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未来の思い出  作者: 彩宮菜夏
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3. 使用に際しての影響について

 普段よく訪れる、ご自宅であるとか勤務先でしたら、予めお手洗いやバスルーム、寝室にフェモリィが入り込まないよう設定することも、簡単に可能。

 それ以外にも、忘れたいことがあったらいつでも、デリートすることは出来ますので。

 そしてこの後……ああ、ホテルのお部屋に戻って……。


 ん?

 今、二日ほど時間が飛びましたか?


 いや、そりゃホテルのお部屋に入ったら、大人のことですからな、翌朝まではデータが飛ぶのは普通なのですが、ご旅行中にしてはずいぶんばっさりと編集されて……。

 え? 喧嘩?


 あ、ああ、旅行中に喧嘩を……。

 ははは、なるほど。それはよくあることです。うん。

 旦那様がお怒りになって、しばらくホテルに帰らなかった、と。


 確かにそれは、消しておきたい記憶でしょうからね。

 へえ、ガイドさんが仲を取り持ってくれたわけだ。その後はもうすっかり、仲直りされて。

 ああ本当だ。お二人とも楽しそうだ。

 ガイドさんも楽しそうで。へえ。


 ちなみに奥様は、旦那様が戻られない間はホテルで何を……ああ、ずっと映画をご覧に。

 そりゃ記録しておいても仕方ないですね。へえ、なるほどね。

 ご旅行は十ヵ月前ですか……。

 あいや、何でもございません。


 このように、フェモリィはありとあらゆる物事を記録していきます。

 ほら、このように十ヵ月前から現在までも、奥様の動向が逐一記録されております。

 そして、これが昨日で……今日。

 ほら、このお店に入ってこられるところも。ばっちりです。


 漠然とした脳内の記憶に頼るよりも、その時自分が何を見ていたか、何をしていたか、明確に、更にいえば客観的に残しておけるのです。

 近年では、裁判向けの証拠記録としても、使用していただくことが増えて参りました。

 そして、こうして残していくことで何が変わるのか。楽しい、面白い、というだけに留まらないのです。

 実は、人生観そのものが、変わってくるのでございます。


 何を大げさな、とお思いになるかも知れません。

 しかし、私自身の経験をお話しさせてくださいね。

 私はこの会社に勤めているということもあり、十三年前、最初のフェモリィ試作機が開発されたときからずっと、継続して使用しております。

 つまり、私のここ十三年間の人生が、明確に記録されているわけなのです。

 それも、いつでも確認出来る形で。

 最初のうちは私も、面白がっているだけでございました。

 わざわざ自分の手で動画を撮らずして、自分が何をやっていたか全部観られるのですから。


 ああそうだ、昨日はこれを食べた、ここへ遊びに行った、先週はこんなことを喋った、先月はこんな仕事をした。

 今までだったら忘れてしまっていたようなことが、何もかも「思い出せる」のです。

 家に帰る度に、ついつい映像に見入ってしまいましたよ。


 別に私はナルシストでもないのですが、自分というのはこんな顔して働いて、こんな顔して飯を食っているのか、と。

 これがまず思いの外、面白い。自分は他人から、こう見られているのか、と。


 そして次に、もっと気を引き締めていこう、と考えます。

 ははは。なにせ、自分が普通に観たことがあるのは、鏡の前に立っているときとか、撮影されているときとか、ある程度緊張状態にある自分の姿ばかりですからな。

 そういうときは人間、わりと取り繕っているものですが、一人でぼんやりコーヒーを飲んでいるときなどを一度ご覧ください。

 だらけきった顔をしているものですよ。実にこう、みっともない。こりゃいかん、と日常生活を改めました。

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