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査察団一行は、ルイス達皆が伯爵家以上の出身の貴族だったとしても、驚くほどの桁違いな豪華なローゼ家の接待に、一同は面食らってしまい、ため息しか出てこないくらい素晴らしいものだった。


♢♦♢


翌日、嫡子であるアンディ自ら馬に乗り、ローゼ領の執務館へ案内してくれるのを、ルイスやマチルダは少々気まずそうに落ち着かなかったが、ゼファーだけは「アンディ様って、男らしいですよね~。綺麗系も捨てがたいですが、お若いとまだ成熟されていない美しさがあって、良いですね~」などと邪な事を言い出して、マチルダに持っていた書類で頭を殴られた。


リリアナはただ呆れるばかりで、セフィールといい、アンディといい、どこまでストライクゾーンが広いんだろうと思ってしまった。


ゼファー本人は両刀を公言しているので、普通に褒め称えただけだろう。軽々しくローゼ公爵家の嫡子に手を出すとも思えないので、リリアナ的には、口で言うだけは無害である。ただし、アンディに聞こえなければ、というのは大前提なのだが…。



ローゼ領の文官たちが働いている執務館に入ると、座っていた者たちが席を立ち、一斉にアンディに頭を下げた。


「王都からいらした査察官の方々だ。ご覧になりたいといわれた書類は軍事機密以外はお見せして、説明が必要な個所については、担当者が速やかに対応してくれ」


「「「「「畏まりました!」」」」」


三十人程の文官が、一斉に返事をした。そして、アンディが一番の長である、領政官長にリリアナを引き合わせた。



「リリアナ様。副領主の直属の部下のライナスです」



リリアナと同じくらいの年齢のライナスは、リリアナとも面識があるが、アンディが敢えて紹介してくれたので、リリアナは「査察団代表のリリアナ・リクソールです。ライナス殿には色々とお世話になると思いますが、よろしくお願いします」と軽く頭を下げると、ライナスがその様子に慌てだした。


「リリアナ様!我々もこの度の査察については、監査室からの厳しいものと理解しております。もちろん、リリアナ様の手ごごろが加えられたのではないかと思われる様な事は、こちらも避けたいと考えておりますが、ローゼの姫君であられたリリアナ様が、私のようないち執政官に頭など下げられては、こちらの身がとてもではありませんが持ちません。それから、ライナスと普通にお呼びください」


「ライナス…殿」


リリアナは少し困った顔をしてしまった。ライナスの心情はわかるのだが、リリアナは仕事として来ている。ライナスへの呼び方については考慮の余地はあるが、立場としてはローゼ領側には不正がなくとも、国からの立場の是正を求めなくては成らない事が幾つか出てくれば、ローゼ領に不利益を強いなければならない。言うなれば両極の位置にいる関係なので、慕わし気な態度で接して来られると、リリアナの方も気まずくなってしまう。


どうするべきかとアンディに目を向けると、アンディはライナスに「リリアナ様は、今はローゼ家の身内のお立場ではない。査察官としておいでになるのだから、それに則って対応せよ」とだいぶ低い声で告げると、次期様の不興を買ってしまった事に気づいたライナスは「申し訳ありませんでした…」と深々と頭を下げた。


アンディが「副領主が不在のため、若輩ではありますが、私が領主代理を拝命しておりますので、リリアナ様達との折衝の最終権限を委譲されております。まず初めにローゼ領の書類と、国にお出しした書類に相違ない事を確認頂いて、それから査察官とこちら側のすり合わせになると存じます」とリリアナに向かって言った事で、ライナス以下他の執政官達もリリアナの苦しい立場を理解したようだった。


アンディがリリアナにしか聞こえない声で「先に言ってあったのですが、周知が徹底していなかったようですみませんでした。叔母上」と囁いた。リリアナは微笑んで軽く頭を振った。ライナス達にどんなに厳しく言っても、リリアナの黒髪に紫眼の容姿で頭など下げられたら、こういう反応に成ることは仕方のない事だった。



それからは、ルイスとマチルダで書類の照合をし、ゼファーは、隣国の輸出入管理の記録をチェックし始めた。ゼファーは、ある程度セフィールから指示を受けている。ルイス達と比べると、室長から特別指令が有るという事を公言しているので、リリアナの指示以外の事も常識的範囲でなら自由に動ける権限を今回は与えられている。


リリアナも査察団の代表クラスの地位にのぼる前は、よくこのゼファー的な位置を任されていた。各領では、おのおの派閥などの関係で、手が緩む事案が存在するし、そう周りから判断される事も多い。その時に、他の者達とは別の指令を室長から目星をつけて与えられて行動するので、そこの領の痛いところを突く嫌な役回りなのだが、中立派で身分が高く室長の信頼が厚い者が選ばれやすい。リリアナはこの面で、うってつけの人材であったので、セフィールの前の室長時代から重宝がられていた。


今は、リリアナが立場的に代表として行くことが多いので、この役回りはゼファーに移った。


ゼファーがライナスに隣国との輸出入の金額などを詳しく聞き取っているあたりを見ると、セフィールの狙いは、関税関係かその辺りの事かと、リリアナは僅かに眉を寄せた。


♢♦♢


隣国は昔は大きな国だったのだが、今はレンビィア国とは争って勝てる見込みが無い為、ローゼ領と協力関係を強化して、国を守っている。


ローゼ領も隣国が敵にならず、しかも自領にとても好意的である為、出来れば中央が戦争などを起こさないようにして欲しいと考えていた。それというのも、戦争になれば勝ったにしても被害は出るものだし、何よりも自領が戦地になる事を避けたい為だった。


だからこそローゼ家は、ずっと国の政治の中枢に関わり続けて、戦争をしたい者たちを牽制してきた。


それに隣国を手に入れても、手柄がローゼ家に集中する為、得をするのは王家とローゼ家周辺に集中することになるので、この点はランドール派閥も反対の姿勢を取っているので、小国でありながらも肥沃な土地である隣国が存在し続けられている理由でもあった。


♢♦♢


リリアナは、隣国との関係が悪くなる原因を作りたくない為、ライナスとゼファーの会話を読唇術でそっと盗み見た。


そうすると、二人がやたらとローゼの薔薇の値段について話していることが伺えた。


王都では、珍しい品種の薔薇を全てローゼの薔薇と呼び、花束で買おうとすれば、小さな宝石を買うのと同じくらいの金額がかかる。

庶民の間では、プロポーズをする時に一輪渡すのが主流になっている様だが、大体が貴族向けに売られている。値段が高すぎるせいだが、王都までローゼ領から運搬するのが非常に重労働な為だが、それでも王都での値段は多少上乗せして売っている。

ローゼの薔薇を他の薔薇との差別化を図って、貴族の見栄や虚栄心を満たす為に高い値段設定にし、その利益で潤沢な品種改良の資金源にもなって、更に貴重な新種の薔薇が生まれるといった好循環が成立していた。


この辺りは研究開発の費用もあるので、べらぼうな値段では無いが、不適当だと攻められると少々分が悪い。


この事は、ローゼ家の令嬢であったリリアナは勿論知っていたが、嗜好品を高くしても、庶民の暮らしに影響が出る訳でもないので、監査室にも今までは見過ごされてきた筈だった。


リリアナはルイスとマチルダの報告を聞きながら、ライナスとゼファーの方にも意識を向けた。


ライナスが困った様にアンディに相談に行き、アンディが苦い表情を浮かべたのが見えた。



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