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エミール・アーデンとセレーネ・モーヴァンの婚約は、瞬く間に社交界に知れ渡った。


話を広めているのは、アーデン、モーヴァンの両家とリクソール侯爵夫妻だった。


「アーデンも、うちを馬鹿にしおって!!」


そう憤慨しているのは、当然アーデン家から縁組の申し込みがあると疑っていなかったルドゥーテ侯爵だった。


元々、ランドール公爵の血筋のエミールの事は嫌ってはいたが、アーデン家に娘を嫁がせる心積もりではいた。


「その上、モーヴァンも嫡流の娘を嫁に迎い入れるなど、リクソール侯爵夫妻の差し金か!?」


「その様ですわ。リリアナ様は、現モーヴァン侯爵を支持なさると、ローゼ派の夫人方の間では認識されてしまったようです…」


ルドゥーテ侯爵夫人であるナディアは、茶会で聞き及んだ内容を夫である侯爵に告げて肩を落とした。


今現在の社交界の女性の最高位は王妃様だが、それはリクソール侯爵夫人リリアナがエインズワース伯爵家の夫人シュザンヌと共に支えているからに他ならない。


その位リクソール侯爵家の力が大きく、寛容で泰然としたローゼ公爵家よりも不興を買った際の報復が怖ろしいと、他の貴族家から要注意と見られている。


そのリクソール家から敵視されてしまったとも取れるルドゥーテ侯爵家は、窮地に追い込まれていた。


「これでは、メルヴィナもテレサも嫁ぎ先が無くなってしまいますわ」


ナディアがそう嘆くのも無理もない事だった。今迄ならば、ローゼ家の中で三番目の侯爵家だろうが、侯爵家自体が希少な存在の上、ルドゥーテ侯爵領もローゼ派閥の中では豊かな領で有る為、引く手数多であった娘達が、リクソール家に敵意を向けられたと見られた途端、同じ派閥の伯爵家ですら表立っては避けないものの、下の娘に申し込んで来ていた縁談を取り下げて来たのだ。


リクソール侯爵夫人であるリリアナは、前ローゼ公爵の一人娘だった事もあって、ローゼ派閥の中では、リリアナは今でも主家のお嬢様だと見る者も多く存在する。また、レテシィアがローゼ家の嫡子のアンディと婚約していて結婚が近いという事も大きく影響していた。


「貴方がレティシア様の不興を買う様な事をなさるから…私はあれ程御止めしましたのに」


「私はランドールの血を受け継ぐ者が気に食わなかっただけで、レティシア嬢には何もしていない。だが、レティシア嬢を怒らせてしまったのは確かだ。こうしてリクソール家の敵と見做されて、他家から距離を置かれてしまったのだからな」


「リクソール家は主家ではありませんが、ローゼ家のご令嬢であったリリアナ様が現侯爵夫人で、未来のローゼ公爵夫人の立場を約束された令嬢のレティシア様がいらっしゃるのです。このままでは、ローゼ一門でルドゥーテ侯爵家は立場を失ってしまいます」


ナディアがそう言うまでも無く侯爵も焦っていた。アーデン家とモーヴァン家が致命的に弱って来ていたので、ルドゥーテ侯爵は、ここは二家を追い落とす好機とじわじわと攻撃して来た。


アーデン家は、こちらの娘を嫁がすにあたって、ランドールの血の嫡子に嫁がすからには、こちら側の優勢を内外にアピールする為に、彼方(あちら)からの申し込みを待ったし、跡取りを非常識な決め方をして非難されていたモーヴァン侯爵家のブライアンに対して、ルドゥーテ侯爵も最低限にしかブライアンを尊重しない態度を取った。


他のローゼ派の伯爵家も、段々とルドゥーテ侯爵を担ぐ家が増え始め、今はアーデンもモーヴァンもローゼ家の親族な為、何とか凌いで居たが、ルドゥーテ侯爵家が上の立場に立つのは時間の問題の筈だった。


ルドゥーテ侯爵は、エミールに対して舅かぜを吹かせた程度で、リクソール家が本気でローゼ家の門下筋の侯爵家を目の敵にするとは思わなかった。


確かにリリアナやレティシアとエミールは親族では有るが、もう随分と血が遠い。


それにリクソール家は中立派で、クロフォード侯爵家と縁を深めていた為に、アーデン侯爵家の為にこれ程あからさまに親身な態度を取るとは夢にも思わなかった。


リクソール家はローゼ門下家の争いには、あまり関わりたく無いという思いが有るのは透けて見えていた。ローゼ家と同盟関係に在るが、中立派という立場を取る以上は、リクソール家としてはローゼ門下家のゴタゴタには巻き込まれたくないというのが本音だろう。


しかし、ローゼ家の嫡子のアンディとの不仲が解消されるやいなや、レティシアがアーデン家に肩入れした事でリクソール家が動いて、モーヴァン家の立て直しとアーデン家との連携を図ったのだろう。


そこまでしてもリクソール家に得が見えない以上、本当にレティシアの為だけに動いたのだろうと思うと、実力主義のリクソール侯爵とも思えない行動に、ルドゥーテ侯爵は驚きと読み間違えてしまった自分への失望と後悔で一杯になってしまった。


これからどの様に身を振るかによって、ルドゥーテ侯爵家が生き延びられるかの瀬戸際に、一人の少女によって立たされていた。

この回はもう少し直す事になるかもしれません。主筋には変更は無いので、読み直さなくても大丈夫です。

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