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本日二話目です。

レティシアは婚約者のアンディのご機嫌伺いにローゼ家に顔を出した。


まずは公爵であるレテシィアが憧れるリュークに挨拶してから、公爵夫人のローレンシアにオルグレンの次期様の婚約にお祝いの言葉を述べた。


アンディの部屋へ移動すると、レティシアは「ルドゥーテ侯爵はメルヴィナ様を見捨てたみたいね」と暗い声で言うと「そうだな」とアンディの顔も沈んだものとなった。


「だが、メルヴィナ嬢は主家からの話を受け入れなかったのだから、侯爵が見限るのも分からないでもない」


「でも、まだ十四の令嬢が親から見限られたとなると、修道院に行く他なくなるでしょう?自ら望んで静謐な暮らしになるのならともかく、今回の事は私にも責任があるから心が痛むのよ」


レティシアが罪悪感に苛まれるのは、ルドゥーテ侯爵家を追い込むことなると分かっていて動いた結果だったが、気が咎めるくらいなら最初からしなければ良かっただろうとはアンディも思ってはいない。


レティシアは結果的にルドゥーテ侯爵家の不利益になってしまう事をしただけで、目的はエミールの為と、ひいてはローゼ公爵家の事を考えての行動だった。


「うちからオルグレンに頼もうと提案したのは俺だ。うちからは、父上がルドゥーテ侯爵家の令嬢と婚約して欲しいと伯父上に言ったらしいが、オルグレンの伯父上は元々テレサ嬢が良かったらしくて、わざとどちらの令嬢という事を明確にせずに話を持って行った。話はメルヴィナ嬢に先に行っただろうから、大人しくオルグレン家に嫁げばこんな事にはならなかった。メルヴィナ嬢は長女の嫁ぎ先が決まっていないのに、次女が婚約する意味すら分かっていないのだから、救いようがない」


「そうね。貴族の令嬢としては致命的な欠陥があると見られるという観念が御有りにならなかったのですものね」


「俺もミゲルが公爵家を継いでくれれば、面倒な事は全て任せてローゼ領の軍事に携われると思っていたから、気持ちは分かる部分もある。要は、考えが甘いのが悪いんだよ」


少し語尾が乱暴な言い方になったのは、アンディも提案した人間として後味の悪い結果になってしまったからだろう。


アンディは「それでも、ともかくルドゥーテ侯爵家自体はこれで持ち直すだろうから、ローゼ家としては正しい事をしたと思いたい」と言った。


「オルグレン伯爵って、温厚な方だと思ってきたけど、うちの父様よりも狸よね。今回の事で少し怖くなってしまったわ」


レティシアが腕を擦ると、アンディは官吏の仕事ぶりから見ても、食えない人物だろうと、血縁ながら思っていた。リクソール侯爵と幼馴染らしいのに、レティシアはあまりオルグレン家の事に明るくなかった。


リクソール侯爵は、一時期オルグレン家と断絶していた事を気にしているのか、妻のリリアナの実家に嫁いで来たローレンシアの後ろ盾となり、その実家のオルグレン家とも血縁関係は無いものの、親戚という付き合いをしている。


これは、ローゼ公爵家に嫁ぐにしては、ローレンシアの実家の力がその当時は足りなかったという事情で、ローレンシアが他家から攻撃されない為に、縁談を持って来たリクソール侯爵がローレンシアを攻撃した者はリクソール家の敵であると暗に示した。


その結果としてローレンシアは難なくローゼ家に嫁入りができて、オルグレン家の地位もローゼ家とリクソール家が味方の伯爵家として、元々手堅いと評判の良い領政を行っていた事も手伝って、領も家もかなりの部分で力を付けた。


これにはリリアナも、セフィールのオルグレン家やローレンシアへの親身になり方に、驚くほどだったのだが、レティシアも、血縁で無いのに父が親戚扱いするのは、父親の性格をよく知る立場からすれば奇妙に映った。


だが、オルグレン家の人達はくせのない善良な人達だと思っていたのだが、貴族家の当主が善良なだけで領を上手く治められるはずもない。


オルグレン伯爵が、意図的にメルヴィナを嫡子の嫁に迎い入れない方法を取ったのは、為政者の立場としては当然の事だったのだろうとレティシアにも分かる。


それに、素直にメルヴィナが嫁いで来るようならば、受け入れる気があったのかも知れないとも思う。テレサに決めたのは最終的にはルドゥーテ侯爵だからだ。


しかし、レティシアには、オルグレン伯爵がこの結果を予測して動いたのだろうと確信してしまう何かがあった。

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