第2話 新しい仲間たち
こんにちは!
第2話「新しい仲間たち」です。
今回は、碧唯と紡が合同ゼミに参加し、新しい先輩たちと出会います。
個性豊かな仲間たちが増えてきますので、ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです!
それでは、どうぞ!
大学構内の一角にある会議室では、二人の男子学生が机や椅子を並べていた。
「拓真さん、こっちの机はこれくらいでいいですか?」
「ああ、それで大丈夫。あとは椅子を並べれば終わりだな」
四年生の樋野拓真は、手元の資料を確認しながら答えた。
その隣では、三年生の唐浜悠司が椅子を運んでいる。二人は同じ箕施神ゼミに所属しており、今回の合同ゼミの準備を任されていた。
「いやあ、まさか俺たちが会場設営までやるとは思いませんでしたよ」
「そう言うなって。こういう準備も大事な仕事だろ?」
「それはそうですけどねぇ……」
悠司は椅子を置き、軽く腰を伸ばした。
「そういえば、拓真さん。卒論のほうはどうなんです?」
「ん? まあ、ぼちぼちだな。最後のまとめに苦戦してるけど」
「四年生も大変ですね」
「お前も二年後には同じことを言ってるよ」
拓真は笑いながら、机の位置を少しだけ調整した。
「俺が卒業したら、お前があの教授の右腕になれ」
「えぇ!? 拓真さん! 確か院(大学院)に行くんじゃ?!」
「一応、就活もしてるのよ」
「えっ、そうなんですか?」
「そうなんです。人生、いろいろ考えることがあるんだよ」
拓真はどこか楽しそうに言うと、残っていた資料を机の上に並べた。
「ほら、話してないで手を動かす」
「はいはい……」
悠司は苦笑しながら、配布資料を人数分に分けていった。
会議室の前方にはスクリーンが設置され、中央にはプロジェクターが置かれている。二つのゼミの学生が集まるため、普段よりも広く机が配置されていた。
準備が一段落した頃、会議室の扉が開いた。
「失礼します」
入ってきたのは、郡上碧唯と西方紡だった。
「あ、こんにちは!」
碧唯が明るく挨拶すると、拓真が振り返った。
「お、来たね。箕施神ゼミの一年生?」
「はい。郡上碧唯です」
「西方紡です。よろしくお願いします」
「俺は樋野拓真。こっちは唐浜悠司。二人とも箕施神ゼミだから、よろしくな」
「唐浜です。よろしくお願いします」
悠司も軽く頭を下げた。
「今日は俺たちが準備をしてるんだ。好きなところに座っていいよ」
「ありがとうございます!」
碧唯は会議室を見回した。普段の講義室とは違い、複数の学生が向かい合って話せるように机が並べられている。
「なんだか、本格的ですね……!」
「合同ゼミだからな。もう少ししたら坂戸ゼミの人たちも来るよ」
拓真がそう説明すると、碧唯は期待に満ちた表情でうなずいた。
やがて、再び扉が開いた。
「お待たせしました」
坂戸麻美教授が、数人の学生を連れて入ってきた。
「坂戸先生、お疲れさまです」
拓真と悠司が挨拶をする。
「準備ありがとう。ずいぶんきれいに整えてくれたのね」
「いえいえ。拓真さんがほとんどやってくれました」
「おい、唐浜」
「冗談ですよ」
悠司が笑って返すと、拓真も呆れたように肩をすくめた。
坂戸教授の後ろには、四年生の古式朔もいた。
「お、古式先輩。お久しぶりです」
悠司が声をかける。
「あら、唐浜くん。久しぶりですね」
「相変わらずですね」
「それはどういう意味ですか?」
「いや、いつも落ち着いてるなと思って」
「唐浜くんは、もう少し落ち着いたほうがいいと思いますよ」
「……はい」
即答できず、悠司は少しだけ視線をそらした。
そのやり取りを見ていた拓真が、くすりと笑う。
「二人とも、相変わらずだな」
「そうですか?」
「そうですよ」
朔は穏やかな表情で答えた。
しばらくして、拓真が思い出したように朔へ尋ねた。
「そういえば古式さん、卒論はどう?もう終わった?」
「ええ。先日、提出しましたよ」
「えっ!? もう!?」
拓真の声が少し大きくなった。
「俺、まだ最後のまとめで苦戦してるんだけど……」
「坂戸ゼミでは、ゼミが決まった時点から卒業論文の準備を始めていますから。二年生の後期には、もう取り組み始めていますよ」
「早すぎない?」
「早めに始めておけば、後で慌てずに済みますから」
「それは分かってるんだけどなぁ……」
拓真は困ったように頭をかいた。
「卒論って、そんなに早くから始めるものなんですか?」
紡が先輩たちを見渡した。
「早すぎだって」
拓真は朔の行動の早さに唖然としている。悠司も何も言えないみたいだ「さ、さすがっすね」と呟いて拓真を見て特に何も返さない。
「卒論??」
近くで話を聞いていた碧唯が、紡に小声で尋ねた。
「ゼミや研究室によって違うみたいだけど、卒業論文は自分が研究したいテーマを決めて、調査や実験をして、その結果をまとめて提出するものだよ」
「へえ、そんなのがあるんだ」
「碧唯たちも、いずれするんだからな」
拓真が会話に加わった。
「そうなんですね……!」
「まあ、まだ先の話だけどね」
紡が補足すると、悠司がすかさず口を挟んだ。
「拓真さんは、まず自分の卒論を終わらせないとですね」
「お前なぁ!」
会議室に小さな笑い声が広がった。
そのとき、前方で資料を確認していた箕施神尊教授が顔を上げた。
「お、坂戸先生。来ていたんですね」
「ええ。準備は順調そうですね」
「学生たちがよく動いてくれましたよ」
「そういえば、私の家にUSB忘れてましたよ」
「あっ! ごめんごめん!!」
尊教授は思わず声を上げた。
その瞬間、悠司の手が止まった。
(……坂戸教授、今『私の家』って言ったか?)
隣にいた拓真も、何かに気づいたように悠司の顔を見た。
朔は二人の様子をちらりと見て、静かに息をつく。
「……聞こえていますよ」
「い、いや、別に何も言ってませんよ!」
悠司は慌てて手を振った。
「そうですか?」
朔は涼しい顔で返した。
碧唯と紡も、なんとなく二人の様子を察したらしい。
誰も口には出さなかったが、学生たちの間には、なんとも言えない納得の空気が流れていた。
尊教授は咳払いをひとつして、手元の資料に目を落とした。
「……さて、そろそろ始めようか」
その声を合図に、学生たちはそれぞれ席についた。
会議室の前方に立った尊教授は、隣にいる坂戸教授と目を合わせてから、集まった学生たちを見渡した。
「今日は、これから始まる共同研究について説明する。まずは研究の概要からだ」
スクリーンに、海の写真が映し出された。
「今回の研究では、日本の太平洋側から西日本方面へ向かいながら、各海域の生態系を調査する」
尊教授の説明に続いて、坂戸教授が言葉を添えた。
「海域によって、海水温や塩分濃度などの環境条件は異なります。そこに生息する生物の種類や分布にも、違いが見られるはずです」
スクリーンには、海の中を泳ぐ魚や、海底に広がる生物の写真が次々と映し出されていく。
「これまでは、主に沿岸部で調査を行ってきました。実際に海へ出て、移動しながら複数の海域を調べることで、陸からの調査だけでは見えてこなかったことも分かるでしょう」
「今回の共同研究では、二つのゼミが協力し、それぞれの専門分野を生かして調査を進めていきます」
坂戸教授がそう説明すると、尊教授が次のスライドへ切り替えた。
そこに映し出されたのは、青い海を背景にした大きな客船だった。
「そして、今回の調査で使用するのが、この船だ」
「わあ……!」
碧唯は思わず声を漏らした。
画面いっぱいに映る豪華な客船。白い船体は青い海によく映え、いくつものデッキや大きな窓が並んでいる。
研究船という言葉から、もっと無骨な船を想像していた碧唯にとって、それは予想外の光景だった。
「すごい……! こんな大きな船に乗るんですか?」
「そうだ。船内には研究設備のほか、生活に必要な施設も整っている」
尊教授が説明を続ける。
「今回の航海は、およそ一か月、夏休みの期間を予定している。調査だけでなく、船内での生活や安全面についても、しっかり準備しておく必要がある」
「一か月……」
紡が小さくつぶやいた。
「そう。普段の大学生活とは大きく環境が変わる。必要な荷物や生活用品も、自分で考えて準備してもらうことになる」
「一か月分の荷物かぁ……」
紡は資料に目を落としながら、頭の中で必要なものを考えているようだった。
一方の碧唯は、まだスクリーンに映る客船から目を離せずにいた。
「こんな船で海の上を進みながら研究できるなんて……!」
「碧唯、まだ説明の途中だよ」
「あっ、ごめん!」
紡に小声で注意され、碧唯は慌てて前を向いた。
尊教授は、学生たちの反応を見ながら話を続ける。
「今回の航海は、四年生にとっても初めての長期的な船上調査になる。分からないことは遠慮せずに確認してほしい」
「研究の内容だけでなく、船内での過ごし方や安全についても、これから少しずつ説明していきます。皆さんで協力しながら進めていきましょう」
坂戸教授の言葉に、学生たちはそれぞれうなずいた。
説明が一段落すると、尊教授は満足そうに資料を閉じた。
「新しい学生も入ってきたことだし、これからいろいろ頼むこともあるだろうな」
「箕施神教授?」
「はい?」
「悠司くんとは別に、雑用を作ろうとしていませんか?」
「悠司は雑用じゃない!」
「先生、そこは否定してくれるんですね……」
悠司が少し寂しそうにつぶやくと、会議室に笑いが起こった。
「まあ、唐浜くんにはいつも助けてもらっていますから」
坂戸教授がそう言うと、悠司は少しだけ照れたように頭をかいた。
合同ゼミは、和やかな雰囲気のまま進んでいった。
やがて説明が終わり、学生たちが資料を片付け始める。
「碧唯、そんなに興奮して大丈夫?」
紡が隣から声をかけた。
「え? 何が?」
「さっきからずっとはしゃいでるから。お腹、痛くなったりしない?」
「大丈夫、大丈夫!」
「本当に?」
「だって、こんな大きな船に乗れるんだよ? 一か月も海の上で研究できるんだよ? こんなにワクワクしてるんだから、お腹なんて痛くならないって!」
「そういう問題かな……」
「そういう問題!」
碧唯は自信満々に答えた。
紡はそんな彼女を見て、呆れたように笑う。
「まあ、今は元気そうでよかったけど。無理はしないでね」
「わかってるって!」
碧唯はもう一度、スクリーンに映る客船を見上げた。
図鑑の中でしか知らなかった海の世界。その向こう側へ、いよいよ自分の足で踏み出そうとしている。
これからどんな生き物に出会えるのだろう。
どんな景色が待っているのだろう。
期待に胸を膨らませながら、碧唯は新しい仲間たちとともに、これから始まる航海に思いを馳せていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
今回は新しい先輩たちとの出会いや、卒業論文の話、そして先生たちの意外な一面も描いてみました。
いよいよ、約一か月(夏休み期間)にわたる船上での共同研究が始まろうとしています。
碧唯たちを待っているのは、どんな航海になるのでしょうか。
次回もよろしくお願いします!
箕施神教授ってなんて読むんだっけ?2話にして後悔中。
みしかみって読むの!覚えておいてね。私も覚えておきます!!あとの登場人物名字は地域の地名をいじったりしてます。
感想待ってます!!
DaN




