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量産勇者、自由を掲げよ。  作者: 陶花ゆうの
3 任務探索
47/228

11 ハイリの勇者隊

 リベルは思った――誰だこいつら。


 そして同時に判断した――そんなことを考えている場合ではない。



 立ち上がり、一度は砲火を鬱陶しげに払うためにこちらを捕獲する手を止めた巨人を、洞穴から息を呑んで見上げる。


 大きい――まさに、その頭が頭上に浮かぶ巨大な浮揚璧を掠めそうなほど。

 影兵霊の足止めがなければ、ものの数秒でリベルたちは順番に握り潰されて口に放り込まれていたに違いない。



 次々に立ち上がるリベルたちに、現れた勇者隊が早口ながら淡々と告げていく。


「あんたたちの旨そうな匂いで目が覚めちゃったあいつ、硬くてな。奥に逃げるしかないが、奥にもやばい奴がいる。あいつが飽きてまた眠り込むまで、取り敢えず躱し続けるしかない」


 リベルは息を吸い込んだ。


 まさにそのとき、黄鉄鉱の色の掌が無造作に洞穴の入口を掠める。

 がらがらと凄まじい音がして洞穴の入口が崩れていく――


 未知の勇者隊が、警戒する様子で奥を振り返る。

 どうやらこの向こうにいる鉱路生物に、この騒音を聞かれたくないようだ。


 奥は明るい。

 この洞穴は隧道のような形で十数フィート続き、そしてそこから広い空間に合流している。足許は凹凸が激しい。



 岩壁の大きな破片が落ちて足許が揺れる。

 黄鉄鉱の巨人からすれば、片手を入れるのがやっとの隙間を探っている状況だ。


 獲物はどこに行ったのかと訝るように、一旦その手が引かれ、巨大な頭が屈められる――



 ――逃げ回るのは体力の無駄だ。

 しかしリベルに名案はない。


 こんなときどうするか。


 決まっている。



 リベルは兄貴分を振り返った。



「エルカ、どうしよう?」


 アーディスの隊の全員が、愕然とした様子でリベルを見た。


 エルカは全く迷わなかった。

 彼は既にその場に膝を突き、足許に小さな水溜まりを作りながら、携行していた麻袋の一つを悴んだ指で開けようとしている。


 そして手持ちの小銃を軽く振って悪態を吐くと、未知の勇者隊を遠慮なく振り返った。


「誰か、使える銃を貸してくれ」


 勇者隊の中に当惑と躊躇が走ったが、大迫力の黄鉄鉱の巨人がその躊躇を押し流した。


 中の一人が進み出て、持っていた中折れ式の短銃をエルカに手渡す。


 エルカは無言でその短銃をひったくり、回転輪胴を下に折り曲げて弾倉を露出させ、不傷石の弾丸を取り出した。

 続いて麻袋の口を完全に開き、


「――何してるの?」


 茫然と呟いたのはアガサだった。


 エルカが淡々と麻袋から取り出したのは、この探索の冒頭で彼が捕まえていた毒カエルだったのだ。


 エルカは応じない。

 彼が腰帯の小刀を引き抜いた。


 目を上げないまま、エルカが言う。


「ヴィリー、かっこいい霊で、あのでかぶつがしばらくこっちに手を突っ込まないようにして」


 ヴィレイアがこくりと頷き、右手をひらひらと動かす――途端、この洞穴の入口近くに落ちる影の中から、夥しい数の影兵霊がずるずると這い出し、隊列を組み始めた。


 影兵霊を見て、未知の勇者隊の中で声が上がる。

 驚愕というより感嘆の声。


 エルカは、辛うじてまだ生きており、やっと外に出られた嬉しさに喉を鳴らすカエルを左手で掴み、地面に押しつけて、


「――ごめん」


 小さく呟いて、そのカエルの腹を裂いた。


 紫色の血が飛び散る。


「何してる?」


 今度は複数の声での詰問。


 だがエルカはやはり答えず、飛び散ったカエルの臓物から、数秒で一つを見分けてそれを掌の上に取った。

 そして地面の上に散らばった弾丸の一つを、躊躇うことなくその臓物に押しつける。


「うげ……」


 呟いたのは短銃の持ち主である。

 その顔が強張っている。


 エルカは淡々と、血に塗れた弾丸を再び短銃に装填した。

 カエルの血に塗れた手指を拭うこともなく回転式の弾倉を元に戻し、


「ヴィリー、精霊をどけろ!」


 ヴィレイアが指を鳴らす。

 すぐさま影兵霊が影の中にとぷんと身を沈める。


 エルカの視線が持ち上がる。

 視線と同時に短銃の銃口が上がる。


 彼が息を止め、巨人の動きをただの一秒だけ見て取って、



 ――撃発。



 回転しながら飛んだ弾丸が、狙い違わず、恐ろしいほど精確な照準を得て、巨人の独眼に突き刺さった。



「――――!」


 絶叫。



 その声の凄まじさに地面が揺れ、頭上からぱらぱらと細かい砂塵が落ちてくるほどの。


 巨人が両手を引っ込め、その両手で顔面に当たるだろう箇所を押さえる。

 見上げるばかりの巨躯が痙攣し、地響きとともに巨人が後退った。



「――何の手品?」


 未知の勇者隊の一人、短銃の持ち主が呟いた。


「銃弾一発で、あの巨人が怯むはずがないのに」


「このカエル、毒があってさ」


 エルカが事も無げに言って、事切れたカエルに敬礼した。


「さっきのは、多分こいつの毒嚢だろうって臓物。

 ――あの巨人、一応は目で見て獲物を探してたっぽかったし、ものの数じゃなかろうと、目玉に直接毒が入れば、しばらくは目が霞んで狩りどころじゃないだろ」


 短銃をくるっと回して銃身を握り、エルカが銃把を本来の持ち主に向ける。

 もちろん血がべっとりと付着したまま。


 短銃の持ち主は引き攣った顔でそれを見て、大砲を担いだ彼の仲間に助けを求める目を向ける。


 エルカは()()と笑った。


「いつ使えるか分かんないから、ああいう生き物は捕まえることにしてんの。

 ――で、はい、猶予が出来たよ。あんたら誰? 自己紹介してくんない?

 ついでに、奥に何がいるのさ?」





 未知の勇者隊は、まじまじとリベルたちを眺めた。


 なおも奥の空間を気にする様子はあれど、黄鉄鉱の巨人から逃げ回る必要がなくなったこともあり、少し落ち着いている。


「――あんたら、どこの組合? ハイリの勇者隊じゃないな」


 大砲を担いだ勇者が、空いている手で顎を撫でながら呟く。


 じろじろ見られて、リベルはこんな場合であっても人見知りを発揮してエルカの後ろに隠れてしまう。


 エルカは呆れたようにリベルを振り返ってから、柄の悪い笑顔で応じた。


「へえ、ってことは、そっちはハイリの勇者隊なんだ?」


「そうだよ」


 大砲を担いだ勇者は言って、よいしょ、と大砲を足許に下ろす。


 灰色の短髪、白い肌、皺の寄った顔面に、その皺に埋もれそうなほど細い瞳。年齢は四十半ばか。


「ハイリの一等勇者隊の、俺がウェイン。一等、ここの筆頭。

 こっちが、」


 と、なおも顔を強張らせている短銃の持ち主を示す。

 彼はまだ若い――二十代前半か。金色の猫っ毛、明るい緑の瞳。男性にしては背が低い方だった。左の耳にだけ、大きな金色の耳輪をつけている。


「二等。オーリン。

 ――で、こっちが、」


 続いてウェインは、綺麗に頭を剃り上げている女性を示す。

 三十代前半程度か、剃り上げているために頭部の形の美しさが際立つ。切れ長の黒い目、浅黒い肌。


 リベルは思わず、後ろからエルカの手を掴んでいた。

 ここでエルカがこの女性を口説き始めては目も当てられない大惨事になる。


「一等、メイ。

 ――あっちがギー・レスとベイ・レスの双子。どっちも二等」


 と、ウェインが今度は、ずんぐりした背格好の、傍目からしても双子であることが明らかなほどにそっくりな見た目の、赤茶色の髪と髭の四十前半と見える男性二人組を示す。


 二人は全く同時に右手を挙げ、全く同じ仕草で手を振った。


「ども」


「ども」


「で、最後にこいつがディドル。一等」


 そう示されたのは、栗色の髪に同色の瞳、そばかすの散った顔の、二十代半ばと見える男性だった。


 彼が妙にじっくりとヴィレイアを見ていることに気づいて、リベルは人見知りを忘れてエルカの陰から出て、ヴィレイアの隣に立った。


「あー、こっちは……」


 エルカが言い淀み、アーディスを窺う。


 アーディスが濡れた髪を掻き上げて肩を竦め、それを受けた。


「こっちは連合なんだ。隊が二つ。

 俺の隊は、俺と、こいつと、こいつと、こいつ」


 指差される度に、リガー、アガサ、ラティが手を挙げる。

 とはいえラティの仕草は余りにも遠慮がちだったので、挙手に見えたかは不明である。



 アーディスがそれぞれを紹介しようとしたとき、ディドルと呼ばれた若者が、ぐいっと身を乗り出してヴィレイアに近づいた。



 途端、リベルとエルカがヴィレイアの前に立ちはだかる。

 警戒心満点にエルカが尋ねた。


「なんか用?」


「あ、いや」


 と、ディドル。

 彼が、リベルとエルカの間を透かそうとしながら、おずおずと尋ねた。


「あの……()()()()()()()?」


 リベルはヴィレイアを振り返った。


「知り合い?」


 ヴィレイアが大きな濃緑の瞳を瞬かせ、きょとんとした様子でふるふると首を振る。


 濡れ鼠のままの彼女の歯が鳴っており、リベルは思わず実際に自分の頭を叩いた。


 この気温で、濡れ鼠になって、寒くないはずがない。

 手足の末端はもはや凍りそうなほどであるはずだ。

 暖を取ろうと熱精を使おうにも、大型の鉱路生物のそばにあって、ヴィレイアであっても影契約を封じられているのだ。


 ヴィレイアの全身を乾かす魔法を大急ぎで使い、ついでに自分とエルカも乾かした上で、リベルは少し迷ってから自分の外套を脱ぎ、ヴィレイアの肩にそっと着せ掛けた。


 ヴィレイアが目を見開き、ぽかんとしてリベルを見上げる。


 リベルの不器用な顔面は適切な表情を作り出せず、妥協案の仏頂面でそれを受けた。

 とはいえ口調はおずおずとしたものになった。


「……大丈夫か?」


「……とっても。あの、えっと、ありがとう」


 心なしか赤くなった顔でそう応じてから、ヴィレイアはリベルの外套を嬉しそうに胸元で掻き合わせる。

 その胸元で時精時計が揺れている――浮かぶ数字は「一〇二八」。


 それから、ヴィレイアはエルカの背中から顔を出してディドルを窺った。

 彼女が首を傾げて、遠慮がちに尋ねる。


「――えーっと、どこかでお会いしました……?」


「やっぱり! ヴィレイアさんですよね!」


 と、ディドルの方は踊り出さんばかり。


 エルカが厳しい顔でそれを見据えた。


「あのさ、うちのヴィリーはあんたのこと知らないみたいだけど」


「覚えてなくて当然です! ――コリルト湖の近くの鉱路で会ったことがありますけど、僕は目立ってませんでしたからね! 僕の隊が亜竜に遭遇したときに、助けに来てくれたんです!」


 アガサが、「本当に特等だったんだ……」と呟く一方で、ヴィレイアは顔を強張らせた。

 リベルも思わず顔を覆ってしまう。


 確かに、フロレアはダイアニよりも、エーデルよりも北に位置する――ハイリの勇者隊と、どこかの鉱路で出会っていても不自然ではないが。


 ――だが、ということは、この若者はヴィレイアを、フロレアの組合の特等勇者だと思っているわけだ。


 一方、メイと呼ばれた女性も訝しげにディドルを見ている。


「いつの話?」


「僕がこの隊に入る前の話ですよ。二年くらい前かな?」


 そう言って、ディドルはきらきらした憧れの表情でヴィレイアを見つめた。


「ほんっとうに凄まじい法術でした!

 ――今日はお母さんは一緒じゃないんですか?」


()()()()()?」


 リベルとヴィレイアの声が重なる。

 リベルはがばっとヴィレイアの顔を覗き込んでいた。


「おい?」


「いやいやいや、誰のこと? は? 母親なんていませんけど?」


 と、ヴィレイアも混乱を通り越して戦慄の表情。


 ディドルは「あ」と呟いて、決まり悪そうに頬を掻く。


「すみません、なんというか声の掛け方が母娘みたいだったので、勝手に誤解を。

 ――あの、黒髪の……」


「……ああ」


 ヴィレイアが呟いた。

 余りにも小声だった。


「メメットか……」


「全然似てないのに……」


 リベルも思わず呟いてしまう。

 ヴィレイアは顔を顰め、自分の爪先を睨むようにして。


「――大規模探索の指揮なんて執れないから、いつもメメットに代わりにやってもらってたの」


「おまえらしい」


 と、リベルは述懐。

 ヴィレイアは肩を竦めた。


 一方のディドルはもはや崇拝の表情。

 両手を握り合わせ、輝くばかりの安堵の滲む顔で。



「良かった……! ヴィレイアさんがいるなら何とかなりますね、この状況!」



「――――」


 はっきりとヴィレイアの顔が強張った。


 不安と戦慄、凄まじいばかりの忌避がその表情を駆け巡る。



 リベルは思わず、彼女の右手をぎゅっと握り締めた。


 エルカがそれを見て、じゃっかん愉快そうな視線を投げてきたが、彼が思うような動機から握ったのではない。



 ――ヴィレイアには、一種の心的外傷(トラウマ)がある。


〈鉱路洪水〉で、周囲から一斉に頼られ、命を預けられ、そのときに何も出来なかったという記憶が。


 彼女は他人から寄り掛かられると、途端に一歩引いてしまう。

 何かを依頼されるならばともかく、主体として動くよう、謂わば指揮官として必要とされることに免疫がない。


 自由奔放で天真爛漫、それこそがヴィレイアの性質であり、欠点だ。



 直していかなければ、ゆくゆくヴィレイアは苦労することになるな、と、リベルは思う。

 だがここで、「いい機会だから頑張れ」と手を離してしまうのは――()()


 それはヴィレイアのためにはならない。

 ここで手を離せば、ヴィレイアは見捨てられたと判断するだろう。


 ()()()()()なお()()()()()やれるほど、リベルとヴィレイアの関係は育ってはいない。



「――大丈夫」


 リベルは囁いた。


「大丈夫。俺がいる。

 おまえがいようがいまいが、大して変わらないよ」


「――――」


 それを聞いて、ゆっくりと――だが確実に、ヴィレイアの表情が緩んだ。


 その表情に曙光のように微笑が差すのを見て、リベルも微笑む。

 ――彼はヴィレイアの、安堵の表情が好きだった。



 ぽんぽん、とヴィレイアの頭を撫でてから、リベルはエルカを見上げた。


 エルカは揶揄う表情でそれに応じてから、しかしすぐに表情を改めて、ディドルに向き直る。


「――えーっと、盛り上がってるところ悪いんだけど、うちのヴィリーは特等を返上してだな、今は四等で自由にやってるとこ」


「――え?」


 と、ディドル。

 満面の笑顔に罅が入る音がする。


 エルカはにっこり。


「でもまあ、実力は変わらず。

 ――それで、こっちはリベル」


 エルカは、何かを期待するような顔でウェイン隊を見渡した。


 ダイアニの町でのことを念頭に置いて、リベルの名前を告げた途端に勇者たちが盛り上がることを期待したのだろうが、生憎とハイリはダイアニから離れている。

 ここまではリベルの名前も伝わっていない。


 誰も何も反応しないことに悲しそうな顔をして、エルカが続けようとする。


「リベルは、知る人ぞ知る――」


「わああっ!」


 エルカが、リベルの不本意な二つ名を口に出そうとしたことを察し、リベルが大声でそれを制止する。


 ヴィレイアがふふっと笑うのを後目に、リベルは人見知りも一時的に封印し、強引に話を進めた。


「そう、俺がリベル、エーデルの町の四等!

 で、こっちはエルカ! 同じ町の三等! 三等だけど、さっきの狙撃は見たでしょう、すごいでしょう!! で――」


 ここで、リベルの人見知りが再度顔を出す。

 顔を赤くし、しおしおと黙り込むリベルを見て軽く笑ってから、アーディスが話を引き受けた。


「俺たちはダイアニの町の一等勇者隊。

 俺がアーディス、一等で筆頭。他も全員が一等だ。アガサ、リガー、ラティ」


 それぞれが軽く頷く。


 アーディスが軽く両手を広げた。


「で、あんたらはさっき、奥にもやばいのがいるって言ってたよな。その辺の事情を教えてくれないか?

 こっちは余所者で、右も左も分からんのよ」





*◇*◇*





「この鉱路が、十年前から甲種評価だってことは知ってるかい?」


 洞穴の壁に凭れ掛かったウェインが尋ね、全員が頷く。


 ウェインは足許に置いた大砲を支えつつ、肩を竦めた。


「そんだけ危険な鉱路に、なんでまた三等だの四等だのが入っているのかは疑問だが、それはまあ置いておいて。

 ――あんたら、最初の分岐で右を選んだんだろ? そうすると上の岩の橋まで一直線だもんな」


 ウェインが親指で、岩の橋が通じているはずの鉱路の奥の方向を示した。


「あの橋を渡り切るとな、この湖と地下で繋がってる、もうちょっとでかい湖にぶつかる。銀色の、闘魚みたいな馬鹿でかい魚は見ただろ? あれがもっと大量にいてだな、しかもめちゃくちゃ腹を空かせてるはずだ。

 進まなくて良かったな」


 アガサがぼそっと、「結果的にこうなって良かったんじゃない」とヴィレイアの方を見ながら独り言めかして呟き、ヴィレイアがそちらを睨んだために、二人の間で一瞬火花が散った。


「で、推測だけど、後ろからはわんさか鉱路生物が来てた?」


「その通り」


 と、アーディス。

 ウェインは「やっぱりな」と呟いて顎を撫でる。


「勇者は大抵ここで喰われるからな。おこぼれに与りたくて、大盛況になるんだろ」


 エルカが挙手。

 ウェインの視線が自分に向いたことを確認してから、彼はぶっきらぼうに言った。


「最初の分岐で、俺たちは確かに右を選んだよ。けどあんたらは? 左を選んだのか?」


「あー……」


 ウェインは気まずそうに顔を顰め、メイを窺った。

 メイは表情を変えず、淡々と応じる。


「確かにそう。――ハイリではこの鉱路は悪名高いのよ。

 最初に右を選ぶと亜竜に遭遇する」


「亜竜!?」


 ほぼ全員の声が揃った。

 リガーがずるずると座り込んで顔を覆う。


「嘘だろ、終わった」


 ラティがさすがに腹に据えかねた顔でリベルを見る。


「――リベル、知らなかったんですか?」


「知らなかった」


 リベルは認め、両手で顔を拭った。


 エルカはメイをじっと見ている。


「で、左を選んだあんたらがなんでここにいるの?」


「単純に言うと、どこかで道を間違えたから」


 メイが恥ずかしげもなく淡々とそう言って、続いてギー・レスだかベイ・レスだか、双子の片割れが言った。


「右を選ぶとこの湖に着いちゃうことは分かってたから――」


 双子のもう一人が言う。


「――僕たちは左を選んだわけよ。

 それで慎重に慎重に進んで、しばらくは順調だったんだけど――」


「――どこかで道を間違って、気づくと湖が見えてた」


「もうね、絶望」


「最悪」


「そうこうしているうちに橋の上で騒ぎになってて」


「右を選んだお馬鹿さんがいるなら、もう協力するしかないよねって」


「で、我らが筆頭が大砲をぶっ放したわけよ」


 エルカが片手を挙げて双子を黙らせる。

 そして腕を組んで眉間に皺を寄せた。


 元々が怜悧な顔立ちの彼だから、いつものへらへらした笑みを消してそうしていると、なかなかに迫力がある。


「で、亜竜はどこ?」


「元々はこの湖の底に一頭」


 と、オーリン。

 彼はエルカから短銃を返されているが、べとつくカエルの血をそこから拭うことに苦心していた。

 彼が頭を揺らす度に、ちゃりちゃりと小さく耳輪が鳴る。


「そのお蔭でずーっと甲種評価で、滅多に誰もこの鉱路には入らなかったわけよ。

 ただ、最近になってその亜竜、欠けたんだよね」


「どこの勇者がやったの?」


「いや、寿命。十年前に亜竜の目撃情報が出たとき、もうだいぶよぼよぼだったらしいから」


 リベルは思わず、毒で霞む目をなおも押さえて悶絶している黄鉄鉱の巨人を振り返る。


「――亜竜の縄張りに入るほど馬鹿なはずはないけど」


「そう、亜竜が欠けたっていう情報が入ったからさ、欠けた亜竜ならなんとかなるじゃん、だから相当な数の勇者隊がこの鉱路に入ったんだけど、状況が悪化しててさ」


 ディドルが指を立てて、オーリンの言葉を引き取る。


「一、どこからか知らないけど、あの巨人が棲みつくようになってた。

 お蔭様で、元々この湖に棲んでた鉱路生物が入口の方に流れちゃって」


「謎が解けた」


 エルカが呟く。


「あの芋虫も蛇も、そういうわけで棲み処が変わってたわけね」


「それから二、亜竜がいたから、この湖の中に水生の明りクラゲがいるわけだけど、竜の眷属がいなくなって数が減ってて。食物連鎖っていうんですかね? それが崩れて、でっかいお魚さんたちも腹を空かせてて狂暴化。

 それで三、これについてはいつからか知らないけど、」


 ディドルが無表情に、明るく照らされる洞穴の奥の広い空間を示した。


「あっちにもう一頭、亜竜がいます」


 今度はアガサとラティが座り込んだ。


「――終わった……」


「元来た道を戻ろうとはしたんだけどな、亜竜に気づかれちまってよ。戻れなくなって、こっちに逃げてきたら今度は巨人だろ? もう二進も三進もいかなくなって、糧食にも限りがあるし、どうすっかなーって話してたら、おまえらに遭遇したわけよ」


 ウェインが言って、にっこりと笑った。


「こうなりゃ()()()()()()だぜ。協力しようや。

 ――見たところおまえら、資源袋を落っことしてきたんだろ? こっちはまだ持ってる。

 生きて出口が見えた暁には、仲良く資源は分け合おうってことで」


 アーディスは引き攣った笑顔。


 選択の余地がどこかに落ちているのならば見つけたいものだ、と言わんばかりの、運命に対して歯軋りするような表情で、しかし辛うじて応じた。


「おうよ」















一気に登場人物が増えたので、ハイリの勇者隊を以下にまとめておきます。


・ウェイン:筆頭。一等。灰色の短髪、糸目、白い肌、四十代半ば。大砲を所持。


・オーリン:二等。二十代前半。金髪猫っ毛、明るい緑の目。背が低い。エルカに短銃を貸した。


・メイ:一等。三十代前半。禿頭の女性。黒い目、美人。


・ギー・レス/ベイ・レス:二等。双子。四十代前半。ずんぐりしている。赤茶色の髪と髭、茶色い瞳。お互いにそっくり。


・ディドル:一等。栗色の髪と瞳、そばかすの散った顔、二十代半ば。ヴィレイアを知っていた。








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