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本性を隠せない獣は  作者: 桜月


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4/4

心に注ぐのは「愛情」という栄養

短いですが。

 その後、なにもなかったかのように振る舞うヤギさんに、私は近寄らなかった。


 ()けて()けて離れて隠れて逃げた。


 そうしたら、なぜか本気で追いかけられた。

 なんなの。なにがしたいの。


 1度やっただけの女に彼女面されたくないんでしょ。忘れたいんでしょ? ならばと離れたのに、私から離れるのはおもしろくないとでも? 自分が捨てなきゃ満足しないの?


 ならばどうぞと待っていたというのに。

 待って待って待って。待てども待てども待てども! 捨てる気配すらないのはなぜに?


 逆に彼女扱いか、と突っ込みたくなる態度に訳がわからなくなった。不信、不満、不安、ごちゃまぜになった私の恋心は固まった。凍ったようにカチカチになった。溶ける気配はない。溶かす気もない。


「なにがしたいのかわからない相手に揺さぶられる感情は持ち合わせてないので」


 真っ直ぐ、目を見た。この人の瞳は感情豊かだ。だから話さなくてもわかってもらえることも多いんだろう。だけど、言葉にしない気持ちはそれが本当かどうかなんてわからない。信用も信頼も、今のヤギさんには持てない。あ、仕事は別。


「……」

「……」

「…………」

「…………」


 ……マウントポジションという上位のまま、私の上でオーアールゼットはやめてもらえませんかね。やっちまった、な顔面蒼白とか見せられても誰得かわからないし。


 出会いから失恋までの、長い想い出を切って切ってつないだ私の話を聞いたヤギさんは、わかりやすく項垂れた。てか、その下にいる私には丸見えだがな。


「ヤる予定もなかった相手にヤっちゃって動揺したのはわかるけど、それならなおさらほっておいてほしかったけどね」


 いい加減飽きたので、ずりずりと下から這い出てみた。ソファーとは本来座るものである。そこで四つん這いで項垂れるイケメン。……シュールだわー。


「……う」


 機能停止していたイケメンが動いた。ギシギシ軋みそうな動きで顔をあげたヤギさんは泣きそうだった。


「違うよ、そら」

「なにも違いません。今からでも名前呼びを改めるべきかと」


 そして私は早急に引っ越すべきだ。今度こそ、距離をおこう。そのためならば転職も致し方ないな。


「改めない。そらはそらだ。それに、ヤり捨てにしようとしたんじゃない。あんな勢いだけの売り言葉に買い言葉みたいな始まりじゃなくて。ちゃんと相思相愛になってからがよかったんだ」

「…………それ、いかにも君が好きだから大切にしたかったのに、みたいに聞こえるけど、実際は言い訳にしか聞こえないからね?」

「……!?」


 なんていうか、おバカだなぁと思う。勢いでヤっちゃうほど好きなんだとか言われてたら、あの時は落ちたかもしれない。言い訳にしか聞こえない今のぐだぐだな心境聞かされても困るのは私だけだ。もちろん現在進行形で困ってはいるけど。



「そら」

「はい」


 ソファーからおりて私の前で正座したヤギさんは、それはそれはキレイな土下座を披露した。正直ドン引きした。






 その後どうなったかというとだね。


 あのチャラ男は田舎に左遷された。その理由が理由だというのに、また同じことをやらかし彼女の一人に刺されたと聞いた。同情はしなかった。


 あれは死ぬまで繰り返す男だ。


 そんな下半身ユルユル脳みそカラカラなチャラ男は、多分この街には戻ってはこれないだろう。彼は、うちの社のお姉さま方のタテヨコナナメな乙女ネットワークによって、ブラックリストに殿堂入りを果たしたそうだ。この街であれに落ちる乙女はいないと、高笑いつきで説明された。同情はしなかった。後、お姉さまカッコいい。弟子入りしたい。ヤギさんに止められたけど。ちっ。



 ヘタレ腹黒であるところの、ヤギさんの弟くんにはこないだ初対面を果たした。ほのぼの突っ込みタイプの奥さんはかわいい人でした。妊婦さんだそうで、どっちに似るのか足して割るのかどっち!? と、どうでもいいことを考えた私は少し動揺していたのかもしれない。



 あの日、華麗なる土下座を披露したヤギさんは、そのままでつらつらとしゃべりだした。


「今までごめんなさい。そんな風に勘違いしてたことにも気づかなかった俺は大馬鹿者です」


 反省は美点だ。多分。


「なかったことにしようとした俺をそらが許してくれるまで待ちます。やり直すとか今は考えません。そらが許してくれたら、そこから始めさせてください」


 私が許さないとかいう選択肢はないのか。ないだろうな。うん、知ってた。そして、許してないなら一緒にはいないだろうことがわかる程度には自分を知ってるのだ、私は。嫌ならなにをしてでも物理的に離れるからね。


「俺はそらが好きです」


 だから、まぁ、その、なんだ。うん。


 許しを得たヤギさんが今度こそヘタレを脱却し、本気で私を落としにかかるのも時間の問題なわけだ。


 ハッピーエンドかどうかは、神のみぞ知る事実である。




読んでいただきありがとうございました。

またどこかで読んでいただければこれ幸いです。

では。

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