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アンディの提案というか命令に対して、意外にもエミールが賛成した。


「流石、ローゼ家の若様は、考える事が僕達とは違うね」


褒めているのか、けなしているのかという言葉だが、表情が驚いたような、尊敬するような、そういう類いのものが見えるものだったので、純粋に本当に誉めているのだろう。


「ねえレティシア。僕達が考えていたのは、やはり小手先をどうにかするという考えだったけど、天辺(てっぺん)から、ものを見るアンディは、事の本質から変える考えなんだよ」


レティシアには、ただの我儘にしか聞こえなかったが、自分がどう動くのではなく、周りを動かそうとする考えはエミールのいう天辺ならではの考え方なのだろう。


王族では無いが、ローゼ公爵家の権力は王家を凌駕するものだったし、王家はローゼ家とランドール家に支えられている状態であるので、表舞台に出て来ないランドール本家に比べると、特に王都ではアンディよりも上にいる状態の人間は父親であるローゼ公爵リュークだけだった。


しかし、リュークよりも息子であるアンディの方が、よりローゼ家の人間らしい考えを持ち合わせていた。


これは元々の性格からではなく、リュークがアーデン侯爵家からローゼ公爵家に養子縁組で公爵位を継いだため、生まれながらにして次期公爵では無かったという事から由来していた。


「いくら次期公爵様がおっしゃる事でも、こんな非常識な事、うちの父様が許さないと思うわ」


レティシアが反論すると、エミールが「そこをクリアすれば、アンディとローゼ家がリクソール家を怖れていて何も出来ないと思われるというのを払拭できるよね?」と言った。


「それに、早々に婚約者を邸に迎える事で、女嫌いや男色疑惑も晴れるし、更にはレティシアを溺愛していると宣伝出来るよね?リクソール侯爵さえ攻略出来ればこれで全て解決だよ」


にっこりとレティシアに清々しく笑うエミールは、問題の解決がアンディの一言で可能な事に気が付いて、晴れやかな表情を見せた。


エミールにアンディの味方に付かれたレティシアは分が悪い。まさに多数決の原理で負けてしまっている。


レティシアは、とにかく母であるリリアナに相談したいと言って、アンディがリュークに話を通してしまわない様に念押しした。


エミールは本決まりでも無い事を、アーデンの家で話すような軽はずみな事はしないと信じているので、エミールには口止めはしなかった。


今日からは、リクソール家も大騒ぎになる事は必至なので、悪いがアンディとエミールにはご帰宅頂いた。


♢♦♢


「お母様!アンディが今すぐにローゼ家に入れって言って来たのです。どういたしましょう!?」


リリアナの部屋に駆け込み、挨拶もせずにレティシアが本題をいきなり告げると、リリアナはレティシアに対して「まずは、何故そういうことに話が成ったのか、経緯を話しなさい」と言って、レティシアを長椅子に座らせてから「少しは落ち着きなさいな」と背中を軽く撫でた。


レティシアは、アンディが潔癖過ぎて、色々と問題が出て来るのではないかと危惧したので、エミールと相談してどうにか対策を練っていたところにアンディがやって来たので、二人でローゼの若様としての振る舞いを考えて欲しいと説得していたが、アンディがレティシアを家に迎え入れる事で、問題を全て解決させようとしているのだと説明した。


「それは不味いわね…」


リリアナも困った顔を見せた。理屈としては通っているが、超えなくてはいけないハードルが高過ぎるからだった。


「お父様は絶対に反対されるでしょうから、アンディにはリューク伯父様にはまだ話を持って行かないようには言って置いたのですが、このまま無かった事にも出来ません」


「そうね。でもセフィールさえ押さえ込めたら、ローゼ家にとってもリクソール家にとっても体面が保てるいいアイデアだとは思うわ。うちもアンディの素行に対して、レティシアを蔑ろにされては、いくら結婚前だとしても良い顔は出来ないわ。勿論ローゼ家側から考えたら、今のアンディを放置というのも良くないと貴女が考えるのは流石だとは思うけれどね」


リリアナも一点を除いては、アンディの案はかなり良いのではないかという見解を示した。


「ただ私にもセフィールを説得出来ないから、ローゼ家から正式に申し入れて貰って、それから揉めるのを宥めて収束させる方に努力しましょうか」


「ローゼ家とリクソール家が揉めるのが前提のお話で良いのですか!?」


レティシアの声が裏返りそうになるが、リリアナは「諦めが肝心…っじゃなくて、ほら!当たればどうにかなるかもしれないじゃない?それに言い出したアンディとリューク兄様とでローゼ家の為に頑張って貰って、私達はその、…フォローをするしかないと思うわ」


いつもは、はっきり過ぎる程の物言いをするリリアナがこれほどまでに言い淀むという事は、大惨事も予想されるという事なので、レティシアもリリアナに対して少し向こうに投げすぎな気はしないでもないが、リリアナもレティシアと反対で実家と婚家との間で板挟みなのだろうと思う。


とにかく、レティシアの父がどういう態度に出ようとも、ローゼ家が何とかすべきであるとリリアナは諦めの境地に至ったようだったが、レティシアはこれから嫁ぐ家に対して、父がとんでもないことをしでかす事が容易に予想出来てしまって、この結論にただただ重たい溜息を吐いた。


♢♦♢


そうして何度かリリアナがローゼ家に行って色々な話し合いがなされた。


主に、ローゼ公爵夫妻とリリアナの話し合いである。アンディにはあらかじめ覚悟のほどを皆で確認して、本人は自らの考えを変えるつもりが無い事と、リクソール侯爵が自分やローゼ家に怒りを向けようとも、溺愛するレティシアの嫁ぎ先の屋台骨が揺らぐような事まではしないだろうと私見を述べた。


リリアナは甥をなかなか賢い子だと思うが、しかし、セフィールのどうしようもない突拍子の無い性格を把握しきれていないから来る考えだとも同時に思う。


ローゼ公爵夫妻もリリアナと同じ考えの様で、アンディの夜会での振る舞いについての改善(かいあく)について勧めだした。


「父上や母上まで何を仰るのです!?だいたい、レティシアが私に女性を勧めて来た事自体、とても私を馬鹿にした話です。例えローゼ家の為を思おうが、私を慕わしく思っていなかろうが、あまりにも酷い話です」


レティシアの言葉は、ローゼの若様のプライドを著しく傷つけてしまったらしい。リリアナもそれについては情緒の欠片も無い娘で申し訳なく思うが、レティシアはセフィールに似てとても賢い娘なので、未来のローゼ公爵夫人として必要だと思う行動を取ったに過ぎない。


ただアンディの誇り高さも、ローゼ家の令嬢として育ったリリアナにとっては、馴染み深いものでもあった。


頂点のどこの家にも屈さない家柄でありながら、国の事や王族の事、そして派閥の事なども考慮にいれて行動しなくてはならないが、それでもローゼ家の者として他家に侮られるような態度を取るなと叩きこまれた教えは、今もリリアナの中にも残っている。


嫡子たるアンディが、リリアナよりもそれを体現して生きているのを見るのは、何だかとても眩しく映った。


リクソール侯爵がいくら怖ろしい存在だと言われていようが、レティシアの父や未来の舅としての敬意以上のものを払うつもりが無いのだろう。更に、他者の目を気にして、自らの信念を曲げる気も無いという傲慢さも垣間見える。


上に立つ人間は、傲慢さと謙虚さを合わせ持たなければやって行けないとリリアナは思っているので、これから先、成長して謙虚な部分も見えて来ればと思う。


リリアナはリュークに「ローゼ家から正式な要請をお願い致します」と言い、リリアナは折れるつもりの無いアンディを支持する姿勢を示した。


「しかし、セフィール殿が報復に出て来ることは間違いないのだぞ!ただでさえ早い結婚に最近は難色を示されているのを、一年近く前からの嫁入り修業で家に入るなど認めるとは到底思えない」


リュークが苦虫を嚙み潰したような顔で言うと、リリアナがほんの少し活路を見出した。


「レティシアがローゼ家に嫁入り同然ともなれば、ジュリアン殿下の件で、陛下が流石に諦めて、シャルロット妃が勧めるクロフォード侯爵家のミリアリア様との婚約の件が動き出す筈です。この事はセフィールも気を揉んでいますので、色々な事が一気に解決出来るとなれば、多少は気持ちが揺れると思うのです!」


「だがしかし報復は免れないとは思うが、リリアナはどう思う?」


「それは、当然有ると考えていますが、アンディが言う様に家を揺るがす程の事はしないだろうと思いますし、得られるものの方が多いと考えます。もちろんのこと私やレティシアは全力でフォローに入ります。確かにセフィールと真っ向勝負は避けたいですが、流石のセフィールも、私の実家でありレティシアが嫁ぐローゼ家に対して、潰すような嫌がらせはしないだろうと…多分思います」


「…そうだな。リクソール家とはいえ、真っ向からローゼ家に喧嘩を売っては来られないだろうからな。私も覚悟を決めよう。アンディの事も、レティシアと一緒に暮らす事で、多少は良い方に関係が育まれればよいのだがな」


こうしてローゼ家からの要請の書簡は、正式にリクソール家に運ばれる事になった。

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