27
アンディとエミール、そしてコンラッドは十六歳になり、社交界に一人で出る様になった。
女性と違い、王宮でデビュタントとしてお披露目がある訳ではなく、成人したので、王宮の舞踏会にも単身で行ける様になったというのと、アルコール類が飲めるようになった。
三人とも揃って婚約者が成人していない為、エスコートをする女性を頼まれない限りは同伴しない事が多い。
そうすると大体の挨拶回りが終わると、三人で休むというのが最近の定番になって来た。
「今日もアンディは、男女問わず繋がりを持ちたい貴族が押し寄せて大変だったな」
「それはアンディはローゼ派の次期頭領だし、公爵の伯父上は宰相として王に着いておられるから、今からでも少しでも覚えを良くして置きたい方々は大勢いるでしょう?」
コンラッドとエミールでアンディに寄って来る人の多さに、少し離れて避難していて落ち着いた頃を見計らって雑談に入った。
アンディは、人波が押し寄せた途端に見放す二人の従兄弟に対して、呆れと諦めを含んだ目線を向けた。
「俺はもう少し二人が傍にいてくれれば、気分的に楽なんだが、我が従兄弟達は本当に冷たいな。来年になればレティシアが一緒に来られる様になるから、来年がもう待ち遠しくなって来るな」
最初の頃はエミールやコンラッドも付き合っていたが、公爵家子息のアンディと、侯爵家子息のエミールと、伯爵家子息のコンラッドでは立ち位置が違う為、挨拶に来る爵位持ちの貴族達も、あからさまに対応を変える訳にも行かないが、アンディ以外は実質は身分的には下になる二人にも気を遣うため(家の事情もあるが)少々面白く無さそうな顔をされてしまう。
エミール達もそれ自体は相手の気持ちも分かる面もあるので、皆が認める特別な存在であるアンディとは、爵位持ちの人達の挨拶がひと段落するまで別行動で過ごす。それに自分達にも自分達の社交があるためだ。
エミールとコンラッドも、婚約者がモーヴァンとルドゥーテの令嬢に決まった事もあって、二人に寄って来る人達も、モーヴァン寄りかルドゥーテ寄りかという差も出て来るので、やはり別行動になってしまう。
三人でいると令嬢方が寄って来るが、三人とも有力な侯爵家息女と婚約している事もあって、一人でいる時に比べれば、遠巻きにちらちらと見られて秋波を送られるくらいで済む。
「来年はジュリアン殿下が成人なさるから、ここにジュリアン殿下が混ざるとなると、それはそれで中々にカオスな関係だよな」
コンラッドがそう言うと、アンディは来年は来年で大変な事も増えるのかと、少し嫌な顔をした。
アンディとコンラッドはオルグレン伯爵ドミニクとアンディの母のローレンシアが兄妹の為、血の繋がりが有り、エミールとは父親同士が兄弟だ。そしてエミールはジュリアン殿下と母親同士が姉妹だという王族まで入る従兄弟関係である。
子供同士の集まりなどの時分から、血の繋がりと歳の近さもあって割合親しくして来た為、ジュリアン殿下がこの仲間に加わるのは、ほぼ決定事項だと言えた。
「だが、来年からは、俺もエミールも婚約者を伴う様になるから、コンラッドだけ寂しい思いをするかもしれないぞ」
「そうかもな。テレサは、もう一年デビューがレティシア嬢やセレーネ嬢よりも遅いからな」
コンラッドがテレサ嬢をテレサと呼びすてたことにアンディとエミールが驚いた顔を見せた。
「コンラッド殿は、テレサ嬢と、もうかなり打ち解けているんだね」
「エミール殿はセレーネ嬢とうまく行っていない訳じゃないよね?たしか元々セレーネ嬢は、エミール殿の熱烈な信奉者だったよな」
その辺は事実と違う部分もあるのだが、エミールはセレーネの本音をそのままコンラッドに話す訳にも行かないので、曖昧に微笑んだ。
「だけど、セレーネ嬢の事、もう少しフォローしてあげた方が良いかもしれない。テレサが言っていたんだけど、今はやっかみが凄いらしい。セレーネ嬢もうまくいなしているけど、いかんせん数が多過ぎると言っていた。テレサも個人的には庇いたいけど、あそこは家同士が関係が難しくて無理っぽいんだよ」
コンラッドからの情報に、アンディが「レティシアが着いているから大事にはならないだろう」とエミールが打開策を口にする前に割って入ってきた。
「レティシアが言うには、エミールと婚約した令嬢だったら当然起こり得ることなんだから、多少は仕方が無いっていうんだよ。それに女同士の争いに男が入ると泥沼だから、エミールが助けに入らない方が良いだろうと言っていた」
エミールも心配はしていたが、婚約披露のパーティーで大々的に派手なパフォーマンスをしたのだから、エミール派だと言われていた令嬢も、ジュリアン殿下に鞍替えするのではないかと思っていたが、ことはそう甘くは行かないらしい。
「女の子って時々得にもならないだろうに、面倒な事をしてくれるよね」
疲れた表情でエミールが愚痴ると、アンディとコンラッドは「本当だよな」と深く同意した。
エミールも裏で出来るかぎりの打開策を打とうと考えた。当初のアンディに浮名を流させる計画よりも、自身の足元を見る必要性が出て来た。
しかし「アンディは潔癖な事を言ってないで、次期ローゼ公なのだから、寄って来るご令嬢方を邪険にしないで、少し話してみたらどうかな?」と言うと、アンディに露骨に嫌な顔をされた。
コンラッドも笑って「遊べるのも今の内だろう?」とエミールに同調したが、アンディは「来年にはレティシアと結婚するのに、遊ぶ必要性を感じない」と切って捨てた。
エミールは仕方が無く、レティシアが言っていた、リクソール家に怖れをなしていると思われては、ローゼ家の名折れだと言うと、アンディは「実際に怖いのだから、わざわざ未来の舅殿を怒らせるようなことをする必要があるのだろうか」と考え込んだ。
アンディも女を知らない訳では無いが、それは貴族の家の子と生まれた以上は、たしなみとして高級娼館に何度か行ったが、金銭で割り切った玄人と、舞踏会や夜会で誘いをかけてくる女性達と同じようには考えられなかった。
「だいたい、エミールやコンラッドだって、今迄女性の誘いに乗ったことなどないだろう?」
「いや、俺は何回かはある。アンディやエミール殿みたいには、声を掛けられるわけじゃないが、親父から、婚約前に遊んでおけって言われてたから、長めに続いたのは一人だけだけど、一夜限りは両手には届かないくらいは社交界に出る前にはあった。今はテレサが泣くと嫌だから、全く無いけどな」
「伯父上は裁判部署の官吏だろう!?息子に何教えてんだよ!」
アンディは驚いて口調が荒くなってしまうが、エミールもその教えには驚いた。特にオルグレン伯爵は常識人だと認識していたので、エミールの父親のレイモンドだったら言いそうな事だと思うが、人は見かけによらないものだと思う。しかし、そう考えると、リュークがアンディにその様なアドヴァイスをするとは、とても思えない。しかもリュークも溺愛するレティシアという姪と婚約しているのだから、尚更である。
レティシアがローゼ家の事を考えてくれていても、ローゼ家の皆からすると、レティシアを悲しませる様な事をする事自体、万死に値すると思っていそうだとエミールも遅ればせながら気が付いた。
「エミール殿だってあるよな?あれだけ声を掛けられれば、覚えていないくらいあっても不思議じゃない」
アンディの冷たい視線に耐えかねたのか、コンラッドがエミールに賛同を求めて来た。エミールは政略結婚しなくてはならないご令嬢に、結婚前の思い出が欲しいと泣かれてしまって、何度かは一夜限りの関係を持った事はあるが、遊びではなく純粋に同情心からであったので、ここで同意するのに抵抗はあったが、それでも「そうだね」と軽い口調で答えると、アンディの驚愕した表情が見えた。




