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エピローグ その後のこと 

 時間逆行して自分の運命まで全部受け入れて戦ってたとか予想つくわけなくない?

 そんな感想だった。あれから色々とアインから聞いた後、結局思ったのは、


──本物の反則存在は格が違う。


 だった。

 荒唐無稽とかいう次元を優に超えている。一回創世直前まで行って数万年単位の時空をやり直したとかなに? 狂っているのかな?


「む。ヴァイスのいない世界で僕が生きられるわけないじゃないか」


「む、の一言から続けられていいことじゃなくない……?」


「だって……会いたかったから」


 一言で全ての意見は封殺された。イケメンが潤んだ目で見つめてくるな。キュンとくる。


 その後は──冒険譚の終わりに相応しいエンディングが待っていた。

 七年もの間、恋人を探し求めて魔王を倒し続けた勇者の凱旋。その結末はハッピーエンドで、国をあげての祝祭が催された。


 個人的に大事件だったのは、


「マイブラザーが大きくなってるッ……!?」


「あ、姉さん。ようやく帰ってきたんだ。ちょっと時空連続体と重力についての話なんだけどさ、」


 姉はもうついていけません。

 実家に戻ってみたら、五歳差の弟が十九歳の若者に急成長して年齢逆転していたり、こんなファンタジー世界でするもんじゃない話題を振ってきたり。っていうか普通に分からんわ。


 父上は父上で白髪が増えただけで大して外見変わらずだし。母上は……まぁ、写真の中で相も変わらずお美しい。


 七年ぶりの肉親は相変わらずだった。まるで娘が長期出張から帰ってきたのと変わらないノリだ。


「だってアインハルトさんの闇堕ちオーラが凄くってね……」


「私たちの分まで暗くなってたからねぇ……あんまり深刻になるのもなぁ、って……」


 ──やはり相当危ないラインまで行っていたらしい。

 信じてはいたが……いたけれども、こうして当時の、というか主に私が消えた直後の時期のことは、人づてに聞くだけで胃痛を覚えた。

 魔王討伐から帰ってきて、実家に顔出しに行った時も、ずっと傍を離れないしな。


 そうそう、他にも当然語らなければならない面子もいる。

 ローゼンクロイツ邸に、騎士団の皆とセシリアが集まった時のことだ。


「いやー、よかったよかった。姫さんが帰ってきてくれて」


 設けられた茶会の席で、ティーカップ片手にシュライゼン。

 彼を始め、他のメンバーも七歳ぶんの歳を取り、私の記憶よりも成長していた。


「目的は達成……だけど、残る第二位と第八位、それに第十位はどうするのよ?」


「あ、第十位は私がもう倒してるよ」


「ヴァイス」


「はい」


 普通にお叱りを食らった。

 単独でダンジョン制覇した上で魔王まで倒したの……? という呆れとも畏怖とも取れるような視線を受けながら。


「あと第二位は……暴れることはないと思う。八位は、うーん、分かんないや」


「ふーん? じゃ、そこんトコどうなのさ、未来の全能神様?」


 シュライゼンの問いに、私の右隣の席に座るアインが答える。


「ヴァイスの言う通り、緊急性は感じない。どちらも魔王の中でも比較的穏健派だからな。それに、この天穹の周期が終われば、自ずと魔王という役柄からも解放される」


「役柄? 魔王が?」


 メリルの疑念はもっともだ。

 ああ、とそれにもアインが頷く。


「『魔王化』は神威の加護がもたらした副作用だ。より強大な脅威を可視化するための仕組みにすぎない。それに伴う聖杯の加護は……まぁ、その仕組みを創り出した旧文明の者たちの悪ふざけだ。まさか、本当に発露するなんて思わなかったんだろう」


「傍迷惑な話だなー」


「だが、その成果の恩恵を受けて発展してきたのが私たちの世界だ」


 エクレールの意見に、まぁね、とシュライゼンは渋々相槌を打つ。

 神により近づくための法則。神威の加護(ステータス)を始めとした理もまた、次世代へ続けるための踏み台に過ぎない。


「でも兄さんが新世界の神様になるってことは……ヴァイスさんは、その妃様……になるんでしょうか?」


「そうなの?」


「そうだよ?」


 当然のように言われた。

 きゅっ、と右手を彼に握られる。


「──神格の執着って強いから。逃げられると思わないようにね?」


 にっこりとした笑顔で束縛宣言。

 その……まぁ……はい、喜んで。


「……私でよければ」


「姫さんしか無理でしょ」


「まだ自覚がないのこのポンコツ姫」


「姫様、それは流石にない」


「奥ゆかしさと謙遜を履き違えているのでは?」


 容赦なさすぎた。そんなに言うか。

 ……少しでも離れようとする気配に警戒しているのかもしれない。以前よりアインも積極的な態度を隠そうともしないし。独占欲全開だし。供給過多もいいところだ。


「とにかく」


 改めて、この場に集まった皆の顔を見渡した。

 セシリア。シュライゼン。メリル。エクレール。ザスキア。

 もう揃いも揃って二十代で、未だに私一人が置いてかれた気分だけれど。


「……ありがとう。私がいない間、アインを支えてくれて」


 返ってくる返事は様々だ。

 そりゃあね、とか、そうですねぇ、とか、そうね、とか、そうだね、とか、仰る通りで、とか。

 騎士団と、兄妹の絆は世界一。


 生憎とその過酷な冒険譚には参加しそびれたが……こうして話を聞いているだけでも、申し訳なさとか、寂しさとか、そんなのを塗り替えてくれる旅の情景が浮かんでくる。


 私は最後、姫とかやってただけだったし。

 護ってくれることは嬉しいけれど、あれは、もう、心臓に悪い。どんなに信頼していてもだ。世のヒロインたちはどんな鋼の心臓をしているのか?



 ──それから。

 程々に月日は過ぎて、離れていた時間を埋めるように話をして。

 純白の衣装に着替えた私は、式場に立っていた。


「随分と長い道を通ってきたような挙式な気がする……気がしない? 儂の気のせい?」


 大司教は仕事をしてほしい。アインの方をチラチラ見ているが、魂でも見えるのだろうかこのジジイは。在り得なくもない話だ。


「ではいつものやーつ! ──病める時も健やかなる時も、たとえ世界の終わりを迎える時でも、互いに愛し合うことを誓いますか?」


「「誓います」」


 向き合い、ヴェールを上げられて、口付けをかわす。

 アインの胸元にはいつか贈ったブローチがあった。私の髪にも、少し派手になった赤いリボンが編み込まれている。


「……綺麗だ。ヴァイス……」


「……やり直した分の価値はあった?」


「勿論……!」


 抱擁され、祝福の拍手に満たされる。

 幸せな時。至福の時間。

 永遠に続けばいい、と思う。いや──思った。

 ……ああ。そう。ようやく思い出した。


「──それで」


 抱き締める彼の耳元に囁く。

 この時間の終わりに、名残惜しさを覚えながら。



「式場の外が……新しい世界?」



 瞬間──

 式場の風景が。はやし立てていた観客たちが、見知った顔たちが蜃気楼に溶けていく。

 なんて事はない。これはただの振り返り。


 私と彼の、天穹期(かつて)の記憶の回想だ。


 ……ゆっくりと、抱擁が解かれる。見上げた彼の目は、優し気で、此方を愛おしむ、見知ったもの。

 だけど、確実に違う存在だった。

 アインハルト・ジーク・ローゼンクロイツという過程を経た終点の──


「……ああ。いきなり連れていくと、驚くかと思って」


 白くて、似合っていた新郎服もまた変わっていく。

 私のウェディングドレスもだ。()()()()に相応しい装束となっていく。


「そんなに斬新な世界なの?」


「ふふ。いや、基本は変わらないさ。でも神格の輪廻システムは終了だ。もう……表立って神がいなくとも、良い世界になる。そういう風に望まれたし、そのようにした」


 なるほど想像がつかないな。

 どんなものだろう、と期待に胸を膨らませていると、衣装チェンジが完了する。

 彼は白と青を基調にした、神というより、やっぱり騎士っぽい装束で。

 私は華やかな装飾で動きやすい丈の、真白のドレス。髪のリボンはそのままだ。


「この格好……初めて会った時と似てるね」


「うんうん、そうだろう」


「凄く気に入ってる……」


 創世の時にまで採用するとは、よほどお気に入りらしい。なんだか照れてしまう。

 手を引かれながら、式場の道を歩き始める。


「皆もいる?」


「いるよ。循環の理は変わらないから」


「アインの方が知り合い、多そうだよね」


「そうだなぁ。本当に、色んな時代を回ってきたからね」


「私は何をすればいい?」


「──永遠に僕の隣にいること。後はそう……均衡を保つ役かな?」


 重要そうなお務めだ。

 私にできるだろうか?


「できるよ。大丈夫」


「あ、心読んだ」


「君にだって聞こえてるだろ?」


 ……そうだけど。

 もう、さっきから口説き文句とか愛の言葉とか、溢れんばかりに伝わっている。

 特に強いのが、


「ヴァイスとこの時を迎えられて、嬉しい」


 ……だから、本当に、そういうところ。

 そんな爽やかな笑みをしながら、隠す気もない執着を宿した危うい目を向けられたら、何も言えなくなる。

 やっぱりラスボスになる可能性があるだけはある。


「行こう」


 扉が、開く。

 少しの閃光は、黎明だ。地平線から差した暖かな光と、一面の花園。

 世界の始まりの地、……なんて名前に相応しい。


「あ……」


 庭園にいる、多くの気配を感知する。

 かつての時代、彼と共に歩んだ仲間たち。当然そこには、私が知っている騎士団の彼ら彼女らもいる。


「きれい──……」


 そんな、些細な所感さえも新世界を祝福する要素(もの)となる。

 彼の伴侶に選ばれ、同じ神格にあげられた今、この世を構築(つく)る力がある。


「……うん。とても、綺麗だ」


 こっちを見ながら言わないの。

 止まらない愛の言葉に笑ってしまう。そこで繋がれた手を引かれ、また抱き締められて。



「……愛してる。ヴァイス・フローレンス(俺の花嫁)。──僕の永遠は、君のものだ」



 応えようとする唇を塞がれて、ありきたりに物語は終幕する。

 陽光を受けながら、無数の花弁が舞い散っていく。

 神々の愛を受けて、創世の波が世界の全てを満たしてゆく。

 愛しい人の体温に包まれて、眼差しに高揚しているだけなのに。


 話の続きはまたいつか。

 それはきっと、次の世界が始まる時に。


──END

 これにて完結です。感想・評価等、気軽にいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
ハーメルン見てきました お疲れ様でした!ハッピーエンドでよかった・・・ やはり作者様の女性主人公は好きですね 面白かったです
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