交わらない君と僕。今いくよ僕は流れ星
25話27話を少し書き換えました
ビーチで遊んでいたら夕方になった。
「じゃあクレタも一通り満喫したことだし、先に進もうか」
「そういえばクリス君、私たちって今どこを目指しているの? 」
「「ここじゃない何処か」だよ。リザ」
「この旅ってそんな哲学的な何かだったの!?」
「そうだよ」
この旅に目指す場所なんてない。
僕があの場から衝動的に逃げて、逃げて、逃げた先が今だ。
「じゃあ、これから長時間身動きが取れなくなるから、今の内にシャワー浴びて来ておくれ」
「? それってどういうこと?」
「今から「アトランティス」行きの夜行魔道具に乗るよ」
「水の国アトランティス」。水の国というだけあって周囲を大河で囲まれた国だ。
またキリシア帝国と隣接した「国」である。
しかし、現状キリシアに植民地支配されており、名前を失い「キリシア」になるのも時間の問題だ。
その前に辿り着き、僕は当初の目的の「この国を出る」を達成する。
「お兄様、夜行魔道具って何ですか……?」
ああ、アイラは初めてなのか。(僕も夜行「魔道具」は初めてだけど)
「長距離移動魔道具だよ。ただし、結構な気力と精神力が必要なね。大丈夫、寝たら「勝ち」だから」
「 ? 私乗ったことあるけど別に快適だったよ」
「リザはどこでもすぐに寝れるからじゃないか?」
「違うよ! ほんとに快適だったもん!」
……
停留所で暫く待つと、長さ12m、高さ3m、幅4mくらいの巨大な魔道具が到着する。
中に入ると中央の通り道を隔てて、2列づつ座席が計4列奥まで続いている。席は
僕 リザ
前 アイラ レナ 後
となった。
全ての乗客が着席すると夜行魔道具は動き始めた。
あれ?
乗った時は運転席には誰もいなかったし、僕が着席してからも誰も運転席に乗ってなかったような。
僕は運転席の方を覗き込む。
そこには誰も乗ってなかった。
ま……まさか自動運転か……?
魔術を応用すれば自動運転まで可能なのか?
いや、道順が決まっていれば詠唱式をそれ用に作れば同じ動きをするし、式に周囲の情報に対する制御反応を組み込めば、障害物も避けることができるから、可能か。
むしろ、魔術があるのに自動運転が無い方がおかしいか。
それにしてもこの夜行魔道具、動作音もしないし、それどころか物音一つしないような……。
「……! ……!」
アイラが僕に向かって口パクで何かを言っている。
喋ってるのか……? でも、何を言ってるか全く聞こえない。
「アイラ、どうしたんだ?」
「…………」
アイラは口を動かしているが、何も聞こえない。
どうしたもんかと思っていると、アイラと僕を隔たる手すりに意味深なスイッチがあるのに気づく。
僕はスイッチを押してみる。
「……様! お兄様! 聞こえますか?」
「今聞こえたよ」
この座席にノイズキャンセルの魔術がかけられていたのか。座席の隔たりのスイッチを押すことで、僕-アイラ間のノイズキャンセルが解かれたらしい。
「この椅子、周囲の音が聞こえ無くなる魔術がかけられてるみたいだね」
リザが快適と言っていたのに納得がいった。
これなら周りの人間のイビキも魔道具の動作音も聞こえないから眠りの妨げられない。
おまけにこの魔道具、現実世界のそれより幅が広いため窮屈さを感じない。
これならぐっすり眠れそうだ。
「すごいね、この魔道具。このスイッチ押したら僕とアイラの音の隔たりが無くなっちゃったから、また押して切り替えるね。おやすみアイラ」
「ま……待ってください!」
「ん?」
「その……このままがいいです……」
「え!? アイラの寝息とか息遣いを僕は近くで聞いても良いのかい!? 」
「なんでそういうこと言うんですか……」
「冗談だよ。音だけでも、2人きりのロマンチックな世界を過ごそう」
「冗談に冗談を重ねないでください……」
アイラが膨れっ面のジト目で僕を見る。
冗談じゃなくて照れ隠しなんだけどね。
その後、音の隔たりは作らなかったが、僕たちは特に何も話さなかった。
けれど、そこに2人だけの世界があるだけで心地良かったんだ。