第36話 鍛冶士の包丁
「ほほぉ、いい研ぎだな。形状も包丁というよりも短剣に近い」
俺が一生懸命打ち終わった包丁を研いでいる横でギブリが感想を言う。今、それどころじゃない!!一心不乱で研いでいる最中だから!!
ギブリの感想に答えもせず、3本目の包丁も研ぎ終えた・・・。
「はぁ〜〜っ、疲れたぁーーー!!」
「おまえ、中々やるな」
「ありがとうございます。研ぎ中で何も答えず、すいません」
「あぁ、あれは答えてたら殴るとこだった」
『おい、ギブリそこに座れ』とか言いたい。言ってみたい。ただ、鍛冶炉を借りている上にアドバイスまで貰ったので言い返せない。
「おい、そんな顔で見るな。良く出来ている。胸張って渡せる品だ」
ギブリが手に持つ包丁はミスリル製で、柄は魔鉱で繋いだ物だ。
「ギブリ、ミスリルの包丁って見たことある?」
「ないな。世界でも最初の1本じゃねぇの?そんな阿呆な真似する鍛冶士も初めてみた」
結構な良いようだが、言葉と表情に温度差がある。明らかに嬉しそうな顔をするギブリに自分の出来に自信が持てる。
「まぁ、3本とも良品だ。作りも微妙に変えているし、料理は知らんが用途別・・・か?」
「う〜ん、最初はそう考えてたんだけれど、料理人の癖によって使うの変わるかなぁと」
「作ってる最中に変わるのは大体が正解だ」
俺が迷っていることを的確に見抜き背中を押してくれる。とりあえず鞘は後だなぁ、今日は余力がまったくない。
「ほれ、これでも使え」
ギブリから竹(?)っぽい素材の鞘が投げつけられる。これって俺の・・・ギブリ、仕事早っ!!!
「ギブリパイセン、ガチでヤバッ!!」
「意味がわからんぞ。包丁に合わせといた。料理人なら衛生面も大事だろう、それなら換えもきく」
すげぇ。俺が包丁つくるときに懐疑的だったのに、作り終わったらサイズピッタリの鞘。どうやったらアホみたいな(失礼)スピードで作れるんだよ。アホクオリティ。
ギブリに頭を下げ謝意を伝えると「肉串のお礼だ」と言われ手を振られる。出来上がった品を胸に宿へ戻った。
◇◇◇◇◇◇◇
翌日、ポルテ商会に向かう。ポルテ商会は賑やかな通りに面した商人ギルドの2軒隣りにある。
「すいません、カルビン料理長かルーフィス副料理長いらっしゃいます?」
商会の受付嬢に話しかけるとビクッと両肩をあげて驚くも、すぐに後ろの男性に声をかける。男性も慌ただしく奥へと向かっていった。まだ仕込みには早いし、料理人呼ぶのが珍しい・・・のか?
「おぉ、待たせたか?」
「いや、呼んでねぇし!!」
なんでポルテ会長が来るんだよ!!イヤだよ、受付嬢がキョドったのそれが理由かよ!?俺に惚れてるかと思ったのバカじゃねぇの!!いや、モテてねぇし。俺、モテたことないし。
「どうしたんだ、ゲイン」
「いや、なんでも無い。だが、呼んで無い」
結構酷い話である。商会長自らが時間を割き、会いにきてくれた・・・。普通ならありえないほど優遇された対応だが俺はそこまで頭が回らなかった。宿に戻ったときに心のなかで土下座したのは言うまでもない。
「で、誰に用事だったんだ?」
「・・・あっ、カルビン料理長かルーフィスさんがいらっしゃればと」
鞄から包丁を3本出すとき、護衛のゴツイ男2名がポルテ会長の前に出ようとする。ポルテ会長はそれを先に制し、目で護衛に語りかける。包丁はそのまま護衛に渡され、奥の個室へ案内される。
「ふむ。抜いてかまわぬか?」
俺が返事をする前にテーブルに置かれた1本をスッと引き抜く。ポルテ会長の所作が滑らかで、武器の扱いになれていることが分かった。
「おや、意外かね?おぉ〜、これは凄いな」
ニヤリと悪い顔をするポルテ会長が快活に笑い声をあげる。商談じゃないからね、そういうの満足してるから。お返しだから、ポルテ会長じゃなくて料理人たちへの!!
「ミスリルの包丁なんてどんな道楽だよ」
後ろの護衛が声を漏らす。
「おい、てめぇ。今なんて言った?」
気がついたらキレてた。怒気も普段抑えている魔力も漏れ始める。
「キャッッ!!」
給仕をしていた受付嬢が悲鳴をあげティーセットを落とす。落下する直前で俺は水魔法で割れるのを防ぐ。
「すいません、ポルテ会長。大変申し訳ありません」
ソファから素早く立ちあがり深くお辞儀をする。視界に入るポルテ会長の革靴、なかなかに造りが良いと思える程度に冷静さを取り戻す。
「貴様が謝らんか!!」
静まりかえった部屋でポルテ会長の怒号が響く。思わず俺がビクッッ!!となり、体を起こす。なんつー怒気を放つんだ、このオッサン。
「・・・謝罪せよ。二度も言わせるな」
「すっ、すいませんでした」
護衛A(失礼ではない)が俺に頭を下げる。護衛Bは不満そうな雰囲気を隠そうともしていない。そっちの基準とこっちでは世界が違う。無理に好きになる必要はないが、理解する程度には歩み寄れ。
「二人とも下がれ」
「しっ、しか」
「分からぬか!!!」
遂にポルテ会長に部屋から追い出された。給仕していた受付嬢は俺に「私もですか?」と緊張した表情と目で訴えてきたが、水魔法を維持したまま落ちたティーセットをゆっくり手元へ運ぶと笑顔になった。
「モテるぞ、これ。勘違いしてて良いぞ」
ニヤニヤニヤニヤしてんじゃねぇ!!!勝手に心覗く奴ら多すぎだから。もっと減らせ。
ポルテ会長もソファに戻り俺にも座るよう促す。一言詫びてから席に着いた。
「ゲイン、すまなかった。商会長としてこの通り謝る」
ポルテ会長がテーブルすれすれまで頭を下げ、俺は慌てて頭を上げるよう伝える。
「本当にすまんかった。お前の気持ちを側近さえ汲み取れぬとは・・・。心からの謝罪と情けなさでいっぱいだ」
頭をあげてからもポルテ会長は俺に謝罪を伝える。俺はもう手を振ってそれに応えるだけだ。
「話をだいぶ戻すが誰にあげるつもりだったんだ?」
「う〜ん、誰ってことはなくて、カルビン料理長とルーフィスさんに決めてもらえればと」
「おまえ、そりゃ料理に血が混じるぞ」
打って変わって爆笑するポルテ会長。やっぱり怒ってるよりも笑ってる方が似合う。ガチ怖ぇもの。
「だが、ほんとうにどうする?」
「えぇ〜、ポルテ会長決めてよ」
「う〜、私が決めると遺恨が残るからなぁ」
ポルテ会長が珍しく腕を組み、天井を見上げる。判断で迷うようなことなのか?
「ゲイン、おまえは甘くみている。断言できる、アイツらを甘く見過ぎだ」
それから暫く唸り声を上げていたポルテ会長が顔をあげる。
「ゲイン、おまえが競うゲームを考えろ。その上位3名に贈呈する。決まりな!」
自分のアイディアでドヤ顔するポルテ会長、包丁3本も預からしてもらうといそいそと胸に抱える。部屋を出る前に振り返ったポルテ会長は、料理人たちに包丁を見せても良いか?と確認してきた。もちろんオッケーを出すが、事前に許可なく見せても良いと思う。義理堅い会長である。
「一週間以内に連絡を寄越せ。それまでは押さえ込むから」
ポルテ会長は別れ際に謎の言葉を残した。俺は与えられたゲームをどうしようか、今度は俺が腕を組みながらギブリの武器屋へ歩き出した。




