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 警戒するなと辺境公爵様。クッションに肘を置いて頬杖ついてこっちを見たって駄目なんだからね!

 笑って悪かったと言いながら、笑われる自覚があるのかとルードルフ様。笑ってもキラキラ。

 何なんでしょう、この二人。

 ジークの体を前に出して、後ろへと身を捩じ込む。ぐっと引っ張ったジークの腕を盾にして、改めてじっと見る。


「君の献上した絹が、そう呼ばれてると知らないのかい?」

「情報が遅いな」

「上質な絹は今までにもある。が、あれだけの軽やかさを持った絹は無いとね、王宮では噂でもちきりだよ。私は、あれを、娘の花嫁衣裳にしてやりたい」

「でも…」

「量産はまだ出来ないが、年三着分は献上が決まった」


 そうだねと念を押されたから頷く。


「フェアリーシルクの事は、ミシェイラ嬢が全権利を持っている」


 それには、ん? っと首を傾げた。


「そこからか…。祖父殿は、出発前の席で公表するつもりだったのだろう。予定通りにはいかなかったが…。兎に角。生産も販売も、全てが君の手の中だという事になる」

「ふぇ?」

「それでだ。似た様な条件のある我が領地でも生産が出来ないものかと思ってね。領地で生まれた物で、それが美しい物ならば、是が非でも作ってやりたいからね。それでご招待をとなった。何時来てもらってもいいが、帰るついでだと思ったのでね」


 そうか、そうだよね。その方がよっぽど分かりやすい。

 怪しい子供好きな訳でも無い。裏は有っても娘さん理由。お客さんであり生産地候補希望。

 そうか。お祖父様は、領地と同じに見て来なさいって事なんだ。


「辺境公爵様は、ドレスを作る事が希望ですか? 期限ってありますか?」


 期限大事。婚期というものがあるからね。間に合わなければ、 になる。

 辺境公爵様は、指を二本立てて見せる。

 二年ですか? 二ヶ月とかじゃ無いですよね? それとも、二十年計画?


「来年二月。無論ドレス希望だ!」

「ぴょえっ?」

「一番上の娘が嫁ぐのに、是が非でも間に合わせたい。王宮で君に会ったのは運命だったのだ」


 すみませぇ~んっ! 無謀な思考の持ち主がここに居ます!

 今回献上したのは、昨年取れた物と今までのを合わせた分だ。ただでさえ、個体差か環境か、色の濃淡にムラがあって一着分を揃えるのが大変だっていうのに。無茶言わないで下さい。どれだけの繭が取れるかなんて、今は運任せなんですよぉーっ!

 頭の中の人間目録に、辺境公爵様は残念なおじ様と記入をする。


「蛾の吐いた糸なのに…」


 つい口に出せば、ルードルフ様から残念な目で見られる。残念なのは、辺境公爵様ではないかしら?

 ちなみに、糸にするなら、私は綿花が好き。ぽわんふわふわもこもこだもの。


「ミシェイラ嬢は、妖精のゆりかごというのを知っているか?」


 プルプルと横に首を振る。


「虫は、外側から内側に向かって繭を作る。だから、繭の中には、当然その虫が居る筈。なのに、中身の無い物がある時がある。なら、中身は何処へ行ったのだろう?」


 難しい質問だ。


「腐って、溶けた?」

「ぶはっ!」


 王子ぃ。王子っぽくない吹き出し笑いはやめようよ。


「そういう物も、ある、かもしれない」


 っていうか、そういう物なんじゃ無いの?


「だが、その中の幾つかは、不可思議な物もあるんだよ」


 ジークは知ってる? って、肘をつんつんと引っ張ってみる。

 御伽の話しとして文字を覚える時に、と言われた。

 さて…。私は、その様な物を読んだりしただろうか?

 ルードルフ様は? そういう絵本とかでお勉強したのかな?


「精霊とか、妖精と呼ばれる物の祝福があるものがあると、学ぶ筈だが?」

「そんな事、学ぶの?」

「家庭教師は? 教わらなかったのか?」


 家庭教師に教わるものなのか。

 取り敢えず教わって無いし、今は居ない。

 そもそも、家庭教師と折り合いが悪くて私は逃げ回っていた。と言うか、自主学習に夢中だった。反抗したら、鞭打ちで、三度叩かれたところで、先生とはさよならした。

 遊んでサボってる訳じゃ無いのに、鞭打ちは、お祖父様も許せなかったみたい。

 私の求めるものを教えつつ、従来の勉強に持っていかなかった先生が悪い。少なくとも、計算が出来る様になりたくていたのを、今は必要無いと言う先生は要らない。

 それが、七歳の時だ。

 先生が教えようとして、私が知らんぷりした事の中にあったのかな? それって、学んでないと、駄目な事なの?

 七歳で家庭教師がいなくなった過程を話したら、私以外がしょっぱい顔をした。

 

「ミシェイラは、何で文字を覚えたんだ?」

「植物図鑑?」


 記憶に古いのは、それな気がする。


「その次は、昆虫図鑑だった気が…」

「家庭教師を交わして勉強してた事は何だ?」

「魔石と呼ばれる石の取得条件?」

「何でそんな事、調べようと思ったんだよ」

「私が、初めて山繭を見つけた時に、ちっちゃい物だけど幾つか拾ったの。売ればお金になるし、自分達で使っても便利だから」


 そう言ったら、ルードルフ様がため息をついた。

 何で?


「魔石を手に入れる方法は、簡単に二つ。魔獣を駆除するか、自然に出来た魔素溜まりで拾う。ミシェイラの言ってるのは後者。そういう場所は、精霊が好むって言われてるんだよ」


 へ、へぇ。二つの条件は、調べた通りだね。でも、本には、精霊が好むなんて書いてなかったよ? でも、それがどんな関係があるの?


「そういう場所で取れた物には、祝福のある物があるんだ」

「だから余計に、送ってやりたいんだよ。嫁いだ先でも、幸せになる様に。ミシェイラ嬢の着ていた服は、絶対、祝福がかかってると思う。じゃなくては、あの場の貴族達全員が好意的だった説明がつかない。好意的という事は、娘の門出は順風満帆。向った先に敵無し。何より、あの絹で仕立てたドレスで、ただでさえ綺麗な娘なのにもっと美しくなると思うと…。くぅ。嫁ぎ先だって、絶対粗略には扱えない。私の全力で送り出すんだ、そんな事させない。その為なら私はどんな事でもしよう!」


 イケてるおじ様が、饒舌になってでれっとなった。

 想像の中のお嬢様は、きっと綺麗なのだろう。何が言いたいかは、あんまり分からなかったけど、「綺麗」と「祝福」が大事な事なんだって事は伝わった。

 ルードルフ様は、残念な視線を辺境公爵様に向けた。その方が、お父様になるんですね。子煩悩なお父さんで良かったですね。

 そんなこんなで、お昼の休憩の為に馬車が止まる。

 辺境公爵様と言うのは堅苦しいので、ディウォルトと呼んでくれと言われた。なんなら、ディ様でも良いそうです。

 お昼ご飯が食べ終わる頃には、辺境公爵様改め、ディウォルト様とは打ち解けていた。「ディ様」「ミシェ」と、呼び合うくらいに。

 気さくでイケてるおじ様は、他所の子にも、面倒見の良さを発揮してくれた。

 おかげで、お腹はパンパンで苦しい。

 この辺は、まだ道がいいので酷い揺れは無い。と、くると、次に来るのは眠気。私は、馬車が動き出すと直ぐに寝落ちしていた。

 

今話も、お読み頂きありがとうございました。

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