に三つの椅子とその椅子にあった長机があり、その周りには壁に沿うようにぐるりと、黒檀のような色をした本棚に本や手帳が収まっていた。本棚は全てが埋まっているわけではなく、所々広く空いた空間があった。

 アルダに促されてジョゼは扉側の椅子に座るとアルダは、一番隙間のない本棚から一冊の金の文字が入った背表紙の本を取った。彼が本を挿絵の入った一面に開きながら、椅子に反対の椅子に座った。


「ここに描かれているのは、人に使われるために変化した精霊の一つだ。この精霊を、まぁそのままだが変化精霊という。そして、自然に存在する精霊は自然精霊といい、精霊は大きくこの二種類に分かれる。他にも性質ごとに種類を分けているが、今日はその話はしない。変化精霊は、この絵のように姿が黒く変化する。また、その精霊を変化させる人の意思によって姿は変わる」


 挿絵の変化精霊は円にとげが何本か飛び出た姿をしていて、まるで影絵のようだった。ジョゼには初めて目にする精霊だったから、こんなものが本当にいるのかと疑わしく感じてしまった。


「ああ、それから……これだ。精霊にやってはいけないことがある。この絵にはその禁忌を犯した者の姿が描かれている」


 師匠がパラパラと紙をめくった先に、恐ろしい姿をした人間が挿絵として載っている一面があった。その姿はもう人間とは言えず、かろうじてそれを人間と分かったのが、苦しげな表情をした顔があったからだった。人間の顔だけを残して、体が内側の何かに占領されてしまったのようだった。ねじれた手足に、体を食い破ろうとする何か、そして、一番それらの体が人間らしくないのは、全てバラバラに黒く変化するかのように描かれていることだ。


「やってはいけないこと、それは、精霊を使役すること。禁忌を犯したものがこのような姿になったのは、精霊を無理に拘束し従わせようとしたからだ」


「あの、でも、今朝は精霊を利用するために捕まえたんじゃないですか?」


「ああ、確かに利用するためだ。だが、あの精霊は自分が利用されることに気づかずに捕まった。まぁ、つまり精霊に人の打算を悟らせないようにすればいいのだ。精霊が自身を使われていると認識すると、精霊は人を呪う」


 精霊が気付かないように精霊を捕えて使うということは、もし何か間違いがあって精霊に気付かれてしまったらと、一瞬ジョゼは自分の末路を想像して背筋が寒くなった。


「じゃあ、精霊使いはどうやって精霊を使っているんですか?」


「精霊使いは、彼ら独自の方法で精霊を変えているから、その方法は分からないが、たぶん、精霊が人を呪うときに行うことの逆をするのだろう。人が精霊の怒りに触れると黒く変化させられる。その変化と反対に、精霊使いが精霊を変化させると黒く変わる。ここを読んでみろ。人が精霊に黒く変えられていく描写が書かれている」

 師匠の指さすところには、ジョゼにはさっぱり分からない文字が書かれていた。ジョゼにはこの国の文字は分からない。


 ――どうしよう、言ってもいいんだろうか? 怒られないかな?


「どうした? 声に出して読んでみろ」

 アルダは黙ってしまったジョゼの様子を不審に思いながらも眉間にしわを寄せて、読めと促す。

 しかし、ジョゼにはどうしても読めない。しばらく、ジッとミミズ腫れのような文字に目を凝らしていたが、どこも読めるところはない。そしてとうとうジョゼは言わなければと決心したのだった。


「……すみません。読めないんです」

「読めない? それは文字自体読めないのか? それとも、この国の文字が分からないのか?」

 目を見開き怒ったような口調で、アルダが言う。ジョゼはやっぱり言わなければよかったと後悔した。

「ア、アグカカのも、文字が、読めないん、です」

 半分泣きながらジョゼは答えた。


「そうか、それならいい。だが、そういったことは早めに教えてくれ」

 ほうっと息をはき、アルダはぼそりと喋った。


「それなら、アグカカの言葉も教えることとしよう。……何だ、泣かなくてもいいじゃないか。別に怒っているわけではないんだから」

 アルダは少し表情を和らげて、涙をぽろりと流してしまったジョゼに慰めるように言った。


 それから精霊の授業の後に言葉の授業が行われ、授業の最後に明日までの宿題が出された。

 夕方、ジョゼは洗濯ものを取り入れながら、何故自分は泣いてしまったのだろうかと考えた。戦場で死と隣り合わせの一年を過ごしても、奴隷として人に扱われても、自分は決して人前では泣かなかったのに、と。いくら考えても答えが出なかった。自分のことなのにジョゼには自分が分からなかった。


 美味くもない夕食後、明日からは料理も教えるからもっと早く起きるよう言われた。日暮れの祈りをアルダに教わりながらジョゼはなんとか済ませ、二階に上がったあと、さっそく宿題をやり、明日に備えなければとジョゼは、ベッドの中に入った。


 こうして、ジョゼの初めての弟子としての一日が終わった。


 読んでくれてありがとうございました。


 今回説明が多く分かりにくいところもあると思います。分からないところ、不審なところ、誤字脱字などがありましたら、どうか教えてください。


まだ全然お話が進んでいないのに、こんなに読んでくれている方がいるなんて驚きです。


みなさん本当にありがとうございました。


すみません、ちょっと変えました。

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