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「エミール。婚約おめでとう!」


アーデン家の邸にやって来たレティシアが満面の笑みで祝福すると、エミールは苦笑して「レティシアが仕組んだ事だろう?」と言った。


「なあに?セレーネ様ではご不満なのかしら?私のお友達の中では、群を抜いて見た目良し性格良しで、その上頭の回転もばっちりの文句の付けようのないご令嬢なのよ!」


少しわざと膨らませたレティシアの頬を、エミールは人差し指で軽く押して空気を抜いた。


「……レティシアがリクソール家を動かしてくれた事、アーデン家とモーヴァン両家は、とても感謝しているよ。本当にありがとう」


「お父様が私の為だけに動くとも思えないのだけど、そう思って貰った方が、多分うちにとっても都合が良いのだろうと思うわ」


エミールは笑って「レティシアはリクソール侯爵がレティシアの為だけに動いたとは思っていないのか」と呟いた。


エミールもその辺は半々くらいには思っているが、リクソール夫妻は、今回は実利よりも情の方に天秤が傾いたのではないかと考えていた。


レティシアの為とはいっても、アーデン家に嫁いで来るのがメルヴィナだったにしても、レティシアはたいして困らなかっただろうから、レティシアがエミールを気遣っている気持ちを汲んで、モーヴァンを立て直し、アーデンに肩入れしたのだろうとエミールは見ていた。


「うちの、リクソール家の思惑は置いておくとして、セレーネ様はアーデン家との相性は良いと思うわ。セレーネ様自身もエミールに好意が有るのは調査済みだしね」


「リクソール家の諜報機関の調べならば確かだろうけど、セレーネ嬢は、あまり積極的に僕に寄って来ないイメージだったんだけどな」


「そうねぇ。セレーネ様は聡い方だから、メルヴィナ様とエミールが婚約した時の事を考えてらしたのだと思うわ。余りにもアピールしてたりするとメルヴィナ様と不仲になる怖れもあるし、ご自分の縁談にも差し障りが出て来る可能性があるものね」


エミールは成程と頷いた。エミールに寄ってくるご令嬢は多かったが、セレーネは自身がエミールに嫁げる可能性はあまりないとみて、エミールに分かる程の好意を示さなかったのかと考えると、流石才女と名高いだけの事はあると思った。


だが、レティシアは知っていた様なので、以前自分にも探りを入れて来た様にして情報を入手したのか、はたまた本当に親しくて打ち明けられたのかは不明だが、セレーネがエミール自身に好意を持ってくれていたのは意外だった。


家同士の政略結婚とはいえ、本人同士がうまく行っていなければ、同盟関係が揺るぎないものになるとは言い難い。エミールはメルヴィナは自分に興味が有る事は隠していなかった為、婚約しても相手の意に添わないという事態は避けられると考えていたが、セレーネはモーヴァンの為にエミールと婚約するとなると、少々厄介だと思っていたのだが杞憂の様だった。


元々、リクソール夫妻がこの話を持ってきた時点で、セレーネ嬢に恋人や想い人などはいないのだろうとは分かっていたが、このランドールの血筋の見た目を気に入ってくれただけだとしても、エミールに恋情を向けてくれているらしいというのは、幸運な事だと思った。


「それで、エミールはセレーネ様の事はどう思っているの?」


期待を込めた眼差しでレティシアがエミールを見てくるが、期待に応えられる様な答えを持ち合わせていない。エミールがどうしたものかと悩んで言い淀むと、レティシアは「もしかして他に好きな人がいたりしたなんて言わないわよね!?」と悲しそうにレイモンドと同じ様な事を言い出して騒ぎ始めたので、エミールは「そんな人はいないから心配しないで。セレーネ嬢とは今迄あちらもだけど此方も結婚する事になるとは考えていなかったから、あまりよく性格まではよく分からないけれど可愛らしいご令嬢だとは思っているし、レティシアの言った噂はよく耳にするからきっと聡明な方なんだろうね」と言ってレティシアを宥めた。


「そうなのよ。セレーネ様は生まれた時から侯爵令嬢と言う訳ではないから、少々控えめな所が有るけど、その分、周りをよく見ていらして、私と同じ歳とは思えない位大人な方なのよ」


ブライアンが侯爵位を継ぐ筈ではなかった訳だから、ある程度の年齢までは次期侯爵の姪という立ち位置だったのかと思うと、今の立場は恵まれているとはいえ、セレーネにとっては苦労も一緒に付いて来た事だろう。この辺りがレティシアが同じ歳なのに大人だと思う遠因なのだと推測されるが、貴族の子女でレティシアと同じ歳の者が多い事に気付いていたが、メルヴィナも確か同じ歳の筈だった。


これは偶然ではなく、リュークが結婚した為に起きたある種の雪崩現象の結果だった。


エミールの伯父であるローゼ公爵のリュークは、二十三歳まで婚約者がおらず、しかもご令嬢方に非常に人気があった。そして前公爵のサイラスが特に有力な家でもなかった伯爵家の令嬢だったエカテリーナと恋愛結婚をした為に、身分が釣り合わない家でもローゼ家のリュークと結婚できるのではないかと夢見る者が続出した。


そしてリュークの婚約がリクソール侯爵によって調えられた途端、リュークを想って婚約を見送って来た令嬢達が結婚適齢期であった為に雪崩の様に婚約が決まり、結婚ラッシュとなり、アンディは婚約中の懐妊だった為、エミールよりもほんの少し先に生まれたが、ほとんどの家がアンディよりも一つ下の子供が出来る結果になった。


エミールは、いつもリリアナとレイモンドのリューク讃辞を聞かされていたが、話半分か三分の一程度に思って来たが、年齢が高く成るにつれ、貴族家の子供の年齢分布にまで関わって来るリュークを、優しい伯父から、とんでもない人に変換されつつあった。社交界におけるローゼ家の地位の高さは言うまでもないが、リューク自身の影響力が色んな意味でとんでもなく凄まじい。


リュークの影響でレティシアと同じ歳の貴族家の子息や令嬢が多いので、丁度そろそろ婚約を考えても良いのではないかという年齢になり始めて来た。


エミールもセレーネと婚約した事で、ベビーブーム世代の婚約の代表格となるだろう。


高位のエミールとセレーネ、それに年齢は下ではあるが次期モーヴァンを継ぐと目されるセレーネの弟のシーザリオが嫡流の娘と婚約した事で、この先婚約する家を模索する家がグンと増えるだろう。


上位の貴族家の婚約が決まると、リュークの時の様な雪崩現象が起こるのだ。


リクソールがアーデンとモーヴァンに付いた事で、ルドゥーテ侯爵家の婚姻問題は暗礁に乗り上げていて、ルドゥーテ侯爵ばかりでなく、ローゼ本家も頭を痛めているだろう。以前アンディには助力を乞われて突っぱねてしまったが、レティシアの動きでアンディの懸念が現実のものとなった。


アンディには悪いが、アーデン家はルドゥーテが落ちぶれても全く構わないと考えているので、そこは主家のローゼ家とは決定的に考え方と立場が異なる。


レティシアもそれは分かっていながら、エミール側に立ったのだから、ローゼ家のお手並み拝見とでも思っているのか、リクソール側がルドゥーテを潰してしまう気で居るのかは不明だが、取り敢えずは自家が良い位置取りが出来た事にエミールは安堵の溜め息を吐いた。


そして今迄あまり接点の無かった婚約者のセレーネが、どんな人物なのか楽しみに思えて来た。




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