辻褄を合わせよう
何のひねりもないタイトルだけれど、これから辻褄合わせのための行動を取ろうと思う。
語っているのが誰かと言えば、僕こと兄妹の兄担当・寺井晴輝だが、今の僕がいつの僕かというのはぼかしておきたい。時系列的には「フラワー・ギフト(下)」よりも後の僕であるとまでは言うことができるのだが、それ以上は今後のネタバレになってしまうため、明言を避けることを許してほしい。
辻褄を合わせるためとはいえ、流れに合わないことをしているのも確かだから、そのあたりが非常にややこしい。
「正しい歴史を維持するために、時にはややこしい黒子役も必要になることも必要ですわ、晴輝お兄様」
僕にそう言ったのは、「フラワー・ギフト(中)、(下)」にも登場した、迷惑発明家・水川七海である。
念押ししておく。あの、七海である。
なんということでしょう。「~ッス」という軽い後輩めいた語尾だったあの七海が、「~ですわ」というお嬢様口調を使いこなす、本物のお嬢様へと生まれ変わったではありませんか。…………。
いや、生まれ変わるなよ。まだ二話しか登場していないのに、読者にキャラを覚えてもらっていないのに、キャラを変えるなよ。
辻褄を合わせる前に、キャラを合わせろ。
「良いじゃありませんの、お兄様。わたくし、誰にも彼にも丁寧語を使うお父様に反発する意味で自分に適当なキャラ付けをする、というアイデンティティは一切崩れておりませんわ」
いや、だから、まだ浸透してないんだって、お前のその設定。
ぶれぶれなんだよ。
「『ぶれーぶれー、七海ちゃん』とは、よく言われます」
「誰だよ、そんなお前にぴったりな応援をする奴は?」
あと、ついでに言えば、先ほどから七海に「お兄様」と呼ばれているけれど、七海とは親同士が友人関係で昔から見知った間柄というだけで、彼女とは血縁関係はない。
妹なら、あの美少女好きただ一人で十分間に合っている。
「で、七海、お前の技術力が向上したおかげで、辻褄を合わせることができるようになった、と聞いて来たんだが、具体的にはどういうことなんだ?」
「具体的な話をしても良いんですけれど、もう少し雑談しませんこと? やることが単純すぎて、尺が余ってしまいますので」
「却下だ。早く話せ」
字数の決まった雑誌原稿でも、放送時間が決まったアニメ脚本でもない、というツッコミは話の流れが悪くなるから口には出さない。
「まあ、説明大好きキャラはぶれませんからね、良いでしょう」
七海はそこで、えほん、と咳払いをしてから、大好きだという説明を始めた。
「『フラワー・ギフト(下)』において、わたくしは咲良お姉様がタイムスリップした理由を明確には説明しておりませんでしたわね? 確か、原因不明でタイムスリップしてしまう現象も低確率であり得る、みたいなことを言ったかと。
「説明としては無理やりそれで押し通せるかもしれませんが、現実としてはそんなでき過ぎた偶然なんて、およそあり得ないでしょう。
「それこそ、更なる未来のわたくしたちが干渉でもしなければ。
「…………どうやら、お察しいただけたようですわね。
「そう。更なる未来のわたくしたち、というのは、今現在のわたくしたちのこと。あの頃の未来に居るわたくしたちだからこそ、当時高校二年生だった咲良お姉様を過去に送り込み、(前)・(中)・(後)の三編にも及ぶ『フラワー・ギフト』を成立させることができたのですわ。
「今のわたくしならば、対象を直接タイムマシンに乗せなくとも、時間移動をさせることができる――できるのですが、一応段階を踏まなければなりませんので。
「という訳で、晴輝お兄様。
「当時高校二年生だった咲良お姉様を、その時点から十年前の時代に飛ばしてきていただけませんか?
またSFじみた展開が始まりそうだ、と僕が辟易したところで、七海から青い手袋を手渡された――それも、右手片方だけ。
「咲良お姉様を過去に送る方法も、また単純な話。その右の手袋をつけて、咲良お姉様の頭を撫でるだけで良いのです。そのために、また晴輝お兄様には女子高生の咲良お姉様の居る時代にタイムスリップしていただくのですが、よろしいですか?」
「……。まあ、乗りかかった舟だ。デジャヴがするような流れだが、わかった、行ってくるよ」
「ありがとうございますわ、晴輝お兄様」
「良いよ、そのくらい。今のお前なら、薬の後遺症で僕を筋肉痛にさせることもなさそうだし」
「さすがです、お兄様」
「某劣等生を彷彿とさせることを言うな」
「さすおに」
「略した⁉」
あの時は本当に体中が痛くなって一日とはいえ入院することになってしまったほどだが、今回のミッションくらいなら安請け合いできるというものだ。
「ん? けど、咲良の頭を撫でるにはどうしたら良いんだ? 今の時代の僕とはいえ、当時の彼女と顔を合わせるのはまずいんじゃないか?」
「ああ、それならご心配なく。晴輝お兄様にはあらかじめ、当時の人間からは視認できなくなる薬を飲んでいただきますから。もちろん、その薬に副作用はありませんわ」
「そうか、それなら良いんだ」
「しかし、晴輝お兄様。いくら見えないからといって、咲良お姉様に変なことはしないでくださいね?」
「しねーよ!」
「…………ちっ、つまんねーの」
「お前今なんて言った⁉」
「ちっ、つまんねーの!」
「だから、訊き返したわけじゃねーよ! ……って、こんなやり取り、前にもやらなかったか?」
「え、なんのことですか?」
「とぼけるな。あったんだよ、こういうやり取りが!」
辻褄やキャラを合わせる前に、お前は性格を直せ。
「じゃあ、そろそろ行ってくるな」
僕は不愉快にも乗り慣れたタイムマシンに乗り込む。あの頃から今がどのくらい経ったかはやはり明言できないけれど、このタイムマシンが模している電話ボックスはまだ今でも残り続けている。
ノスタルジーとは全く関わりはないんだろうが、本当に必要で大事なものは永く残り続けるのだろう。
そんなことを思いながら、僕はタイムマシンの操作をする。また常識外の冒険をしてこよう。前とは違って、少しばかり肩の力を抜きながら。
「晴輝お兄様、お気をつけて」
「ああ、行ってくる」
「それと、お兄様。お兄様が帰ってこられた時の、わたくしの新しいキャラはどのようなものにしましょうか? リクエストを受け付けますわ」
またキャラを変えるつもりか。忙しい奴だ。
リクエストを受け付けるというので、僕は冗談めかしてこんなことを言ってみた。
「僕が今まで出会った中で一番綺麗で可愛くて、優しく穏やかで、何でもできるのに変なところでネガティヴで一歩下がりがちだけど、包容力があってとても優しい、そんな女性で頼む」
電話ボックスの窓から七海を覗きこむと、彼女は全身を振るわせて大爆笑していた。あまりに笑い過ぎたのか、七海は指先で涙を拭いながら、
「あんまり莫迦なことを言わないでください。無理ですわ、わたくしには」
「ははっ。だろうな」
セッティングが完了し、あとは出発ボタンを押すだけになった。僕はもう一度だけ、七海の方を振り返る。
「キャラ設定は好きにしろよ。よっぽど変なキャラじゃなかったら、受け入れてやる」
「あら、それはフリですわね。とびっきり奇抜なキャラを用意して、お待ちしております」
やれやれ。溜息吐き吐き、僕は出発ボタンを押した。ウォォォォン、とモーターが唸るような音が鳴り、マシンの中にいる僕の五感があやふやになって行く。時間移動時特有の感覚だ。
女子高生の頭を撫でに、僕は行く。
どんな気持ちを込めて、僕は彼女の頭を撫でれば良いのだろうか。
感謝か、ねぎらいか、あるいは…………?
そんな感じで時系列があやふやながらも、辻褄合わせの短編でした。「キャラがぶれる」キャラというのも、書いていて楽しいですね。ではでは。




