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【第二章8】差し伸べられた救いの手

どうしたもんか…頼む、もうこの際良然とかでも良いから、通りかかってなんかいい感じに助けてくれ…!

 そんなことを思っていると遠くに見覚えのある姿を見つけた。橙恩だ。なんとか気がついてもらえないかと必死に念を送っていると、幸運なことになんとこちらに向きを変えて歩いてきた。


「やぁここにいたんだね朴のお坊ちゃま。さっそく他の隊員と仲良くなられたんだ?楽しそうなところ申し訳ないけど、残方中将がお呼びだよ」

「橙恩さん!で、ではそういうことですので僕は失礼します!」

「おう、引き止めて悪かったな坊主!中将様によろしく申し上げてくれ!」


あぁ良かった本当に!あのままだったらいつまで経っても運動場を離れられなかっただろう。なんだか出来すぎているような気がしないでも無いけれど…考える暇も手紙を出す暇もなさそうだし、大人しく中将の部屋に行こう。

 いくら広いとはいえども流石に建物の中で走るわけにもいかないので、せめてもの早歩きで中将の部屋を目指す。なぜかずっと後ろに橙恩が着いてきているのだけが気になるのだが、聞く余裕もない。多分橙恩も中将に報告しなければいけけないんだろう。

 ようやく部屋の前に着き、呼吸を整えつつ扉をノックする。中からぼんやりと中将の返事が聞こえた。良かった、怒ってはなさそうだ。


「失礼します。遅くなってしまって申し訳ございません中将様」

「む?遅れたとはどういうことだ。まだ時間にはなっていないが」

「でも橙恩さんが中将様がお呼びだと言っていたんですが…?」


中将はいつもの執務机ではなく、客人用のソファーに腰掛け、湯気が立つ湯呑みを飲みながら首を傾げていた。なんだか予想していた反応と違う…しかも軽装でかなりくつろいでいるように見えるのは気の所為では無いはずだ。困惑しながら後ろの橙恩を振り返って見ると、彼は少しきょとんとしたあと、含みがあるような表情でにこりと笑った。


「あれねぇ、嘘だよ。模擬試合に巻き込まれてて朴のお坊ちゃまがお困りのようだったから、ちょっとした嘘をついて連れてきたんだ。まさか本気にしていたとは思わなかったけどね」

「なんだ、まさか指導官に捕まったのか」

「はい〜いま訓練場では上から下への大騒ぎ、雪像まで作り出して大規模な模擬試合を行ってますよ」

「災難だったな。だがまあ見応えはある、どれ、儂も今度参加するかな」

「他の隊員が喜びそうですけどねぇ、白さんは反対しそうだなぁ」


橙恩の言葉に中将は声を出して嬉しそうに笑った。心配してくれる人がいるのは良いもんだ、なんていいながら茶をすすり、眼の前の席を指差した。


「そんなところで立たずにこっちに座らんか。橙恩もどうだ?小白から健康にいいともらった茶があるんだ」

「それ苦いから薄めながら飲んでるやつでしょう。私に押し付けようとしてるんでしょうが、その手には乗らないですからね〜」

「なんだ知っておったか。お前もいい歳なんだから健康にいいものを飲め」

「いーえ、遠慮しときますよ私は。まだ巡回が終わってませんから」

「おおそうか、なら監査員殿はどうだ。少し座って話でもしないか」

「僕でよろしければ是非」


橙恩に軽くお辞儀してから彼が部屋を出るのを見送り、僕は中将の眼の前に座った。中将は急須からお茶を注ぎ、コトリと僕の前に置いてくれた。


「ありがとうございます」

「なに、礼はいらん。訓練しているところに捕まったのなら朝食も食べれていないだろう、後でなにか軽く食べれるものを持ってきてもらおうか」

「いえいえ、どうかお構いなく…もともと朝はほとんど食べませんから」


落火に来る前はちょくちょく朝食を抜いては母や輝静さんに怒られていたのを思い出す。夜更かしをしては食欲がないからと朝食を断ると、その日の夜は本を全て鍵付きの部屋に仕舞われて強制的に早寝するよう仕向けられていたのだ。ふたりとも強情な人だったから今の僕を見たら眉を吊り上げて説教を始めるだろう。


「そうか?だが朝食は取ったほうがいい。腹をすかせてはなんとやらだ。食べれるときに食べるに越したことはなかろう。まあそれはさておき本題に入ろうか」

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