第35話 鍛冶士まかない
早朝、日々続けている体操を終えて食堂に降りると、すでに数名の冒険者が食事を始めていた。4、5名のパーティーが多く、男女比は統一性は無いように見える。人数は、なにかしら制限でもあるのか冒険者あるあるなのかも知れない。
「おはよう、ゲイン。朝食持ってきていい?」
「おはよ。お願いします」
他のテーブルへ配膳する途中、メイプルが声をかけてくる。両手には大人2名分のトレイを持っている。こんな早朝から手伝うとか本当に感心する。俺は親に料理作っても片付けとかしなかった。
一応、鉱石が入ったバッグを持っておっさんドワーフの店へ向かう。朝霧が少しだけ晴れてきた街は、通行人も少なく幻想な風景をたたえている。ヨーロッパの早朝とか言われても俺は信じてしまうかもしれない。
もちろん、目の前のホビットを見るまでは。
「てめぇ、やっと見つけたぞ!」
「うるさい!!!」
目の前にいるうっすらと記憶にあるホビットを殴り飛ばす。5mくらい吹き飛んだと思うが、威力はこないだより下げている。押し飛ばしたような感じだ。
悪いけれど俺はおっさんドワーフに会いたい。はっきり言おう、それ以外はいまは興味はまったく無い!!
「ひでぇ」
さらに別のところで聞いたことがある声がして振り向く。そこには予想通りアツシが立っていた。
「なんでアツシがソコにいる?」
俺はちょっと怒っていたのかも知れない。なんか魔族になったせいなのか、夢中になれるモノを邪魔されたからか判断はできない。
「デノームがやられたから仕返しに呼ばれた」
アツシは下手な言い訳はしておらず、俺に対して正直な対応は正解だと思う。
「分かった。それじゃぁ、アツシでも敵わないのは教えておけ。あと正直に話したお返しに教えておく。街道で魔物のせいにしているが、ギルマスも事情は知ってるからな。信用は大事だぞ、付き合う相手も考えないと泣きを見るぞ」
早足でスタスタとその場を去り、おっさんドワーフの店へ向かう。
◇◇◇◇◇◇◇
「おはようございます!!」
ガッツン。
目の前には施錠されたお店がある。・・・っていないんかい!!!
おっさんドワーフの体内時間なんて把握していない。ただ、鍛冶場も教えてもらえるみたいだし、気長に店の前で待つかぁ。スマホも無いし、ネットも読書もできない、なんて事を考えていると外に置かれたままの錆びた剣が目に付く。
「・・・やっぱりまだ現役で使えそうだよなぁ」
間違い無く錆びている。刀身も痛みが入っているはずなのに『斬れる』感覚がある。
『アナライズ』
○イルスの剣(片手剣)
状態:腐食(呪い)
斬れ味上昇(小)
耐久性向上(小)
呪いの剣って店先に置いておくモノだろうか・・・。誰か、そう子供とかイタズラしたら事故になるんじゃね?怖いはおっさんドワーフ。
「それはヒヤカシ避けだ。近所の住民には呪われてることを伝えてある」
俺が剣をジロジロ見ていたのを知ってか、おっさんドワーフは説明をしてくれる。
「あっ、あの、お名前を教えてもらってもいいでしょうか?」
「あ”ぁ!?・・・あぁ、言ってなかったか?ギブリだ」
「ジブリ?」
「ギ・ブ・リだ。もう二度と言わんからな」
デカイスタジオを連想させておきながら、意外と小さな器のギブリである(失礼)。店に戻るギブリに付いていく。カウンターの奥から少し歩き、裏戸になるのか外に出る。
「おぉ!!すげぇ」
目の前には試し斬りができる藁だったり、弓矢用と思われる的当てまである。店の前の作りだけ見ると、奥にこんなスペースがあるなんて想像できなかった。
「ふん、ここなら試し斬りもできるぞ」
「えっ・・・ってことは!!!」
「鍛冶炉を使いたいんだろ?そこの先にある」
ギブリが指す方向へ小走りで俺は向かう。アブリュート家の炉と同じような造りになっていて、ギブリの炉は周囲も含めて整頓されており、大事に使っていることがよく分かる。
「あの・・・良いんですか?」
「見せてみろ」
「えぇぇぇぇ!!!!どうしよう、今日打てると思ってなくて」
あまりの展開に頭がついていかず、ワチャワチャしているとバッグの中から大きめの鉱石が転がり落ちる。
「・・・これってミスリル鉱石?」
「おまえ、自分のバッグの中身も把握してないのか?」
俺はバッグを手にした経緯をギブリに説明する。ポルテ会長からの贈り物だと伝えると、呆れた顔でギブリが俺に声をかけてくる。
「まずは何があるのか確認しろ。それからだろ?」
ミスリル鉱石を見てギブリもテンションが上がっていた。さっきまでぶっきらぼうだったのが、嘘のように目が笑っている。口は・・・髭で分からん!!!
炉から離れた場所でバッグを開ける。ミスリル鉱石がかなりの数入っており、これだけで相当な額である。他にも魔鉱石、鉄鉱石、銅石などの鉱石や翡翠、針水晶など鉱石以外も入っている。バッグの中身を確認している間、俺は手汗でベッチャベチャである。正直、大金持たされるよりビビる。
「ゲイン、こりゃ、ポルテ会長に頭あがらんぞ」
「えぇ、正直、ここまで良くされる理由がわかりません」
「おまえ、絶対何かやってないか?悪いことなら俺は関わらんぞ」
すでに逃げ腰気味に話すギブリである。薄情というよりか、使途不明金みたいに高級鉱石をノラ魔族にあげる商会長なんて闇を感じるのには十分な要素である。
「絶対にやってません。鍛冶の神に誓います」
ジグさんに教わったのだが、鍛冶士が『鍛冶の神に誓う』時、それが虚偽の場合は二度と槌を触れなくなる。鍛冶士は武器・防具の売買、素材の取引など様々な場面で騙されることはあるが、『鍛冶の神に誓う』行為は鍛冶士の気高さを現しており、いまも敬意を払われている。
「わかった。すまんな疑って」
「いえ、ほぼ初対面なら当たり前です。僕が逆の立場でも疑いますよ」
鉱石を並べては何を作るか考え、装飾をどうしようかアレコレ想像を膨らませる。あまりに集中していたのか、気がついたときにはギブリもおらず、お昼になっている。
「結局腹時計で周りが見えるあたり食いしん坊を馬鹿にできない」
俺は持ってきた冷凍鳥(串打ち済)を魔法で解答し、裏庭で勝手に焼き始める。ギブリもまさか炉を使う前に囲炉裏を使われるとは思わないだろう。
「おい、なんか良い匂いすんな」
「すいません。あれこれ考えてたらお腹が空きまして」
ギブリが鳥串で釣れた。結構な大物なのでいっそ作るものの相談をする。
「考えているのが肉切りナイフ、万能包丁、あとミンチ用の叩く調理器具?」
「最後のは分からんが料理用ばかりだな」
「えぇ、ポルテ会長のところで料理人の方々と親しくなったんです。それで鉱石貰いすぎなので少し返しておこかと」
「魔族のくせに義理堅てぇな」
魔族のくせに・・・って確かにそうかもしれないが、アブリュート家の魔族は当主様を筆頭に結束している。でも、ギブリが言うくらい俺が人間臭いのかもしれない。元人族ですから。




