【第二章43】白い天女
突然肩に走った痛みに目を覚まし、動こうとすると数人に押さえつけられた。眼鏡はどこに行ってしまったのか、視界はぼやけて相手が誰だかわからない。
「朴さん!白です!今手当しているので痛くても動かないでください!」
聞き覚えのある声が叫ぶ後ろで包帯やリリカ、タリージェの名前を叫ぶ声が聞こえてくる。
「しゅん、俊什は、彼はどこにいるんです...」
「わかりません、ですが朴さんを見つけたのは王さんです」
「彼、彼と面談、合わせてもらえませんか、お願い、します」
そう尋ねた瞬間バシッと乾いた音と共に頬がジンと熱を持つ。頬を平手打ちされたのだと理解する時には胸ぐらを掴まれて強制的に状態を起こされていた。
「ナニ様やおもとるんやワレ!お前がどんだけ迷惑かけとるんかわかっとらんのかボケが!」
「落ち着きなさい欧陽さん!彼は怪我人ですよ!」
「おお!おお!貴重な薬を食い潰す立派な怪我人やわぁ!白姐も分かっとるやろ!」
「...長さん、欧陽さんを抑えてください」
「あ?なにすんねん自分、ちょ!やめぇや白姐!それはあかんやろ!」
「しばらく仮眠室に寝かせてあげてください。この忙しさです、疲れていたに違いありません」
「白姐さん、彼は...つまりこの監査員は大丈夫でしょうか?」
「朴さんは長さんが思っているような人ではありません、大丈夫ですよ」
頬にひんやりとした(おそらくは濡れたタオルだと)が当てられ、平手打ちを受けた頬を冷やした。
「簡単に状況を説明いたします。より詳しい話は中将様から聞いてください。理解できたなら一度瞬きを」
言われた通り瞬きをする。ぼんやりと像を結ばない人影が頷いたような気がした。
「今、朴さんの肩には矢が刺さっています。正直、この矢は倒れた時の衝撃で深く刺さってしまっていて私の礼物だけではどうにもならないところまで傷ついています。さらに背中にも矢を受けていますがそちらは私が治しました」
説明を進める間にも手際よく手当を進めていく。治したとは言うが、背中に傷があったことなど今知った程だ、痛みなんて全く気づかなかった。
いや、傷もさっぱりなくなっていた(それこそ最初からあなかったかのように)のだから痛みがないのは当たり前なのだろうか。
「そして俊什さんはそもそも朴さんが倒れていた場所には最初からいなかったそうです。あまり話は聞けないとは思いますが、それでも面談しますか?」
彼女の静かな言葉の裏には「面倒を増やすな」とでも言いたげな圧があり、頷くのは躊躇われた。
「...すみ、ません...ッゲホッゴホッハァ...やめておきます...」
「わかりました、では手当は終わりましたので、私は行きますね。もし何かあれば長さんに」
神経薬が効き始めて目も開けるのが困難な中、白姐と思わしき人影が部屋を出ていくところが何とか認識できた。
「すみ、ません、ゲホッゴホッ…!み、水をいただけませんか、」
「ああ、はい。眼鏡はどうしますか」
「ぁあ、はい。ください…」
眼鏡を受け取り、肩を庇いながら上体を起こして水を受け取る。そのとき寝台の床に転がっている死体のような人間が目に入った。驚きで僕の喉が締まって空気が抜ける音を聞いたのか、長さんらしき男性はあ、と声を漏らした。
「彼は欧陽です。死んではいませんのでご安心を。白病棟長が睡眠剤を打ち込んだだけです」
「睡眠剤を…血管に直で」
「直で」
「あぁ…なるほど…?」
「このあと仮眠室に連れていきますが、なんせ重いですからね」
「えっと…僕が退きますのでこの寝台使いますか」
「ははは、ご冗談を」
僕自身何を言っているかわからなくなってきて頓珍漢な事を口走ってしまうが、長は一切表情を変えずに笑い飛ばした。そして容赦なく欧陽をずる売ると引きずっていった。
そういえばあの人…あの声と口調からして良然の同室だろう。なんだかんだ言って、今日初めて名前を知ったかもしれない。殴られたけど。




