表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
量産勇者、自由を掲げよ。  作者: 陶花ゆうの
1 ボーイ・ミーツ・ガール
7/228

06 大逆転

 最近の四等勇者は装備に恵まれている、という話は、噂であっても聞いたことはなかったが、リベルは仲間内以外の人間と話すことも稀であるから、噂にも人より鈍感だった。



 縦穴を降りた先には、カガヨゴケが密生する光景が広がっていた。


 青く光る苔がびっしりと岩壁に張り付いて隆盛を極めている。

 この苔は青く淡い光を放つ性質があるので、「ちらちらして鬱陶しい」と、多くの勇者から嫌われていた。

 組合で言い交わされる冗談の中に、「カガヨゴケを焼き尽くそう」というものがあるほどだ。



 が、ヴィレイアはカガヨゴケの煌めきに感嘆の吐息を零し、その様子がいっそう、リベルからすれば素人感を醸しているように見える。



 ――そして、ヴィレイアが暢気にカガヨゴケに見蕩れることが出来たのも、僅かの間だけだった。


 すぐにリベルが急かして歩き出し、カガヨゴケを抉って復路の目印にしながら、資源の採掘に向く岩壁を探して周囲を見渡す。


 本音をいえば、アーディスの助言が欲しいところだ――採掘はリベルの専門分野ではない。

 一人で探索をしていた時期も、資源の良し悪しはまるで分からず、「数撃てば当たる」を地でいく作戦を敢行していた。



 だがやがて、ここは良いといえる場所に行き当たった。

 カガヨゴケが途切れて岩壁が露出しているところに、素人でもはっきり分かるだろう、陽光の色に煌めく光晶が見えていた。


 とはいえ純度はリベルでは判断できない。


 光晶は灰色の岩石の一部が変質して発生しているもので、素人が光晶だけを掘り出すのはまず無理だ。

 更に言えば浮揚璧は、岩石そのものの成分の一つであって、これを純度を保って取り出すことが出来る工匠は限られている。



 リベルは光晶の煌めきを指差し、ヴィレイアを見つめた。

 ヴィレイアは即座に言った。


「私は危ない生き物が近づいて来ないか見張っているので、リベル、お願いします」


「――だろうと思った」


 リベルは嘆息とともに呟いて、背負っていた道具箱を下ろした。


 もう完璧に敬語は抜けていた。





 不傷石を使った爆破装置は、拳大の大きさで、しかも使い方も簡単だ。


 どっかん、と冗談のような轟音が響き、少し離れて耳を塞いでいた二人は元の場所に戻る。

 粉塵が漂い、風もない地下にあって滞空していた。


 この鉱路の天井は高く、見上げても暗さも相俟ってどれほどの空間が頭上にあるのかは分からない。


 粉塵の漂う採掘場所で、リベルは鶴嘴やら何やらを取り出しつつ。


「――今の音で何か寄って来るかも知れないから、気をつけて」


「承知しました」


 真面目腐ってそう答えるヴィレイアを信用し切れず、採掘にかかっている間も、リベルはそわそわとヴィレイアの方を窺うことになった。


 そのために採掘も疎かになり、資源袋に適当な量の光晶を含む岩石を放り込むと、「もう行こう」と声を掛ける。


 暢気にも鼻唄を歌っていたヴィレイアは、その声を受けてリベルを振り返った。


 それまでは機嫌の良い明るい顔をしていたが、リベルが大半の光晶をその場に置いて行こうとしていることに気づき、可憐な眉を顰める。


「――浮揚璧つきの資源袋ですよ。もう少し持って行けるでしょう」


 背中を預けるにはきみが余りにも頼りない上に正体が分からず、あまつさえ強くなるための努力を怠るような発言をする人間性を信じられないんだ、と告げるのを堪え、リベルは宥める方向にかかる。


「ここで資源袋をいっぱいにしても、この先にもっといいものがあるかも知れないだろ?」


「そのときは資源袋を軽くすればいいじゃないですか。先はあてにせずに、その場にあるものをまず確保するのが鉄則じゃないんですか」


 確かにそれはそうだった。

 だが、素人感を醸すヴィレイアに言われると違和感がある。


「じゃあきみが採取してくれ。俺が周りを見張る」


 折衷案を突きつけたリベルに、ヴィレイアが逡巡の様子を見せる。


「採掘は――」


「出来ないなら先に進もう。今回の探索ではちょっとずつ資源を集めるようにしたい」


「どうしてですか?」


 きみが信用できないから、と伝えてしまえば、欠落直結の仲間割れ待ったなし。


 リベルは息を吸い込んだ。


「どうしても」


 ヴィレイアの眉間に皺が寄った。

 美人の怒った顔は怖いとよく言うが、ヴィレイアはそうでもなかった。

 整ってはいても、冷ややかさや近寄り難さを醸す美貌ではなく、純情可憐な面差しをしているからだろう。


「リベルは困っていないかも知れませんが、私はとてもお金に困っています。

 稼ぎを二等分にするなら、この探索ではそれなりに成果を上げる必要があるんです」


 リベルもかちんときた。


「その割に、採掘はしたくないと?」


「それは――」



 ヴィレイアが口籠った、その瞬間だった。



 音を立てて何かが降ってきた。


 掠めるような距離に落下したそれが、次の瞬間にはリベルとヴィレイアを弾き飛ばしている。

 二人はそれぞれ別方向に吹き飛んだ。


 それどころか一部の岩壁が抉られ、がらがらと崩れている。


(――うわっ)


 衝撃に目が眩むような心地があったが、リベルは即座に跳ね起きた。


 目で見る前から、何が降ってきたのかは把握している――



 勇者が呼び習わすに「化けコウモリ」。

 洞窟で見るコウモリを身の丈十フィートにして、かつ強靭な牙と爪と度外れて硬い皮膚を与えた代物だ。


 このコウモリの表皮は僅かに青い。普段からカガヨゴケの群生地の近くを縄張りにしている証拠だ。


「ああ、くそっ」


 思わず悪態を漏らす。


 思っていたよりヴィレイアとの口論に注意を持っていかれていたらしい。

 如何に天井となる岩壁が遠いとはいえ、普段なら絶対に接近に気づいていたはずだ。



 コウモリが大きく頭を振って、皮膜の張った翼の先端の鉤爪で岩壁を抉りながら、獲物を探して頭を振る。


 その頭部に眼はなく、発達した耳が変形した角があるのみだ。



 リベルはもはや考えるまでもなく、一撃でコウモリを葬り去ろうとし――



 ――動きを止めた。



「――――!」


 ()()()()()()()()()()()()()()()



 岩壁が崩れた粉塵が漂っている。

 視界が利かない。


 あちこちに大岩が転がっている。


 彼女の位置を把握していなければ、巻き添えでヴィレイアまで欠けさせてしまいかねない――



 魔法でコウモリをどこかへ投げ飛ばそうとした。

 心袋には負担となるが(何しろ小石一つ持ち上げるのとは訳が違う。抵抗するだろうコウモリを投げるのと、コウモリの死体を投げるのとでも、もちろん違う)、そうも言っていられない。



 吹っ飛んでから僅か三秒で、リベルはそこまで判断し、膝立ちの状態から立ち上がって、心袋に事象を詰め込もうとし――



 ――声がした。



「――契約、影、浮揚精」



 どこかで鈴のような音が鳴る。

 耳で聞く音ではなく、精神で聞く音だとしか喩えようのない、凛とした清々しい音。


 空中に次々に花が綻ぶかのように、巨大なコウモリを囲んで淡い金色の光が灯っていく。


 コウモリが当惑したような鳴き声を出した――その巨体が浮き上がる。


 このコウモリは、見た目には大きいが、大型の鉱路生物には類されない。

 影契約ではあっても、精霊法術が及ぶ範囲なのだ。


 重力そのものから切り離されたように浮き上がるコウモリが、淡い金色の光に囲まれたまま、リベルから離れる方向へ漂っていく。


「解除、浮揚精」


 空中で突然手を離されたかのように落下するコウモリ。


 金色の光が消えていき――


「契約、影、透過視精」


 声が聞こえ、またもあの音――精神が聞く、凛として清々しい、鈴のような軽やかな音。


 一瞬の間を置いて、また、声。


「解除、透過視精。

 ――リベル、そのままそこにいてください」


「…………?」


 さすがに頭がついていかず、リベルは唖然としてその場に留まる。



 そして、ごうごうと燃え盛る薔薇色の両手剣を構え、コウモリに突っ込んでいくヴィレイアを見た。





(え? 強すぎない?)


 というのが、率直なリベルの感想だった。



 確かにヴィレイアは、両手剣を扱っている――というより振り回しているだけで、もしも双方がただの剣を持った状態でリベルと試合えば、軍配は間違いなくリベルに上がるが。



 だが、それを差し引いても、たった今ヴィレイアが披露したのは神業といっていい所業だ。



(儀式を省略して契約って出来るもんなの……!?)


 リガーは一等勇者だが、その彼であっても、新たな精霊と契約する必要に迫られたときは、さんざん嫌だ嫌だと駄々をこねてから、一時間ほども要する儀式を執り行って契約していた。


 それを、ただ言葉の上での契約で済ませるとは。


 いやそもそも、リベルの知識が確かならば、契約とは即ち精霊への法気の呈示、然るべき香草を用いた儀式が必須で必要であったはずだ。


 ――その手順を簡略化する方法が、いつの間にか発見されていたのか?

 だが、だとすれば、それをリガーが知らなかったということはあるだろうか。



 ――己が知らないだけで、こうまで四等勇者の水準は上がっていたのか。



 戦慄するリベルは、しかし一方で、ヴィレイアへの評価を大幅に上方修正せざるを得ない。


 これなら背中を預けて大丈夫だ。

 採掘道具と資源袋が吹っ飛んでいったので、それを回収してからになるが、ぜひとも積極的に採掘を続けよう――



 ――と、そう思って賛嘆の目でヴィレイアを見つめたのだが。



 コウモリを灰燼に帰し、ほう、と息をついてからこちらを振り返ったヴィレイアは、恐ろしく気まずそうな顔をしていた。



 それを見て、リベルもようやく、漠然と悟った。



 ――彼女もまた、何か裏のある事情を抱えているのでは? と。























評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ