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未来の思い出  作者: 彩宮菜夏
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2. 使用例についてのご説明

 ああ、旦那様、よくご存じで。

 人間そのものの記憶を増大させる研究も、昔から行われておりますな。薬物を投与したり、脳にナノマシンを入れたり、部分的にサイボーグ化したり。

 昔のサイエンスフィクションでは、そういうのが流行りでした。はは。


 しかしながら、そうしたものとフェモリィは、根本の設計思想が異なっているのですよ。

 そういう味気ない研究を行なっている連中は、詰まるところ人間そのものを強化しようとしているのです。

 いわゆる、改造人間。

 見聞きしたものを何でも覚えておければ、そりゃ学業だのビジネスだのの分野では活躍出来ましょうな。

 しまいには人間という種そのものを進化させようとかいう、ご大層で進歩主義的な発想。

 まあ結構なことですが、科学がこれだけ進歩して、宇宙生まれ宇宙育ちの子どもが成人するような時代になってなお、そうした技術は実用化されていない。こりゃなぜでしょう。


 私が思うに、楽しくないから、でしょう。ふふ。

 いや、だってね、自分の目から見て自分の耳から聞いた情報なんて、どれだけたくさん記録されていたところで、後から見て面白いと思いますか、普通。

 どう考えたって退屈でしょう?

 なにせ普段見飽きてるものだし、ブレていて美しくもないし、何より、自分が映ってないんですよ。

 カメラが小型化して一般化していって、最初に起きた変化って何だと思います?

 誰もが、自分を撮影するようになっていったんですよ。自撮りというやつ。

 人間はね、自分が映っているものを、後から見返したいんです。


 聞いたことありませんか?


「フェモリィは、貴方を主人公に。」


 広告のコピーです。もう一つある。


「フェモリィは、思い出をお見せします。」


 この二つの言葉が、我々の考え、全てを現しているんですよ。


 演説が長くなってしまいましたな。失礼。

 では、実際にどのように使用するものか、ご覧いただきましょう。

 と言っても、普段から奥様は旦那様にフェモリィの記憶をお見せしているでしょうから、あえて説明するまでも……お見せしていない?


 ほう、お二人でご覧になったことは、ないのですか。

 はあ、珍しいですな。当店にお越しいただくにあたっても、一度も?

 え、先週まで、奥様がフェモリィをお使いとはご存じなかった。

 ははあ。


 まあ、よろしいでしょう。思い出というのは、個人のものでございますから。


 奥様がお使いになり始めたのは……一年半前ですか。

 旦那様、ここ一年半での楽しい思い出は……十ヵ月ほど前の、沖縄旅行ですか。ようございますな。

 それではその時の記憶を、奥様、お呼び出しくださいませ。


 ええ、このように、使用者ご本人様のお声にしか反応しないよう、フェモリィには声紋が登録されております。

 ちなみに、弊社の技術スタッフでも、ご本人様の許可なく勝手にデータにアクセスすることは出来ないよう、設計されております。

 ですので、悪用されることは万に一つもございません。ご安心を。


 さあ、こちらの壁に映っているのが、ご旅行の際にフェモリィによって記録された思い出でございます。

 フェモリィには簡易な映写装置も搭載しておりますので。

 ほう、琉球王国の遺跡を巡られたのですな。美しい。

 お二人とも本当に楽しそうで……。このガイドさんも親切で、お髭の似合う素敵なお方ですな。

 現地の男性ですか。へえ。


 映像としての完成度も高いでしょう。

 撮影中のカメラアングルや光源、音声も自動調整・補正を行い、動画として飽きの来ないものを作り上げるように設定されておりますので。

 いわば、奥様が主役のドキュメンタリー作品、というわけでございますよ。


 ご夫婦とも楽しそうだ……おっと。今記憶が途切れましたが……なるほど、こちらの記憶は、奥様はすでに編集されているのですな。

 ちなみにここで途切れたのは……ああ、お手洗いに。これは失礼しました。


 旦那様、このように、当然のことながら残しておきたい記憶もあれば、わざわざ後から見たくない記憶もございます。

 それらは当然削除することも可能です。

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