【第二章22】手間のかかる仕事
うーん、今度の手紙はどうしようか。やっぱり最初は謝罪から始めたほうがいいかもしれない。あ、しっかり説明もしないといけないか。そしてもう一度輝静さんにお願いをしないと、あとは母さんにもちゃんと謝っておかないと…
あぁやることが多すぎる。まだ仕事のほうも今日だけでも数時間は拘束されそうな量だし、今日中に手紙を出すのは難しいだろうか。
ため息を付きながら次の書類に手を伸ばし、書類に目を通して僕自身の目を疑った。今までは書類の認可をするだけだったのに、急に一か月分の報告書をさらにまとめた報告書を書いて本部に提出する仕事が出てきた。まるでタンスの後ろに引っ込んでいった黒光りするあの虫を見かけたような嫌な気分になり、再びため息をついた。
結局、今日一日は九月分の報告書と十月分のをまとめた報告書を作るので終わってしまった。食堂に行くまでの道のりでクリップファイルに挟んだ便箋にペンを走らせる。今日は出せなくても、明日には誰かにお願いするなりなんなりしてこの手紙を出したい一心で、歩く振動で線がぶれるのに顔をしかめつつも歩いていると、前に注意を払わなかったために人とぶつかってしまった。
「うわっ!っと…すまない前を見ていなくてお怪我は…白姐さん?」
「まあ監査官さんでしたか。私こそすみません、ぼんやりとしてしまってたの。お怪我はないかしら」
「僕は大丈夫です。白姐さんは大丈夫ですか」
「ふふふ、大丈夫だから気になさらないで。でもこの廊下は暗いから視界をクリップファイルに集中させるのはおすすめしないわ」
「失礼しました、手紙を早く出さなければと気が急いていたもので」
「まあそうなの?だったら私が明日出してきてあげましょうか?ちょうど明日は町に出る予定があるの」
願ってもない提案だが、さして親しくもない彼女に頼んでもいいものかと悩んでしまう。彼女がどんな用事で町に行くのかは分からないけど、もし郵便局とは真反対の方向に行くとしたらかなりの手間になることは想像に難くない。
「あ、いや…提案は嬉しいんですけど、やっぱり申し訳ないっていうか…」
「気にしないでくださいな。監査官さんのように私たちのことを考えてくれる人は初めてですから、私も協力したいと思っただけです」
「いえいえそんな。僕はまだ全然お力には慣れていませんし」
「まぁまぁ、そう謙遜なさらずに。父上の顔色がよくなったのは監査官さんの働きのおかげですから」
すっと手を握られて、ね?と首をかしげて念押しされれば僕としては頷くほかなく、明日の朝彼女に書きあがった手紙を託す形になった。本当は女性に面倒ごとを押し付けるようなことはしたくないんだけれども…
「ではまた明日」
「あ、は…はい、また明日」
白姐はひらっと手を振り、そう言いながら行ってしまった。あの有無を言わせない圧というか身振りというか…やっぱり中将の娘さんなんだなと認識させられた。
その後夕食のために食堂に行くと、それまで何人かと談笑して楽しそうに野菜をつまんでいた良然が急にこちらに向かって手を挙げた。
「おうこっち来て座れよ坊ちゃん」
…なぜか、こうして度々僕を食事の席に誘うようになった。正直に言えばとても気まずい。初日の歓迎会で僕の顔、つまり監査官としての顔が知られている。だから前任の悪い印象も相まって僕に対する視線がすごい冷たい人もまあ一定数いる。たまに僕の顔をはっきりと覚えていないからか一般隊員として接してくれる人もいるが…むしろそっちの方が助かるぐらいだ。
いやもう本当に視線が痛いのに良然は気が付いているのかいないのか、それとも気が付いているけどわざと無視しているのか。そんなことはお構いなしに良然は誘ってくるから本当に困る。
ここで断っても誘いに乗っても絶対によく思われることはないと断言できる。だからこそいつもどうすべきか悩むのだ。もはやいっそ僕が悩むところも想定した嫌がらせなのかとも思ってしまう。
「えーっと…どうもみなさんお揃いで…」
愛想笑い交じりに挨拶をしてみても、良然とともに話していた隊員達は何も言わずに明らかな作った笑顔で答えた。
「なに突っ立ってんだよ。早く座れって」
お前の周りの人の顔を見てから言え馬鹿!




