番外編 アンソニーの毎日1
久しぶりの更新になります。長らくお待たせしました。
今日も今日とてルクセン王国女王のアンジェリーナの夫であるアンソニーは忙しく過ごしていた。
アンソニーはアンジェリーナと共に政務に勤しんでいる。王配としてもこの国の宰相としても彼には重大な責任があった。また、アンジェリーナとの間に世継ぎをもうけないといけない。それをルクセン王国に来てからより強く自覚をしていた。
「……ソニー。もうアリエノールとアンドルーが起きるかも。私、様子を見てくるわ」
「ああ。見てきなよ。この書類は俺がしておくから」
「ごめんなさいね。行ってくるわ」
アンジェリーナは申し訳なさそうにしながら執務室を出ていく。後はアンソニーと補佐官、文官の四人が残された。
「アンソニー殿下。今日も陛下は大変そうですね」
「そうだね。俺がいるからまだもっているけど。彼女一人だけだともっと大変だったと思うよ」
「確かに。さて、この予算案はどうしますか?」
「……そうだな。財務大臣と話し合った方がいいな。これは保留という事で」
「わかりました。後、この町の橋が洪水で流されてしまったとか。国で保障すると言いましたが。これも大臣と陛下に相談した方が良さそうですね」
補佐官が言うとアンソニーは洪水の件の書類をこちらに手渡すように言った。
目を通してから補佐官に返す。サインはせずに大臣とアンジェリーナにも確認してもらうように指示を出した。
その後、午後になるまで大量の書類をさばいたのだった。
もう二人が結婚してから五年が経った。アンジェリーナとアンソニーの間には三人目の子供が生まれていた。男の子で名はフェリックスと名付けられていた。
フェリックスはもう一歳と半年で長女のエレオノーラも五歳で長男のアルノーが三歳になっていた。エレオノーラはすっかり明るくしっかり者に育ちつつある。アルノーも利発ながらもやんちゃになっていた。
フェリックスはやっとよちよち歩きできていて簡単な単語をしゃべれるくらいに育ってきていた。
アンジェリーナには王子が二人生まれた。だが、家臣達はまだ安心できないでいた。先代王の妃だったカトレアの事もある。王位を巡ってアンジェリーナの子供達が争う事も考えられた。
だから、少しでも世継ぎは多いほうが良い。次の子供を望む声も多かったのだった。
「……ソニー。私、一体いつまで王位にい続ければいいのかしら。そしていつまで子を生み続けたらいいのか。時々、不安になるの」
「アンジェ。大丈夫だよ。俺や家臣達がいる。君を支えているんだ。そんなに不安がらなくていいよ。まだ、先はわからないんだし」
「それでも。考えてしまうの。カトレア様の事を思い出すと。エレオノーラ達も同じようになるんじゃないかって」
「……アンジェ」
「ごめんなさい。弱気になっても仕方ないのだけど」
アンソニーは謝るアンジェリーナを黙って抱きしめた。驚いたアンジェリーナは身を固くした。もう結婚して何年も経つが。アンジェリーナはまだ初な一面を持つ。
「アンソニー。私は大丈夫よ」
「それでも心配なんだ。今くらいは旦那にさせてよ」
アンソニーが言うとアンジェリーナは顔を赤らめた。しばらく二人は抱き合ったままでいた。
翌朝、アンジェリーナは照れた様子でアンソニーに謝ってくる。それを笑顔で「謝らなくていい」と彼は言う。余計に困った様子の妻にアンソニーは告げた。
「君がわたしを頼ってくれたらそれでいいんだ。エレオノーラ達もいるんだから。そう不安がらなくていいんだよ」
「……わかった。ありがとう」
アンジェリーナが小さな声で礼を言った。アンソニーは笑みを深めた。
ルクセン王国の空はどこまでも青く澄んでいる。故郷の両親や兄弟達は元気だろうか。アンソニーはそう考えながら妻のアンジェリーナに近寄る。
まだまだ女王としてやらなければいけないことはあるが。今くらいはただの妻として甘やかそう。そう決めて彼女を抱き寄せた。黄金の髪を撫でながらアンソニーはそっと囁く。
「今後もよろしく頼むよ。わたしの綺麗で可愛い奥さん」
穏やかな風が吹いた。アンジェリーナは余計に顔を赤らめて固まった。それを見て彼は笑い声をあげたのだった。