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境界の森の管理人~森を守るため、世界を締め出しました~  作者: 久東芽蕗
第一章 森と精霊

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9. 引越しそばの送り主

 

 城のロビーで白虎のラズリにまたがり、森へ出ようとしていた。


「出掛ける前に、念のためワタクシにも結界を張っていただけますか」


 風の精霊――ラズリが、優雅に尻尾を揺らしていた。足元にはトカゲが控えている。護衛のつもりか?


「え、成功するかわからないよ? ……ラズリだけ?」


「コハル様は、すでに強固な結界に包まれておりますよ」


「え、そうなの? 全然わからないんだけど……」


「えぇ、それはもう美しい結界です。それにコハル様の結界は特殊ですからね。そもそも結界と呼べるかも怪しいところです」


「え? なんて言ったの?」


「いえ、なんでもありません」


「……あ、そういえばさ。前に森で、でっかいクマに襲われたことがあったんだけど」


「ほう」


「そのとき、この子がいきなり私の髪に潜り込んできてさ。そしたらクマが――なんか、勝手に弾け飛んだんだよね」


「ほう」


「だからてっきり、この子が何かしたのかと思ってたんだけど……」


 ラズリは、ちらりとトカゲを見てから、鼻で笑った。


「見た通り、そのバカトカゲがこの姿で何かできるとは思えませんが」


「シャーッ!」


「おそらくコハル様の結界に弾かれたのでしょう。身の危険を感じて、慌てて逃げ込んだだけかと」


「え、じゃあ――」


「主であるコハル様に守られただけの役立たずです」


「シャーッ!!」


「事実でしょう。コハル様、とりあえず、お願い致します」


「あ、うん、じゃあやってみるね」


 集中しようとすると、ぴょん、と軽い音がした。

 足元を見ると、ネルが、当たり前みたいな顔でラズリの背中によじ登っている。


「……役立たずのくせに、ついてくるつもりですか? 図々しいですね」


「シャー!」


 即座にキレるトカゲ。しっぽをぶんぶん振って威嚇している。


「喧嘩するなら置いていくけど?」


 私がそう言うと、トカゲのしっぽがぴたりと止まって、ぱさっと力なく落ちた。



 気を取り直してラズリに結界を張る。


 集中力と想像力。そして信じる心。

 ぱん、と印を結ぶ。


「……うーん、やっぱり何も変わらないね」


 また失敗か、と思った、その時

 頭にトカゲを乗せた白虎が恍惚として目を閉じていた。


「だ、大丈夫?」


「問題ありません」


 なんか満足そうだ。


「じゃ、行こっか」


 そうして私は、やっと森へと足を踏み出した。


 少し歩いたところで、ふと思い出す。

「そういえば、私がここに来た次の日、門の前に、牛みたいな魔物が積み上がってたんだけど」


「ああ、どうせこのバカトカゲの仕業でしょう」

 ラズリはちらりとも見ずに言い切った。


「え? どうやって?」


「おおかた倒しただけで力尽きて、城の中まで持ち帰れなかったのですよ。本当に考えなしですね」


「シャー! シャー!」

 抗議しているけど、説得力はゼロだ。


「そうなの? じゃあ解体も?」


「それはコハル様ですよ」


「……え、どういうこと?」


「コハル様の結界は、少々特殊と申し上げたでしょう」


「いやいやいや、待って。どうして結界張って、牛が解体されるのよ。おかしいでしょ」


「はい、全く同意見でございます」


「……え?」


 ラズリが真顔で頷いた、その横で。


「キュル?」


 トカゲが、小さく首をかしげていた。




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