おねーさんと遊ぼう(2)
『王様だーれだっ⁉︎』
その場に居る全員で唱和した。すると、日和おねーさんがすっくと立ち上がり、「わたしだわたしだわたしだよーっ!」と声高らかに叫んだ。どうやら、最初の王様は日和おねーさんらしいーー正直、咲良以外の王様は何をしでかすかわからないので、初っ端から構えてしまう。
おねーさんは考え込むような顔つきで僕たちを眺め回している。
王様ゲームの基本的なルールとして、王様ではないメンバーが持っている番号は持ち主以外の全員に伏せられるため、当然彼女がいくら眺め回したところで、僕たちが持っている番号はわからないはずだ。わかっていて狙われたら溜まったものじゃない。
「よしっ、決めた」
おねーさんは下す命令を決めた。
「最初は無難な命令で良いかな。『一番が三番の肩を揉む』!」
一番と三番がそれぞれの割り箸を全員に見えるように取り出した。
一番は僕。そして、三番は香純ちゃんだった。
つまり、僕が香純ちゃんの肩を揉むのだ。
自分の番号を呼ばれた時はヒヤリとしたけれど、肩を揉むくらいなら余裕だーーそれに、実を言うと、あまり表立っては言っていないけれど、僕は実は肩揉みが得意なのである。先ほどは香純ちゃんに物理的に痛い目に遭わされたけれど、それはもう許した。王様の命令通りに香純ちゃんの肩を揉んで、気持ちいい目に遭わせてあげよう。
「いやー、まさか最初から美味しい目にありつけるとは思いませんでしたよ。王様ゲームに参加して正解でした。よろしくお願いしますね、晴輝先輩♪」
香純ちゃんもご機嫌の様子。優雨以上の傍若無人さを誇る日和おねーさんにしては平和な命令にしてくれて本当に良かった。
そう思いながら、あとの二人、咲良と優雨の様子を見ると、不思議なことに二人揃って怯えたような表情をこちらに向けていた。肩を抱きしめ合って震えてまでいる。
何故だろう? この状況のどこに怯えるような要素があるのだろうか?
香純ちゃんもそれに気づいたようで、僕たちは僕たちで首を傾げていた。
ともあれ、王様・日和おねーさんの命令通りに香純ちゃんの肩を揉むことにしよう。
姿勢を正して座り直した香純ちゃんの後ろに回り込み、僕はそっと彼女の肩に触れた。
「…………ひぁっ!」
まずは香純ちゃんの肩で凝っている部分を探すために、少し押しながらも肩から背中の肩甲骨の内側あたりを撫でる。
「ちょっ! あっ! んんっ!」
いくつか彼女の凝っている部分を見つけた。まずは、首の後ろを両方の親指で少し強めに押しながら、他の指で肩を全体的に揉みほぐす。
「何……これ、んんっ、変な声が、出ちゃうぅ、あっ、あっ、」
首の後ろから下にかけて、少しだけ張っているようだ。その部分のほぐすために、僕は揉み続ける。
それから、肩を揉む指はそのままに、首の後ろを押している親指を次第に肩甲骨の内側に近い部分へと下げていく。背骨の外側に平行なライン、そこをまっすぐに僕は親指で押して下げる。
「晴輝……先輩……そこは、……だめっ……んあっ⁉︎」
「大丈夫だよ、香純ちゃん。痛いのは最初だけだ。すぐに気持ち良くなれる」
後ろから「卑猥なことを言うな!」という優雨の叫びが聞こえてくるが、心当たりがまるでないので無視する。
痛いというのはつまり、そこがツボなのである。かと言って、無理やりツボを押すのは返ってその部分を傷めてしまう。親指の腹の部分を小さく回転させるように、力を分散させながらも、確かにツボに刺激を与える。
そろそろフィニッシュにしよう。僕は肩甲骨の内側に沿って親指を押し上げて、肩を揉む指の力を段階的に強めていく。
「そんな、奥まで、んっ、もうっ……私……‼︎」
「もう少しだ。もう少しだからね……イくよ!」
全ての揉んでいる指を首の方へと集めて、ぐっと力を入れて五秒ほどそのままにした後に、僕は香純ちゃんの肩から全ての指を一気に放した。これでリンパの流れが良くなっただろう。
指が離れたのと同時に、香純ちゃんは脱力しきったように、その場でへたり込んでしまった。よっぽど気持ちよかったのだろう。今回も上手くできて、本当に良かった。
「終わりましたよ」と、僕は達成感のこもった声を日和おねーさんに向けると、彼女は大口を開けて恐怖の貼りついた顔でこちらを見返してきた。咲良と優雨は先ほどと同じく怯えたような様子で、しかも先ほどよりも僕との距離が遠ざかっていた。
「何なんだ、一体? あ、そうだ、香純ちゃん、僕の肩揉みは上手くできていたかい?」
香純ちゃんに尋ねてみると、彼女は背を向けたままの姿勢で返事をしてくれた。
「……とても、……気持ちよかったです。でも、ごめんなさい、…………しばらくは私の顔を、……見ないで」
香純ちゃんにしては珍しく、何とか絞り出したような声だった。背を向けたままなので表情は窺えないけれど、髪の間から覗く耳が真っ赤になっていた。きっと、気持ち良さで緩んだ表情を見られるのが恥ずかしいのだろう。そうに違いない。あまり言及したり覗き込んだりするのは可哀想なので、彼女の意思を尊重してあげよう。
「…………あーあ、また被害者を増やしてしまったね、兄さん」
離れた距離から、そう呟く優雨。
さっきから、この妹の言葉の意味がよくわからなかった。
香純ちゃんの回復を待ったのち、その後も王様ゲームは続いた。
『二番は猫耳をつけて、語尾に「にゃん」をつける』
「兄さんや。語尾はともかくとして、猫耳はビジュアル化されない活字だけの小説でどんな意味があるのかにゃん?」
『四番はオリジナルドリンクを作って、二番に飲ませる』
「どうかな? ……おいしい? そう、良かったわ。あ、ごめんなさい。面白みがなかった?」
『三番は一番に足ツボマッサージ』
「まさか、ハルくん、足ツボマッサージはできないよね? でも、一応わたしがストップって言ったら止めるんだよ? ちょ、嘘? 足ツボもできるの? ちょ、まっ、タンマ! や、やめて! ストップ! ストップ! ちょっ! ひぐぅ! んあっ! あっ、あっ、ひぁっ! あっ! あ〜〜〜〜‼︎」
そんなこんなで、あっという間に夕方になった。過ぎた時間は確かにあっという間だったけれど、全員揃って疲労困憊である。
帰って来た両親はリビングに並んだ生きた屍五体にとても驚いていた。優雨が咲良と香純ちゃんを夕飯に誘ったが、二人とも家でご飯を食べるとのことで、この場は解散とし二人は帰って行った。
母が作った夕飯の食卓には、僕たち家族四人と日和おねーさんの計五人が居る。約二週間ともなると、この光景にもすっかり慣れてしまったな。
「おねーちゃん、今日はどうだった? 現役JKとオマケと遊んだ感想は?」
サラダをつまみながら、おねーさんにそう訊く優雨。オマケ扱いされた程度で、僕は特にツッコミは入れない。
「めっちゃ、楽しかったわっ! やっぱり良いよねー、JKは。ピチピチしてるもの。良い精力を吸収できたよ」
それを聞いていた父さんが、ハハハと笑いながら口を出す。
「日和ちゃん、今のうちからそんなことを言ってるようじゃ、ホントに老けちまうぜ?」
「あら、おじさんこそ大丈夫なの?」
「あン? 俺ァ、時々晴輝や優雨たちにちょっかいかけてるからな。若さをエナジードレインできてるぜ」
「あんたら、僕たちを何だと思ってるんだ⁉︎」
笑いの絶えない食卓。
四人だけの時でも楽しくはあったけれど、明日をもって今の五人から一人が欠けてしまう。
おねーさんは大学の方へ戻るべく、明日この家を出て行ってしまう。
僕たちの周りを色々と引っ掻き回してくれたこの人ではあるけれど。誰も口には出そうとしないけれど。
やっぱり、別れの訪れはとても寂しかった。
次話のタイトルは未定ですが、日和おねーさんとのお別れはもう間近ですね。
どうぞ続きもお楽しみに。




